個人消費

外食産業で上場各社が好決算を続けている。しかし、これは大手が中小零細のシェアを奪う二極化が進んだ結果に過ぎず、市場全体はコロナ前の水準には回復していない。「食のオケージョン(需要機会)創出」による数量的な成長や付加価値訴求による単価向上がいまだ途上だからだ。外食産業が需要を本格的に拡大させるには、メリハリ志向など消費者の変化を的確にとらえ、業態変革を実現するほかない。本稿ではそのヒントの一つとして、飲酒ニーズの取り込みに注目した。

日本の電子商取引(EC)市場は、食品販売のオンライン化の遅れから伸び悩んでいる。ただし、二つの構造変化が食品EC市場に潜在的な需要をもたらしている。女性の社会進出に伴う30~40代の「現役世代」による時短購買ニーズの高まりと、コロナを経てITリテラシーが向上した高齢者の利用拡大である。しかし、2022年の物価高以降は、生活防衛意識からリアル店舗への回帰が進んでいる。事業者は今後、リアルとオンラインとの融合を踏まえ、実店舗では提供できなかった、ECならではの新しい付加価値を提供する必要がある。サプライチェーンへの投資や、オンオフ融合によるユニットエコノミクスを実現する経営への転換も求められよう。また、高齢者への「お届けサービス」では、安否確認や孤独の解消といった社会課題の解決に資する見守り機能をさらに進化させることで、リアルの価値がより活かされよう。流通が全国的なインフラとして引き続き十分役割を果たし続けるためには、地場に根差して課題解決するモデルも構築される必要がある。

地方創生[1]の古くて新しい政策ツールに、ふるさと納税があろう。2008年5月の制度開始以降、所得再分配と産業振興を通じた地域活性化を担い、2023年度には寄附金額1.1兆円、利用者数1千万人に達した。しかし多くの場合、寄附金集めのチャネルにとどまり、納税者と地域とが新しい関係を構築する機会にはなっていない。ふるさと納税を、地域間の所得再分配を通じた産業育成への好循環につなげるためには、都市住民らを地域の潜在的な応援団とも言うべき「関係人口」[2] とする仕掛けが必要だ。まずは自治体が、マス向けで地域の魅力を伝えにくいプラットフォーマー頼みの状態からさらに進化する必要がある。そのためには、個へアプローチするD2C(Direct to Consumer)の考え方がカギとなろう。そして共感重視のアプローチとの両利きで域外の個人・企業との共創が促されれば、「自立的な地方経済」の実現が近づくはずである。