2024年4月19日に、デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社(以下、DTVS)主催、27pilots Deloitte GmbH(以下、27pilots)共催によるセミナー「スタートアップ協業から戦略的利益を生む方法」を開催しました。大手企業とスタートアップとの連携は活性化していますが、出資やアクセラレーションという通常の手法では、協業やスタートアップの本格採用に至る確率が低いなどの課題があります。スタートアップとの協業から戦略的利益を得るための新しいアプローチ「ベンチャークライアントモデル」を日本でいち早く紹介したイベントの詳細をお伝えします。

グレゴール ギミー

27pilots Deloitte GmbH
CEO

ミュンヘンを拠点とする27pilotsの創設者。トップクラスの新興企業から戦略的な利益を得ることを可能にするイノベーションの手法論をベンチャークライアントモデルとして体系化し、グローバル企業のベンチャー支援ツールとして確立させることを目指している。エンジェル投資家、IMDビジネススクールのエグゼクティブ・イン・レジデンス、INSEADビジネススクールのゲスト講師、基調講演者としても活躍している。

木村 将之

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
シリコンバレー事務所パートナー/COO
27pilots Deloitte GmbH
Japan Lead Partner

2007年3月有限責任監査法人トーマツ入社。2010年より、デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社の第2創業に参画し、200社超の成長戦略、資本政策立案をサポート、数多くの企業のIPO実現に貢献。現在は執行責任者を務める。2015年からはシリコンバレーに拠点を設け、世界各国のテクノロジー企業と日系企業の協業を促進している。2022年からはDeloitte Asia Pacificのユニコーン支援のリードパートナーも務める。

ベンチャークライアントモデルとは、まず購買し顧客になること

ベンチャークライアントモデルのグローバルトップサービスプロバイダー27pilotsの創業者グレゴール ギミーが来日し、 DTVSのCOO木村将之と共にセミナーに登壇しました。

ギミーは、BMW在籍時にベンチャークライアントモデル(以下、VCM)を開発した経験を持ちます。セミナーでは、ギミーがベンチャークライアントの概念や、その革新性などを詳細に解説しました。要点は「自社の差し迫った課題を解決できるスタートアップの革新的な製品やサービスを取り入れるために、まず購買し、顧客になる」ことです。ギミーは「『ベンチャークライアント』は新しい言葉に聞こえるでしょうが、該当する事例は過去にたくさんあります。スティーブ ジョブズが創業間もないAdobeの技術の価値を認めていち早く採用したのも同じ手法です」と説明しました。

また、「CVCやアクセラレーションなどの既存の手法では、成果を得るまでに時間がかかり、成功率が低い。協業へと結実する確率は1割しかないというデータがあります。さらに、株式を取得することは技術の採用と直接関係がありません。戦略的に、ダイレクトにすばやく多数の優れた技術を取り入れる方法がVCMであり、出資などの投資リスクがないのもメリットになります」と言います。ギミーが創設したBMWのベンチャークライアントユニット(スタートアップ支援組織)BMW Startup Garage の成功事例として、Seoul RoboticsとEmbotechの2社の製品やソフトウェアを組み合わせ、倉庫内自動運転の実証実験の取り組みを紹介しました。

高確率で課題解決という成果を得られると紹介

次に、DTVSの木村も交えて振り返りやディスカッションが行われました。

まず、半導体、バイオ、生成AIなど重要な技術はすべてスタートアップが生み出していると強調し、スタートアップの重要性を明示しました。

スタートアップが必要としているのは、資金・ビジネス(ノウハウなど)・顧客の3つですが、優れたスタートアップにとって最も重要なのは継続的な顧客獲得だと言います。ギミーは「素晴らしいスタートアップを引き付けるのは購買です。まずは彼らの顧客になることです。スタートアップの日常を考えてみてください。投資家や顧客の前で10分間のピッチで懸命にアピールしても購入されるかどうかわからないといった、常に不安定な状況にあります。100万ドルの売上と1,000万ドルの出資のどちらかを選べと言われると、優れたスタートアップなら売上のほうを選ぶでしょう。顧客が付くことが何より嬉しいのです」と付け加えました。

