ビジネスにおけるDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)推進に取り組んでいるデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、DTFA)。今回は、DTFAの永津英子、大塚泰子、西村行功を迎え、5月に開催された東京都主催「SusHi Tech Tokyo 2024」において「女性の起業家マインドを社会課題解決とともに育む」ためのワークショップを開催するに至った経緯、イベント実施後の感想などを通して、女性活躍の未来について語り合っていただきました。(聞き手:編集部 毛利俊介)
目次
永津 英子
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
執行役兼パートナー
財務・M&Aアドバイザーとして、23年以上の経験を有する。Asia Pacific Strategy&Transaction Leader、インド日系企業支援グループ統括リーダー。デロイト トーマツ グループのDiversity, Equity&Inclusion(DEI)のコアメンバーとして立ち上げ期からDEIのコンセプトの立案・浸透をリードする。制度・風土改革、次世代の女性幹部育成プログラム、コミュニケーション改善策を立案し、実行する。現在は、日本を含むアジアにおける女性活躍支援プログラムの開発などに携わる。
大塚 泰子
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
パートナー
総合系グローバルコンサルティングファーム、外資系ITコンサル企業を経て、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。サステナビリティアドバイザリー統括。17年超にわたり、新規事業戦略策定、中長期の成長戦略策定、ビジネス・デューデリジェンス、経営統合支援といった領域に携わる。2022年から1年間、前職にて米国ニューヨーク州本社勤務。京都大学経営管理大学院 客員准教授(現職)、一般社団法人社外取締役女性ラボ 理事(現職)も務めるなど、女性のエンパワーメントを中心に、社会に対してのポジティブインパクトにも取り組んでいる。
西村 行功
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
パートナー
事業会社にてマーケティング戦略および全社経営戦略の策定に従事した後、米ミシガン大学にて経営学修士(MBA)を取得。戦略コンサルティング会社などを経て、株式会社グリーンフィールド コンサルティング(GFC)を設立。長年にわたり、シナリオ・プランニング、中長期事業戦略、新規事業・新商品開発戦略、企業変革、人材育成などの分野を中心に活動するほか、大手企業の人材育成プログラム・戦略研修講師も務める。
女性にフォーカスしたテーマ設定
――「SusHi Tech Tokyo 2024」で今回のワークショップ(WS)を開催することになった経緯をお聞かせください。
大塚
私が「SusHi Tech Tokyo 2024」の検討委員を務めていたことが1つのきっかけです。さらに本検討委員の委員長が、イベント参加者に向けた強いパッションを持っていました。「基調講演をしていただく方の中には絶対女性を含めてほしい、登壇者も女性比率50%は譲れない」――これは私も同意見で、サステナビリティに含まれる多様性を示すためにも必要だと感じました。その際に扱うテーマとしてこれまでよく語られてきた「女性が得意な領域」「女性独自の目線」といった領域を限定するような考え方には違和感があり、女性も広く社会課題を解決したいと望んでいるはずだと考えていました。だからこそ、女性にフォーカスを当てたプラスαを実践すべきと私自身も訴えたのです。一方で現実を見ると、「自らの手で社会を変えよう、事業を興そう」としている女性が少数なのは事実であり、資金調達、上場まで果たした女性起業家は全体のわずか2%。けれどそれは、「女性にはできない」ことを意味してはいません。女性でも自分の力で社会を変えられる、それを考えるWSのテーマとして社会課題、SDGsを設定しました。
これは女性によるトークセッションを実施するだけでも成立したと思いますが、自分の頭で考える、手触り感のある何かを加えたかったのです。そこで若い世代の女性をターゲットとして2日間にわたるWSを開催し、社会課題を考えるある種の教育を行う、あるいは課題解決をしたいというモチベーションをどうやって形にするかを目的の1つとしました。その手法として、アローアイスバーグ分析を活用したビジネス展開を考える機会を提供したのです。
批評ではなく、建設的な意見が飛び交った
――WSでは、5チームすべてにDTFAのスタッフがファシリテーター役で同席しました。皆さんもその位置に立って、参加者の熱を直接感じることができたのではないですか。
永津
若い人たちの経験値が低いのは当然で、最初のうちは発想の連鎖という点であまり広がりがなかった印象です。けれど、少しアドバイスをすれば、すぐに「そうか!」と理解してくれました。
西村
