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最適化された社会は、私たちから何を奪うのか

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総合

白土 学

AIやアルゴリズムの進展により、企業や個人の意思決定の効率化が進んでいる一方、人的資本や企業文化、ブランドといった無形資産を生み出す土壌が失われつつある。必要な情報や人へ最短距離で到達できる社会では、その合理性の反面、偶発的な出会いや対話、新たな気づきが生まれる機会は減少している。廊下での立ち話や部署を越えた雑談などから生まれるセレンディピティは、新たな発想だけでなく、組織への愛着や企業文化の形成にもつながる。実際に社員寮を人材育成の場として再定義し、自然な交流を促す環境づくりに取り組む企業も現れている。無形資産への投資と企業価値の関係を説明する重要性が高まる中、求められるのは指標の整備だけでなく、接点や対話、創発が価値へ転化する仕組みの把握である。こうした課題への対応策として提唱されるのが「MX(Margin Transformation)」だ。偶発的な接点や対話、創発が生まれる条件を組織に組み込み、無形資産の生成基盤を再設計する考え方である。AIにより模倣可能性が高まる時代、企業価値を左右するのは、文化や関係性、ブランドへの期待といった見えにくい資産をいかに育み、可視化する経営である。

テクノロジー企業の債務と経済見通しへのリスク

Web版

経済

Ira Kalish

米国の大手テクノロジー企業による社債発行が急増している。主要ハイパースケーラー6社の2026年上半期の発行額は約2,500億ドルに達し、2025年通年や過去5年間の累計を上回る規模となった。背景には、AI向けデータセンター投資の拡大がある。設備投資はフリーキャッシュフローの約94%に達し、潤沢な手元資金だけでは需要を賄いきれなくなりつつある。こうした資金需要の増大は社債市場への依存を強める一方、市場の吸収力への懸念も高めている。社債利回りは米国債に対して上昇しており、今後も追加発行が続けば市場の需給環境に影響を及ぼす可能性がある。AI投資のリスクは従来株式市場で論じられてきたが、今後は企業の債務返済能力も論点となり得る。国際決済銀行は、AI関連企業のレバレッジ上昇に警鐘を鳴らし、AIへの楽観論が後退した場合には金融市場や関連サプライヤーに深刻な影響が及ぶ可能性を指摘している。さらに米国株のCAPEレシオはドットコム・バブル期に次ぐ高水準にあり、企業評価の大幅な調整が発生した場合、家計資産や消費を通じて大きなマクロ経済的影響をもたらす可能性がある。

策定浸透の先のパーパスが機能している状態とは (後)

Web版

総合

額田 康利

パーパス経営が機能するためには、企業ごとに異なるパーパスバグの原因を見極め、それに応じた対策を講じることが重要だ。「化けの皮型」では理念先行で高まった期待と実態の乖離を埋めるため経営者が進捗や現在地を継続発信し、適切な期待形成を促す必要がある。「言葉足らず型」では抽象的なパーパスを再策定するのではなく、部門や職位ごとに再解釈し、自社の戦略や行動との結び付きを具体化することが求められる。「絵空事型」では、新規事業やM&Aなどの行動を示し、実効性への信頼を高めることが重要となる。「誰やるの型」では、変革を体現する人材像を明確化し、その挑戦を評価・登用する仕組みを整える。「知る人ぞ型」では、企業イメージと目指す認識をつなぐコミュニケーション設計が求められる。「ゆでがえる型」では、社内外との対話や調査を通じて経営層が環境変化や危機の兆候を認識し、自社らしさを維持しながら理念を再解釈することが重要となる。自社がどの類型に該当するかを見立て、多様な立場の社員との対話による認識共有は、機能不全解消の第一歩である。

策定浸透の先のパーパスが機能している状態とは (前)

Web版

総合

額田 康利

パーパス経営は企業価値向上との関連が指摘され、多くの企業が経営戦略や人事施策への落とし込みを進めている。一方で、理念を掲げても事業への反映や社外評価の変化につながらないケースは少なくない。本稿では、パーパスが機能している状態を、事業戦略や組織文化に体現される「内的一貫性」と、企業の実態とパーパスが外部ステークホルダーに一致して認識される「外的一貫性」の両面から整理する。パーパス、事業戦略、組織文化、パーセプション(社外からの認識)の四要素が整合することで、企業成長への期待や購買、投資、就職、協業といった行動の後押しにつながる。一方で、これらの要素の間に生じるひずみを「パーパスバグ」と定義し、その状態を六つに類型化した。理念先行で実態が伴わない「化けの皮型」、抽象的で浸透しない「言葉足らず型」、実現可能性が低い「絵空事型」、実行段階で停滞する「誰やるの型」、変革が社外に伝わらない「知る人ぞ型」、環境変化によって整合性が崩れる「ゆでがえる型」である。自社がどの類型に近いかを見立てることが、パーパスを機能させるための第一歩となる。