実施プロセスとして、①Discover(課題とスタートアップの探索・特定)②Assess(提携の可能性アセスメント)③Purchase(購買)④Pilot(現場での実証)⑤Adopt(本格受け入れ)という5つの段階が示されました。①で課題やスタートアップを見付けることは難しく、⑤受け入れる際には戦略や企業文化などの基盤が必要となる、など、実施におけるポイントも示されました。ギミーは、「27pilots はデータを活用し、これらのプロセスの支援や効果測定の支援を行っており、クライアントは50~70%の確率で課題解決という成果を得ています」と語りました。

木村は、段階的な拡大が効果的であることを改めて強調しました。VCMの立ち上げ時は5~20件/年の購買を行うところからスタートし、熟練すれば100件扱えるようになると補足しました。日本の事例として、株式会社FUJIが、ベンチャークライアントモデルに限りなく近い手法で自社の優位性を高めていると紹介しました。

活発なQ&A「CVCとスタートアップのコンフリクトも考慮すべき」

最後のQ&Aでは、大手事業会社を中心とした参加者から活発な質問が飛び交いました。

「スタートアップとの連携においては、出資は支配権を持てる強力な手法でしょう。ベンチャークライアントとCVCの組み合わせはどう考えると良いのでしょうか」という質問に対して、ギミーは「アーリーステージで支配権を獲得する出資を行うのはリスクがあります。CVCとスタートアップのコンフリクトも考慮すべきです。競合他社が投資しているという理由で同業大手企業が買い控えるようになれば、スタートアップの成功を阻害することになります。先に購買を行い、スタートアップのプロダクトを見極めてからAdoptのフェーズで資本提携を行うことが有効です」と回答しました。

「課題にフィットするベストなスタートアップをどのようにして見付ければ良いですか」という質問には、「すべての課題をスタートアップが解決できるとは限りませんが、グローバルなスタートアップエコシステムの中から、優れたスタートアップにアプローチすることは重要です。スタートアップは世界に20~30万社あり、3,000~4,000億ドルの資金が集まりますが、ほとんどは独立系のVCが出資しています。VCが厳しい目で評価しており、トップクラスのスタートアップに資金が集まっています。VCの目利きが事業会社にとって判断要素になるでしょう」と答えました。

ベストなスタートアップやソリューションを選ぶのには難しさもあるでしょうが、ギミーは「皆さんのような企業の目的は、質の悪いスタートアップを育てることではありません。素晴らしいスタートアップの技術や製品によって自社や顧客の課題を解決することです」と明快に言ったことは印象的でした。企業にとって、協業の目的はスタートアップの育成ではなく、課題を解決することである点は、留意すべきポイントといえるでしょう。

セミナーでは、ギミーと木村の共著により世界で初めてベンチャークライアントの実務に触れた書籍「スタートアップ協業を成功させるBMW発の新手法『ベンチャークライアント』」(2024年5月23日出版予定)も紹介されました。

書名:スタートアップ協業を成功させるBMW発の新手法「ベンチャークライアント」
発行元:日経BP
著者:木村将之、グレゴール ギミー
価格:1,980円(税込)
ISBN: 9784296204915

BMWが生み出し世界各地に広がった新しいオープンイノベーション手法「ベンチャークライアントモデル」。戦略的利益の実現を目指して「スタートアップの顧客になる」手法の活用により、いち早くADAS(先進運転支援システム)を自社の量産車ラインアップに搭載したBMWの事例を挙げ、この手法の有効性や再現性、効果を高める運用方法などを紹介します。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
DTFAインスティテュート

小林 明子 / Kobayashi Akiko

ヴァイスプレジデント

調査会社の主席研究員として、調査、コンサルティング、メディアへの寄稿などに従事。IT業界およびデジタル技術を専門とし、企業および自治体・公共向けIT市場の調査分析、テクノロジーやイノベーションについての研究を行う。2023年8月よりの主任研究員としてDTFAインスティテュートに参画。