都市課題解決に向けたアジア最大規模のスタートアップイベント「SusHi Tech Tokyo 2024 Global Startup Program」レポート
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
DTFAインスティテュート
小林 明子
SusHi Tech Tokyoは、世界が直面する都市課題を最先端のテクノロジーで解決し、持続可能な新しい価値を創造することをコンセプトにしたイベントです。1カ月にわたり多数のプログラムが開催されました。2024年5月15日と16日には、アジア最大規模のグローバルカンファレンスGlobal Startup Programが行われ、会場の東京ビッグサイトはスタートアップの活気や熱意により盛り上がりました。
目次
世界中からスタートアップ、投資家、企業、自治体、学生らが集う
SusHi Tech Tokyoは、都市課題の解決、先端技術の社会実装、スタートアップの活躍などを目的として開催される国際イベントです。グローバルスタートアッププログラムには、国内外のスタートアップ、投資家、企業、自治体、学生らが集いました。47セッションに150人以上が登壇し、ピッチコンテストは世界43国507社の中から選抜された20社が競い合いました。本稿では、筆者が参加したセッションの一部をご紹介します。
小池百合子都知事によるオープニング
1日目のオープニングは、イベントの主催者である東京都から、小池百合子知事が登壇しました。小池都知事は「SusHi Tech は、SustainableとHigh Techを組み合わせた言葉です。“スシテック”は呼びやすいし、美味しそうでしょう?最先端の技術を実装した持続可能な都市モデルを東京から発信します」と紹介しました。
また、東京都のスタートアップ戦略を、世界でトップクラスのスタートアップフレンドリーな都市へと発展することを目指していると紹介しました。続けて小池都知事は「10×10×10」と称する5か年計画を示しました。これは、「グローバル×10(東京発ユニコーン数5年で10倍)」「裾野拡大×10(東京の起業数5年で10倍)」「官民協働(東京都の協働実践数5年で10倍)」を目標とするビジョンで、令和6年度も500億円規模の大型の投資を行っていくことを強調しました。
都の取り組みのひとつとして、有楽町に大型のスタートアップ施設Tokyo Innovation Base(TiB) を構築することもアピールしました。国内外のスタートアップ、事業会社、VC、学生などが集まり、支援やイベントを行っていく場になると言います。「TiBは本日(5月15日)グランドオープンです」として、TiBを拠点とした独自のスタートアップエコシステム構築を進めると語りました。「この場での皆さんの白熱した議論が未来の都市の創造につながります」と締めくくり、SusHi Tech Tokyoを契機としたイノベーションへの期待が伝わりました。
交通の未来とは?人中心のストリートから都市を改革
セッション「未来の都市:人々から愛される、サステナブルでおもしろい未来の都市とは?」では、交通と都市の変革に関する世界的権威であるジャネット サディク=カーン氏が登壇しました。同氏はニューヨークのブルームバーク市長の元で2007~2013年にニューヨーク市交通局長を務め、著書「Streetfight: Handbook for an Urban Revolution」も注目されています。
初めに、サディク=カーン氏は「さあ、目を閉じて未来の交通を想像してください。何が思い浮かびましたか?自動運転車やエアロダイナミックなデザインの電車ですか?それは1950年に想像した未来都市のイメージを引きずっていませんか?」と問いかけました。「東京では、約9割の人が徒歩、自転車、公共交通を使って移動しています。しかし、道路のスペースの9割は自動車が走っています。過去から現在まで車中心に設計されてきた街を何とかしなくてはなりません」と言い、都市では道路が重要な資源であり、人が中心となる公共空間へと変革する重要性を強調しました。