米連邦準備制度理事会(FRB)の方針転換がもたらす示唆

Web版

経済

FRBは政策金利を据え置いたが、金融政策運営を巡る姿勢の変化が市場の焦点となっている。新議長ケビン・ウォーシュ氏はフォワードガイダンスに否定的な見解を示し、市場が中央銀行の発言ではなく実体経済のデータに基づいて価格形成を行う環境を重視した。一方で、透明性の後退や不確実性拡大への懸念も指摘されている。FOMC参加者のドット・プロットでは利上げ見通しが優勢となり、先物市場でも追加利上げ観測が大幅に強まった。背景には、PCEデフレーターとコアPCEデフレーターの上昇が示す根強いインフレ圧力があるとみられる。他方、5年物ブレークイーブン・インフレ率は急低下しており、FRBが物価安定を優先し必要に応じて金融引締めを実施するとの市場の信認が反映されていると考えられる。ウォーシュ体制は、バーナンキ時代の透明性重視から、グリーンスパン時代を想起させる裁量的な政策運営へ接近する可能性がある一方、低下するインフレ期待は長期金利の抑制を通じて信用市場を支える要因となり得る状況である。

世に問う

所有と利用のはざまで――サブスク社会をどう生きるか

Web版

伊東 真史

サブスクリプションは、必要なときに必要なものを利用できる柔軟な仕組みとして急速に浸透し、所有しない暮らしを当たり前にした。住居や自動車、音楽、家電まで月額課金で利用できる社会は、初期費用や維持管理の負担を軽減し、多様な生き方を支えている。一方、その利便性の裏では、資産を持つための蓄えや投資余力が失われ、将来の選択肢が狭まる危険も見え隠れする。さらに社会インフラや保障制度までサブスク化が進めば、生きるために必要なサービスへの支払いが常態化し、利用する者と所有する者の格差は一層拡大しかねない。住宅や土地、インフラ、知的財産、AI基盤など、利用の前提となる資産は必ず誰かが保有している。便利さに身を委ねるあまり、所有し育て守る意識を失えば、経済的な豊かさだけでなく、知的自立や社会の主体性までも手放すことになる。利用の自由を享受しながらも、何を所有し次世代へ引き継ぐのか。その選択は個人の家計にとどまらず、企業や国家の競争力、社会全体の持続可能性にも直結する。利用の快適さと所有の責任、その均衡点を見極めることが、これからのサブスク社会を生き抜く鍵となる。

DTFA Times|一目未来

働き方改革という言葉が誕生してから十年が経った。その流れの中で、労働基準法大改正の議論が今も継続している。フリーランスやテレワークなど、多様化する現代の労働のあり方に合わせた制度の調整が進み、さらに日本は働きやすい国となっていく。▼労働者と使用者という概念が存在する。雇われる者と雇う者。立場の違いを踏まえ、特に雇われる側の権利は法律で守る必要がある。「使用者責任」という言葉が示す通り、使用者については権利よりも課される義務が増え、働き方改革もその延長線上にある。▼この十年間の働き方改革の発展の中で、労働者と使用者が対峙する構図の矛盾が浮き上がっている。そのように感じる瞬間がある。M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)の現場においても、使用者とみなされる管理監督者の定義がしばしば議論される。労働者は昇格・昇進により管理監督者となり、使用者側に回る。一度使用者となるや否や様々な責任を負わされ、働き方改革を実装する立場に変わる。昨日までの労働者は明日からの使用者なのか。使用者当人の働き方は改善されるのか。そびえ立つ責任が割に合わないと管理職を避ける人が多くの企業において増えていると耳にする。それは一億総活躍社会という働き方改革の原点で掲げられた理想の姿なのか。解釈の難しいところである。▼法律を踏まえて実社会における正解を導くのは民間の役割である。日進月歩の技術革新、企業文化や制度の修正など様々な試みはこれからも行われていくだろう。次の十年は、こうした矛盾の可能性を見据えたさらなる改革が成し遂げられることを願う。(パートナー 吉田修平)

WEDNESDAY, SEPTEMBER 2, 2026

デロイトトーマツ|TIMESロゴ

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総合
general

人的資本がもたらす企業価値の真価

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人的資本投資は企業価値向上を支える重要な成長投資と位置付けられる一方、日本企業は諸外国に比べ投資水準が低く、人材への処遇やダイバーシティ、健康投資などの面で課題を抱えている。こうした状況を踏まえ、2026年1月から人的資本可視化指針改訂に向けた意見募集が開始された。改訂では国際基準の動向を踏まえ、企業が必要とする人的資本と、それに対する働きかけを区別して整理し、経営戦略と人材戦略を連動させる視点が重視されている。日本企業の開示は、育休取得率や女性管理職比率など個別指標に偏り、戦略との結び付きが十分に示されていないケースが多いとの分析もある。一方でESG連動型役員報酬の導入は進展しており、人的資本を企業価値創出の源泉として捉える動きも見られる。今後は経営陣と人事部門、企業と投資家、企業と労働市場の対話を強化し、人材戦略を経営戦略と一体で運用するとともに、人材の成長機会やエンゲージメント向上を通じて持続的な企業価値向上につなげることが重要である。また、戦略とKPIを結び付けたナラティブな情報開示も求められている。

