4~5月にかけて、東京都主催の「SusHi Tech Tokyo 2024」が開催されました。一歩先の明日さえも予測が難しいVUCAの時代に、“次世代につなげる都市像”を示していくために “Sustainable High City Tech Tokyo =SusHi Tech Tokyo” を世界に向けて発信していくイベントです。デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、DTFA)ではDEI関連の取り組みとして、「女性の起業家マインドを社会課題解決とともに育む」と題した女性向けのワークショップを実施しました。SDGsを題材に、今、社会で起こっている様々な課題への理解を深め、より良い世界をつくっていく当事者として何ができるのか、「ビジネスや事業を通した社会変革の可能性」のアイデアやプランを創造するプログラムです。本記事では5月12日と13日の2日間にわたって行われたワークショップの様子をレポートします。

SDGsを理解し、社会を変革する

日本未来科学館に集まった参加者の女性12人に向けて、まずはDTFAパートナーである西村行功、大塚泰子、永津英子から自己紹介と今回のイベントの趣旨やデロイト トーマツの紹介がありました。

大塚は、今回のイベントを実施するに至った背景として、女性起業家を取り巻く日本の環境と課題について次のように説明します。

日本では起業して資金調達まで行う起業家のうち女性は2%と極めて少なく、大きな男女格差が存在します。原因としてはアンコンシャス・バイアスやブロカルチャーに染まりがちな起業家コミュニティなど様々な要因が密接に関連しています。起業を志す女性にとっては難しい環境にありますが、デロイト トーマツではDEIの観点から女性リーダーを増やすための支援や育成を積極的に行っています。今回プログラムはその取り組みのひとつとして、女性が自らの手で社会変革を起こす、何にでもチャレンジできるというマインドを、学生時代から持ってもらうことを目指して計画されたものです。

出所:スタートアップエコシステムのジェンダーダイバーシティ課題解決に向けた提案(https://www.fsa.go.jp/common/about/kaikaku/openpolicylab/dei_startup01.pdf)、p5、金融庁、2022年7月

西村はSDGsの解説を続けます。

SDGsは国際社会全体で取り組むべき開発目標として2015年に国連総会で採択されたもので、貧困や飢餓、気候変動、格差是正など17種類のカテゴリに分かれています。これらは一見バラバラの課題に見えますが、ひとつの課題のゴールを考えていくと、ほかの課題も解決する必要があったり原因が共通していたりするなど、相互に連関していることが見えてきます。

データソース:、 Qiong Zhang・Christine Prouty・Julie B. Zimmerman・James R. Mihelcic、More than Target 6.3: A Systems Approach to Rethinking Sustainable Development Goals in a Resource-Scarce World、Engineering 2(4)、pp481–489(http://dx.doi.org/10.1016/J.ENG.2016.04.010)、2016

1日目のワークショップでは、参加者が選んだテーマを「アローアイスバーグ分析」という手法を使って考え、本質的な課題が何なのかを見付けるところまでを体験します。アローアイスバーグ分析とは、課題を氷山に見立て「見えている課題」の下部に原因を配置することで、全体としてどんな構造が隠れているかを見付け出すオリジナルの分析手法です。

出所: デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

ここで参加者は5つのグループに分かれ、それぞれが選んだSDGsのテーマについてこの氷山をつくり「本質的な課題は何なのか」について話し合いました。

初対面の相手と社会課題についての議論やワークショップを経験したことがある人が少なかったようで最初は戸惑う様子も見られましたが、各グループにアドバイザーとして参加したデロイト トーマツのスタッフのファシリテートによって次第に議論が白熱。終盤には「議論の時間が足りない」という声も聞こえてきました。その後、各グループで話し合った内容と自分たちが見付けた「本質的な課題」を発表しました。

女性起業家たちを迎えたトークセッション

続いて、特別ゲストとしてフードマッチングサービス「TABETE」のCOO篠田沙織氏と日米で起業経験のあるシリアルアントレプレナーでDearest, Inc.代表取締役社長および株式会社ikura代表取締役の中澤英子氏が登場。現在取り組んでいる事業や起業の経緯などをそれぞれ発表した後、デロイト トーマツの大塚がファシリテーターとなってトークセッションが行われました。

