レポート
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11月5日(米国現地時間)の大統領選挙で、共和党のトランプ氏が当選した。第1次政権では内部からパリ協定留任を支持する声があったにもかかわらず、2017年6月の大統領演説で脱退を表明した。2025年に発足する第2次トランプ政権は温暖化対策などの環境政策に否定的な立場をとるあまり、パリ協定だけの脱退にとどまらず、その前提となる国連気候変動枠組条約(UNFCCC)からの脱退の可能性も指摘されている。

2025年は日本にとって、大きな節目の年になる。終戦直後に生まれた団塊の世代が全員75歳以上となり、「重老齢社会」が始まるためだ。少子高齢化をはじめとした社会課題を解決するにはイノベーションを加速させることが不可欠になる。海外に目を向ければ、米国ではドナルド・トランプ氏の第2期政権が1月に発足する。トランプ次期大統領の米国第一主義によって、安全保障や気候変動対策など国際協調が必要な分野で日本は決断を求められる。持続的な成長に向けて何をすべきか、企画「2025年の論点」として順次レポートを公開する。

2025年は雇用やデジタル、経済安全保障などの領域で制度が変わる 。企業や働き手に影響を及ぼすと思われる主な法律をDTFAインスティテュートがピックアップし、施行時期や内容を整理した。

企業が人手不足に対応するために賃金を引き上げる傾向が強まってきた。厚生労働省の調査によると、企業は賃上げにあたって、雇用や労働力の確保・維持を重視する姿勢を強めている。女性と高齢者の就労増では労働需給を補うのが困難になったことが賃上げにつながっている可能性がある。余剰労働力が底をつき、賃金が上昇する「ルイスの転換点」に似た状況になってきたのだろうか。

近年、クリーンエネルギーに対する見方は大きく変化した。かつては環境、ESG, サステナビリティなど、環境保護や社会的責任に寄与する点が強調されていたが、今や、投資、雇用、成長、エネルギー転換、イノベーションなど、経済・産業・安全保障的な視点が色濃くなっている。米国内のクリーンエネルギー投資促進を目指しバイデン政権下で成立した「インフレ削減法」(Inflation Reduction Act of 2022、以下IRA)は施行2年目を迎えた。連邦議会での承認を得るための修正や妥協で予算規模は当初想定よりも縮小されたが、2031年までのエネルギーインフラ整備、製造業の競争力向上、気候変動対策強化の実現に予算的な道筋をつける画期的な法律であった。11月初旬の大統領選で第二次トランプ政権の誕生が確定し、環境・エネルギー政策を含め米国に大きな方針転換が見込まれる中、IRAの成果と課題を経済面から検証し、日本のグリーントランスフォーメーション(GX)政策への参考としたい。

2023年4月に、政府は産業データ連携のイニシアティブ「ウラノス・エコシステム」の立ち上げを宣言した。これに伴い、車載バッテリーについて、温室効果ガス排出量を明示するカーボンフットプリントのデータを共有するプラットフォームが2024年5月に始動した。背景には欧州電池規則への対応があり、欧州ではGAIA-Xに関連した自動車業界のデータスペースCatena-Xが推進されている。経団連は10月に産業データスペース構築の促進に向けた提言を発表し、注目度が高まっている。規制対応に留まらない経済的なメリット創出、企業の対応力強化、国際協調など、議論すべき点は多い。2025年以降、官民連携によって産業の競争力強化に貢献するデータスペースの社会実装が進むことを期待する。

世界的なカーボンニュートラルの潮流とエネルギー安全保障上の議論を踏まえて、日本政府は2023年、「GX実現に向けた基本方針」を取りまとめた。10年間で官民計150兆円超のGX関連投資を生み出すことが柱。20兆円の政府支援をテコに、民間部門を中心に130億円規模の投資誘発を目指す(図表1、2)。 しかしながら、政府支援以外のGX投資資金を民間企業がどのように工面するのかという議論はこれまで、ほとんど行われていない。政策金利の先行きが不透明な中、企業が巨額の資金調達をすれば利払いなどのリスクが大きくなる可能性がある。企業がGX投資を控えれば、150兆円の目標達成は苦しくなる。 本レポートでは、海外での内部留保を国内還流させれば税制面で優遇する「レパトリ減税」を政府が使途限定付きで導入した場合、日本企業が海外で積み上がった留保資金をGX投資に振り向ける可能性があるか考察する。その一環として2017年12月に米トランプ政権下で成立した大規模減税政策「Tax Cuts and Jobs Act(TCJA)」がどのような経済効果を生み出したかについても検証を試みる。

日本政府は物価と賃金との好循環を通じたデフレからの完全脱却を政策目標としている。企業にとっても2021年末から続く物価上昇に消費者がどのように適応しようとしているのかを的確に捉えることは重要である。そこで本稿では四半期ごとのシリーズとして、公的統計や消費動向を手掛かりに、小売・外食をはじめとしたB2C企業へのインプリケーションを示す。 現状、消費者は値上げ疲れの様相を深め、物価に応じて賃金も上がるとの確信も持てていない。年金生活者を筆頭に、日本の総世帯の約60%は物価上昇の影響を強く受けている。そのため、消費者の価格選好性がB2C企業の事業戦略を左右する形となっている。原材料費、人件費、電気代、物流費をはじめとするコストを製品価格に転嫁しにくい状況下で今後、価格競争が加速する懸念もある。 さらにリスク要因として、インバウンドをターゲットとする宿泊や飲食などの産業が、高収益をテコに人手を引きつければ、労働集約的な構造を脱却できない企業の収益機会はさらに奪われかねない。このように外部環境が変革を求める中でB2C企業は短期では、コスト競争力のさらなる強化を通じた資本集約と、価格コントロール力の構築を進める必要がある。中長期では「客数×客単価型」ビジネスからの転換が求められよう。

10月27日に投開票された衆院選では、自民、公明両党の与党で過半数(233議席)を確保できるかが最大の焦点だったが、与党は64議席を減らし過半数に届かなかった。石破茂首相(自民党総裁)が掲げた「勝敗ライン」に達することができず、政局が流動化する事態も想定される。本レポートでは、石破政権を待ち受ける政局シナリオを整理したうえで、経済政策運営への影響を見通したい。

政府の「スタートアップ育成5か年計画」も追い風になり、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)に取り組む事業会社は増加している。しかし、新規事業創出や新技術獲得という目的の達成には難航しているケースが多い。海外で先行している企業は、経営環境の変化に対応した事業ポートフォリオの再編、最新技術の取り込み、新たな成長事業の確立などに際してスタートアップと連携し、持続的な成長に繋げている。米国の大手テック企業に限らず、伝統的な業種でもこうした成功例が多い。海外との比較を踏まえ、日本企業に、①大胆な規模拡大、②スタートアップとの相互利益獲得、③グローバル化を提言する。これらの戦略が好循環を生むことで、スタートアップとの協業によるオープンイノベーションが加速すると考える。