経済
economy

人工知能(AI)が東アジアの経済成長を加速させている

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中東紛争に伴う原油価格上昇はアジア経済の重荷となっているが、AI関連需要の拡大がその影響を一部相殺している。韓国ではAI向け高性能半導体の輸出が成長を牽引し、2026年第1四半期の輸出は前年同期比139%増となった。韓国銀行は、AI関連半導体チップの輸出が2026年の実質経済成長率を0.7%ポイント押し上げ、原油高による0.4%ポイントの押し下げ効果を上回ると予測している。加えて、政府の追加予算もGDPを0.1~0.2%ポイント押し上げる見通しである。一方、造船業や鉄鋼業、石油化学工業はコスト上昇圧力に直面している。台湾でもAI需要が経済成長を支えており、2026年の成長率は9.6%と過去16年間で最高水準が見込まれる。世界最先端の半導体生産を担う台湾では、輸出が39.8%増加する見通しで、成長の主因となっている。他方、成長は外需主導であるためインフレ圧力は限定的とみられ、台湾中央銀行は政策金利を据え置く可能性が高い。AI関連サプライチェーンへの参画が、資源価格上昇の影響を左右する重要な要因となっている。

社会
society

「トモダチ」が拡げる量子共創の輪

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小林 明子

2026年6月、量子技術イノベーション拠点(QIH)主催の「グローバル量子トモダチの会 2026」が東京で開催された。イベントには英国、米国、イスラエル、豪州、フランス、韓国から量子スタートアップや量子特化型VCが集結し、量子コンピュータ、制御技術、ソフトウェア、量子ネットワークなど最先端の取り組みを紹介した。QIHは日本の量子イノベーション戦略の中核として、産官学連携による研究開発や人材育成、実証、オープンイノベーションを推進しており、理化学研究所と大阪大学が開発する純国産量子コンピュータ「叡」やスーパーコンピュータ「富岳」との連携も進めている。登壇各社からは日本企業との協業事例や量子技術の実用化に向けた成果が示され、日本市場への高い期待も語られた。政府による継続的な投資や研究基盤の整備を背景に、日本は量子技術の重要な拠点として存在感を高めつつある。イベントを通じて生まれた新たなつながりは、日本と世界の量子エコシステムを結び付けるとともに、量子時代に向けた産業実装や共創ビジネスの創出を後押しする契機となりそうだ。

イノベーション
innovation

新たな知財部門機能の探求|知財活動の可視化

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濱田 智久

生成AIの普及により、知財部門には特許出願や調査などの効率化にとどまらず、従来の権利化・管理業務を超えた役割が求められている。研究開発部門に対しては、技術と市場の両面から情報を提供し、研究成果が事業化に至るまでの「魔の川」や「死の谷」を越える支援が期待される。事業部門に対しては、IPランドスケープを活用して自社技術の優位性や顧客ニーズとの適合性を検証し、新規事業の探索や価値提供ストーリーの構築を支えることが重要となる。経営層に対しては、中期経営計画やM&A・アライアンス戦略に資する技術・知財インテリジェンスの提供が想定される。一方、知財部門と経営層の間には、知財価値や役割に対する意識の差に加え、経営視点や共通言語の不足という課題がある。知財活動への理解を得るには、間接的な利益貢献をロジックモデルで整理し、活動KPIや成果KPI、金銭代替指標などを用いてROICとの関係を可視化する必要がある。生成AI時代の知財部門には、事業化構想や事業計画の策定能力を高め、権利管理を担う部門から企業価値創出を支える戦略機能へ転換することが求められる。

地域
local

第16回 地域一体感のある地方創生の道のり

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DTFA Times編集部

四国中央市では「帰りたくなるまち」の実現に向け、市民や企業、高校生らとの対話を重ねて共通の旗印を策定した。旗印には「織り成す」をキーワードに、人や企業、文化を結び付ける意味と、市内外の人々をつなぐ象徴としての役割が込められている。完成後は市役所の備品やイベント、企業のノベルティなど幅広い場面で活用され、市民や企業への浸透が進んでいる。市内企業16社が参加したISOTでは、旗印を軸に統一感のある発信を実現し、地域ブランドの訴求力向上だけでなく、出展企業同士の連携や新たな商談機会の創出にもつながった。実際に来場者への対応を契機とした企業間の紹介や協力も生まれ、地域全体で価値を発信する機運が高まっている。今後は紙製品へのロゴ展開や展示会出展の継続を通じて「日本一の紙のまち」としての認知向上を図るとともに、高校生が参画する「18っ祭!」などを通じて若年層の参加を促し、シビックプライドの醸成と持続的な地域活性化につなげることが重要である。

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