中川 朗

中川 朗 / Akira Nakagawa

主任研究員

メーカー系シンクタンク、金融機関、国内総合電機メーカー戦略本部で、産業調査・国内消費の分析業務に従事。みずほ銀行産業調査部では小売・消費財産業を担当し、セクターアナリスト、サブセクターヘッドとして経営層への資本政策の提案や、産業調査レポート、記事を執筆。消費の構造変化と企業戦略について、モビリティ、インバウンドや宇宙利用など幅広いクロスセクター的な観点も交え、中長期的な観点から提言した。
2024年8月にデロイトトーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社し、DTFAインスティテュートに参画。修士(文学)。

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  • インフレが変革を迫る外食産業の需要創造のヒント
    個人消費

    外食産業で上場各社が好決算を続けている。しかし、これは大手が中小零細のシェアを奪う二極化が進んだ結果に過ぎず、市場全体はコロナ前の水準には回復していない。「食のオケージョン(需要機会)創出」による数量的な成長や付加価値訴求による単価向上がいまだ途上だからだ。外食産業が需要を本格的に拡大させるには、メリハリ志向など消費者の変化を的確にとらえ、業態変革を実現するほかない。本稿ではそのヒントの一つとして、飲酒ニーズの取り込みに注目した。

  • HealthyFood_shutterstock

    世界の「食」を取り巻く環境は大きく変わり始めた。国際情勢の不安定化、気候変動、食料需要の拡大によって、食料の安定調達が重要な課題となってきた。一方、技術革新やライフスタイルの多様化によって、食の価値そのものが再定義されつつある。 人口減少、農業基盤の弱体化など構造的なリスクを抱える日本はどのように対処すべきか。ビジネスチャンスはどこにあるのか。デロイト トーマツ戦略研究所の研究員が、食をめぐるトレンドや政策、ビジネスについて解説する。

  • 食品EC市場をとりまく構造変化と需要開拓への課題
    個人消費

    日本の電子商取引(EC)市場は、食品販売のオンライン化の遅れから伸び悩んでいる。ただし、二つの構造変化が食品EC市場に潜在的な需要をもたらしている。女性の社会進出に伴う30~40代の「現役世代」による時短購買ニーズの高まりと、コロナを経てITリテラシーが向上した高齢者の利用拡大である。しかし、2022年の物価高以降は、生活防衛意識からリアル店舗への回帰が進んでいる。事業者は今後、リアルとオンラインとの融合を踏まえ、実店舗では提供できなかった、ECならではの新しい付加価値を提供する必要がある。サプライチェーンへの投資や、オンオフ融合によるユニットエコノミクスを実現する経営への転換も求められよう。また、高齢者への「お届けサービス」では、安否確認や孤独の解消といった社会課題の解決に資する見守り機能をさらに進化させることで、リアルの価値がより活かされよう。流通が全国的なインフラとして引き続き十分役割を果たし続けるためには、地場に根差して課題解決するモデルも構築される必要がある。

  • ふるさと納税から始まる好循環

    地方創生[1]の古くて新しい政策ツールに、ふるさと納税があろう。2008年5月の制度開始以降、所得再分配と産業振興を通じた地域活性化を担い、2023年度には寄附金額1.1兆円、利用者数1千万人に達した。しかし多くの場合、寄附金集めのチャネルにとどまり、納税者と地域とが新しい関係を構築する機会にはなっていない。ふるさと納税を、地域間の所得再分配を通じた産業育成への好循環につなげるためには、都市住民らを地域の潜在的な応援団とも言うべき「関係人口」[2] とする仕掛けが必要だ。まずは自治体が、マス向けで地域の魅力を伝えにくいプラットフォーマー頼みの状態からさらに進化する必要がある。そのためには、個へアプローチするD2C(Direct to Consumer)の考え方がカギとなろう。そして共感重視のアプローチとの両利きで域外の個人・企業との共創が促されれば、「自立的な地方経済」の実現が近づくはずである。