同氏は、ニューヨークのタイムズスクエアの道路を、車を止め歩行者のための道路として開放する、という大胆な提案を行ったことを紹介しました。「『すごくいいアイデアなのだから、試してみてダメなら元に戻せばいい』と説得しました。皆が無理だと言いましたが、市長は『やろう』と賛同してくれました」世界有数の繁華街が歩行者天国となったのです。市民は大いに気に入り、ベンチを置き露店を出店し、賑わいました。加えて、エリア内の店舗や施設などの売上増加、事故の負傷者の減少、CO2の削減などの効果もデータとして明らかになりました。
「渋谷のスクランブル交差点も東京を象徴する場所のひとつでしょうが、道路のほとんどは車が走っていますね。これを変革するとどうなるでしょう」と言って人や自転車が自由に行き交うスクランブル交差点のイメージ図を示しました。以前小池都知事と面談し、丸の内でカーフリーの道路を提言し、実現したことにも言及しました。「都市は人そのものなのだから、人が何を求めているかが大事です。私たちが望む未来の交通は、空飛ぶ車によって地上に加えて空まで渋滞することではないでしょう。また、気候変動も危機的な状況です。交通や移動の方法をいますぐ変えなくてはいけません」というメッセージにも、行きたくなる街、歩いて楽しい街へと都市が変わっていく可能性と期待を感じました。
地方をテーマにした唯一のセッション――東京と異なる「愛」があるスタートアップエコシステム
「地域別で探るスタートアップエコシステムの在り方:各地域のスタートアップはどのような戦略を描くか」は、多数のセッションの中で唯一、日本の「地方」がテーマでした。地方で起業した4人、木原寿彦氏(KIHARA Commons株式会社代表)、渋谷修太氏(フラー株式会社代表)、岸畑聖月氏(株式会社With Midwife株式会社代表)、山田邦明氏(Setouchi Starups共同代表パートナー)がディスカッションしました。
まず、地方スタートアップのメリットと課題が話題になりました。メリットは、「新潟なら米、酒など地域の資源を活かせます。また、職業の選択肢を増やせます」渋谷氏、「地方で女性が高い収入を得るのはハードルが高い。稼ぐ手段になります」岸畑氏、木原氏は「プレイヤーが少ないので目立つし自治体などの支援を受けやすい」と語りました。課題としては経験者やメンターがおらず、スタートアップが活動する土壌がないことが挙がりました。
ユニークなエピソードも飛び出しました。「東京なら、こういうイベントで名刺交換して、メールしてアポ取ってZoomでミーティングでしょう。地方でそんなのはない。一緒に飲んで仲良くなるところから。ビジネス慣習が全然違う」「そう、おでん屋さんで仲良くなって、このソリューションが困りごとを解決できますとか、LPとして出資してあげようとかいう話になる」「地方の重鎮の人たちをどう巻き込むか、若手起業家とつなげられるか」「どの地域も一緒。むしろ東京が特殊」など盛り上がりました。岸畑氏は「名刺を渡すと『若い姉ちゃんが会社やってるんだねー』 と言われる。すごくびっくりしたけれどそれが地方の文化」とも語りました。
実態としてスタートアップは東京に集中しており、地方のスタートアップをどう活性化していけるか、という議論には熱が入りました。「自治体は経済政策としてスタートアップ支援をしますが、スタートアップが税金を払えるようになってペイするのはいつになるか。むしろ若手起業家が地元に住んで集えるというカルチャーの醸成が大事」渋谷氏、「瀬戸内というふんわりしたエリアを名乗ってつながりを増やそうとしている。古くからある中小企業を排斥せず、巻き込める相手を増やす。プレイヤーが少ないからやりやすいし、地域を元気にしたいという共通点がある」「スシテックじゃなくコメテックとして新潟でイベントを開催してほしいですね」山田氏など、それぞれの地域に対する思い入れを込めたトークとなりました。
終盤、木原氏が「地方には本気で取り組める社会課題のタッチポイントがある」といい、モデレーターの岸畑氏は「起業のネタを探すという観点ではなく、普段から生活している中で、地域への愛の中から課題に気付く」とコメントし、一同「地方での起業は『愛』が大事ですね」と笑顔で締めくくりました。
熱気に溢れる大型イベントの全容をお伝えするのは難しく、関心を持った方は来年、2025年5月8日~9日に開催予定のSusHi Tech Tokyoにぜひお越しください。