「女性だから大変だったこと」や「若い時、起業についてどう考えていたか」などをテーマに語られ、日本における数少ない女性起業家の話を直接聞ける機会ということもあり起業に関心のある参加者たちには皆興味津々で聞き入っており、その後の質疑応答の時間でも様々な質問が寄せられました。

ある参加者から「女性起業家が少ない環境の中で、どういった人をロールモデルにしていましたか」という質問があり、両氏とも「特定のこの人というより色々な人に影響を受けている」という回答でした。これを受けて大塚は「事業や環境によって学ぶことは様々なので、色々な人の良いところを取り入れる『ロールパーツ』という考え方を持ってほしい」と参加者に語りかけました。

自分の起業アイデアをブラッシュアップする

ワークショップ2日目は各自が考えてきた起業アイデアを形にしていく作業が行われました。前日のグループ内で各自のアイデアを発表し、聞き手はそのアイデアの「素晴らしいところ」「さらに膨らませそうなところ」を伝えます。ワークショップで打ち解けたこともあり、それぞれの意見を活発に議論する様子が見られました。他の人の意見を聞いてアイデアがさらに膨らみ、当初考えていたアイデアから大きく方向転換することになったという参加者もいました。

次に西村がビジネスモデルの基本をレクチャーしました。デジタル音楽プレーヤーや家庭用ドライクリーニング機の事例を紹介し、事業・サービスの真の提供価値を作り出すことが重要、と語りました。最後にビジネスモデルキャンバスの考え方を紹介し、先ほど各自が考えたビジネスアイデアをこのフレームワークにあてはめてさらにブラッシュアップすることになりました。

全員の前で起業アイデアを発表する

ワークショップの最後はプレゼンテーションです。2日間で考え、磨き上げたアイデアを参加者・スタッフ全員の前で発表し、デロイト トーマツのメンバーが講評しました。プレゼンに慣れていない学生がガチガチに緊張していたり、何度も練習したかのように流暢に話す人がいたりと参加者それぞれのカラーが出た発表会でしたが、誰もが「このサービスによってこういう社会をつくりたい」という思いが伝わってきました。講評者の永津、大塚からも「この事業はデロイト トーマツと一緒に事業展開したいですね」というコメントがあり、未来の事業の芽生えを感じられる発表会でした。

参加者の感想

大学生:岩崎蒼生さん

岩崎:起業というとリスクも高く、身を削らないといけないという印象がありました。周囲に起業した人がいないので、実際に起業した人がどういう気持ちで向き合っているかを知りたくて参加しました。出演した女性起業家の方々や参加者の話を聞く中で「熱量が並外れて高くなくても、課題を解決したいという真摯な思いがあれば起業してもいいのだ」ということがわかり、心理的ハードルが下がった気がします。

高校生:品川莉嘉さん、大学生:品川桜希さん、大学生:平野布希さん(左から)

平野:SDGsについて関心があり、大手コンサル企業がどう考えているのかを知りたい、また、ほかの人たちと色々話してみたいと思い参加しました。課題の根本的な原因を突き詰めていくと様々な要素が絡み合っているということや、解決した先で自分たちがどういう未来にしていきたいかを意識するなど、問題を解決するにあたっては多角的視点が必要だということを学びました。

品川莉嘉:日本企業の経営戦略に興味があるのですが、日本だけでなく世界の賃金格差について考えてみたくて参加しました。男女の賃金格差には法律や教育の問題なども関わっていて、単に企業の努力で解決するものではなく根本的な意識改革が必要だとわかりました。

品川桜希:情報系の学部に在籍していてSusHi Techに興味があり、テクノロジーの力で働き甲斐のある社会をつくりたいと思っています。男女平等な社会をつくるために大塚さんや永津さんなどの先輩方がご尽力されていることに感謝しつつ、自分たちの世代もやってもらうだけではなく意識を変えていく努力をしなければいけないと思いました。

データソース:参加後のイベントアンケート

DTFA Times編集部

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