  • 物価高ナラティブがもたらすものは?~欧州事例から考える

    コメを筆頭に食品の値上がりが社会的な関心事になっている。2025年に入って、消費者物価指数(CPI)の伸びは主要国で最も高くなり(※1)、エンゲル係数は43年ぶりの高水準だ(※2)。物価高対策として消費税が焦点になり、与野党は給付金支給や減税を検討している。食品値上がりの経路と家計へのインパクトを概観したうえで、欧州の事例をもとに物価高対策を整理・検討したい。

  • 消費者の選択~不確実性を勝ち抜く小売業態とは?~

    「物価と賃金の好循環」を実現する上で、賃金上昇に対する消費者の期待感は相当程度織り込まれてきた。前回のレポートでは、2022年以降の物価上昇局面において、消費者が節約志向とプチプレミアム志向とを使い分けてメリハリをつけている状況を示した。本稿では、主に商業動態統計調査を手掛かりとして、2024年度のインフレ下、日本人はどこで買い物をしてきたのかを確認する。さらに、業態間競合が激しさを増すだけでなく、トランプ関税などを機に経済の先行きへの不確実性が懸念される中、消費者から選ばれる小売り業態の特徴と、今後の持続的成長に必要な条件について考える。

  • トランプ関税がコンシューマー企業にもたらす影響

    米国トランプ大統領が相互関税を発表したことで日本では、自動車をはじめとする主要な輸出産業で懸念が広がっている。北米向け輸出への直接的影響は避けられないからだ。一方、内需を中心とするコンシューマー産業に関しては、景況感悪化や賃上げ鈍化を経由した間接的影響が指摘されるにとどまっている。そこで本稿では、小売り、食品メーカー、アパレル、消費財・FMCG(日用消費財)企業を念頭に置きながら、コンシューマー産業にもたらす5つのリスクについて、どのような影響がいつ発現するのか考察した。

  • 企業価値向上、問われる「執行」と「対話」のバランス=M&Aフォーラムレポート

    東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)低迷企業に改善を要請しているのに加え、昨今の円安で海外の機関投資家も経営層との連携強化を志向しており、上場会社にとって企業価値向上が喫緊の課題となっている。こうした中、デロイト トーマツ グループはこのほど、「M&A Executive Forum Japan 企業価値向上のためのポートフォリオ リバランス」を開催した。経営者、社外取締役、アクティビスト、アドバイザーを代弁する登壇者が基調講演やパネルディスカッションを行い、企業価値向上や持続的成長の実現策について討議した。

  • 「メリハリ消費」を定量化で読み解く
    個人消費

    物価高に伴って節約志向が強まる中、前回のレポートでは消費マインドを何が支えるのかを探った。今回は、節約志向と、価値を認めるものには出費を惜しまないプレミアム志向を使い分ける「メリハリ消費」について論じる。具体的な手法として商品・サービスの品目別に見て節約志向とプレミアム志向のどちらが強いのかを、いくらまで支出できるかという「支払意思額 [1](WTP)」に着目して定量化を試みた。その結果、20代の消費者にとってもプレミアム志向が強い品目が存在することが分かった。また、米価急騰がその他食品の消費トレンドを転換させた状況や、日常的な節約の中にちょっとした贅沢を求める消費者の姿も浮き彫りになった。コンシューマー企業がメリハリ消費を見極めることは、不要な価格競争を避け、付加価値を訴求する変化対応力を磨く1つのヒントとなろう。

  • 何が消費マインドを支えるのか?-消費者の節約志向を読み解く―

    「賃金と物価の好循環」を実現するうえで、企業の価格転嫁を妨げるリスクが2つあることを前回のレポートで指摘した。今回は、もう一方のプレーヤーである消費者の節約志向について論じる。 本稿では節約志向を消費者物価と消費支出の増減率の差を使って定量化した結果、物価が上がれば購買点数を抑制しようとする消費者意識は依然根強いことが分かった。世代別には、賃上げの恩恵に浴した若年層の節約志向が弱まっている一方、賃上げの恩恵が乏しく教育費などの支出が重い高年齢層は節約志向を強めている。このため、今春予想される賃上げだけでは消費マインド改善は難しい。政策面では現在検討中の高校授業料の無償化などが、節約志向を中期的に薄める策として有効ではないだろうか。