自分の考えを話すだけではなくて、まずSDGsについての事実を示す題材があり、全員でそれらを可視化することによってチームが機能するという展開はできていたと思います。どのチームも、時間が経つほど、どんどん活性化していきましたね。
大塚
確かにスタート時は戸惑いもあったようですが、すぐに活発な議論が行われるようになっていきました。そのときに誰も他の人の意見を否定しないことに気が付いて、正直感心しました。
WSには一定のルールがありますが、今回はそれを伝えず、フリーで話し合ってもらいました。けれど永津さんの言うように、否定をしない、1人が話し過ぎないなど、基本的なルールは自然と確立されていました。これは、私たち大人も見習うべきものがあると思う現象でした。
永津
抱えるテーマが1人ひとり違っていたのも良かったと思います。誰かが話すと、皆がそれに対する意見を言う。でもそれは批評ではなくて、自分も当事者になっての発言です。そのうえでテーマの提供者が「自分はどうしたいか」を語っていけたのもポイントといえるでしょう。
若いからこその吸収力が目を引いた
――WS参加者の個々の様子はどうでしたか。
西村
1日目は、皆さんグローバルレベルの課題は何かというような大きな話をしていました。しかし2日目になると、自分は何に関わりたいかといったことや、世界の課題は日本にもミラーリングされていること、だからこそ日本でその部分に切り込んでいきたいといった「自分」の話に変わったのです。そこに具体性やリアルさを感じましたね。
永津
私もそれは面白いと思いました。自分が何かに困った経験があるから、そこを改善したい。アメリカにも同様な課題があるなら、それも解決したい。そんな、自分の中にしっかりとした軸があるアプローチでした。これはある種起業家的な考え方といえるのではないでしょうか。
大塚
そうですね。そういった部分は実務的な手法を教えるなどして、今後も伸ばしていってあげたい。誰もが内に熱いパッションを持っているのがよくわかったのは収穫でした。
永津
WSには皆をエンパワーメントしたいという目的もありましたが、それは達成できたと感じます。起業する人としない人の間の差はほんの少ししかない、それを知って欲しかったのですが、皆さんきちんと受け止めてくれたようです。
大塚
2日目に行われたチームの発表でも、「どう収益化するかは決まっていないけれど、未来がこうだったらいいと思います」といった声が聞かれました。それって、とてもピュアですよね。私たちは仕事柄、企業の課題解決を第一に考えてしまうけれど、彼女たちは「どういう未来を創りたいか」という視点で考えていた。ブレることなくある一点を目指す、自分にとっての北極星のようなものをつくれば、途中で多少寄り道することになっても構わないと個人的には思います。
西村
私は大企業向けの業務に多く携わっていますが、自社の事業と直接関連したようなSDGsゴールを掲げながらも、ゴールに向かっての行動が伴っていないケースも散見されます。その理由は、ゴールの達成に向けて、どんな課題の構造となっているか、どこに手を打てば良いかなどが見えていないことが多いからだと感じます。その理解が深まれば、自社が何をすれば良いかも見えてきます。まず、課題の構造を知り、向かうべき未来、いわゆる「北極星」を定めること。そうすることで、取るべきアクションが見えてきます。
企業相手のWSでも未来の議論をしますが、それだけではやはり誰も行動しない。未来に向けて行動するということは、特に企業人にとっては今までのやり方を変える、変革活動です。すると「納得」がなければ人は動かないので、WSを行うわけです。社内外問わず、起業家というのは北極星を決めたら、そこに向かって行動できる人。例えば高校生であってもやれることは意外と身近にあって、そこに着手するのが大事だと思います。学生でも社会人でも、この一歩目を踏み出せるかどうかがカギになるのではないでしょうか。その意味では、今回のWSの内容は参加者それぞれの中にフィードバックされていたように感じました。
今回と類似するWSをもっと多様な場で展開していきたい
――今回のようなWSは今後も続けられていくのでしょうか。
永津
次回「SusHi Tech Tokyo」の開催は未定ですが、同様のことは高校や大学などの教育機関で展開してみる価値があるのではないかと考えています。
大塚
取引先企業の方からも、「うちの女性社員向けにぜひ実施してほしい」という声をいただきました。「自分自身でビジネスを考える」というアプローチは、若い世代はもちろん、シニア世代の活躍にも結び付いていくと想像できます。だからこそ、企業や学生は意識して今回のWSのようなことを実施したほうがいい。その結果、ゼロからの起業でなくとも、自社内で新事業を発案、社内起業して子会社をつくり、そこの社長に発案者の女性が就任すれば、今多くの企業が悩んでいる女性管理職比率の問題への1つの解になり得るかもしれませんし、社会的なインパクトも大きいでしょう。そんな例がどんどん増えれば、企業も社会も変わっていくと思います。
永津
デロイト トーマツは女性リーダーを増やすための支援を様々な形で行っていますが、今回の「SusHi Tech Tokyo 2024」もその活動の1つでした。冒頭で話した女性起業家が少ないという課題にも積極的にコミットしていきたいし、今後も広くDEI領域の推進に努めていくことになるでしょう。