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「賃金と物価の好循環」を実現するうえで、企業の価格転嫁を妨げるリスクが2つあることを前回のレポートで指摘した。今回は、もう一方のプレーヤーである消費者の節約志向について論じる。 本稿では節約志向を消費者物価と消費支出の増減率の差を使って定量化した結果、物価が上がれば購買点数を抑制しようとする消費者意識は依然根強いことが分かった。世代別には、賃上げの恩恵に浴した若年層の節約志向が弱まっている一方、賃上げの恩恵が乏しく教育費などの支出が重い高年齢層は節約志向を強めている。このため、今春予想される賃上げだけでは消費マインド改善は難しい。政策面では現在検討中の高校授業料の無償化などが、節約志向を中期的に薄める策として有効ではないだろうか。

日銀が目指す「物価と賃金の好循環」実現に向け、2025年春闘でも昨年並みの賃上げが想定されており、マクロ目線では賃金、物価、消費の好循環が期待されている。しかし、ミクロ目線でコンシューマー企業の競争環境を見ると、値上げを妨げるリスクも想定される。 本稿では特に2点取り上げる。1つは業態間競合の激化が企業に価格維持バイアスをもたらすリスクである。もう1つは、中国発のデフレが市場価格に低下圧力をかけるリスクである。前者は食品取扱をはじめとする小売業態の小商圏化がより進行するためであり、今後長期間にわたって構造的な要因となる。後者は、中国の生産過剰と米国の対中関税政策に端を発するものであり、起こるかどうか不透明なものの、発生した場合の影響は非常に大きい。

2025年は団塊世代が後期高齢者となって「重老齢社会」に入る節目の年である。さらに2040年には団塊ジュニアが高齢者となり、個人消費におけるシニア層の存在感はさらに強まる。そこで本論では、コンシューマー産業が高齢者による需要をとらえるヒントを導出するべく、改めて高齢者の消費特性を振り返った。家計調査から見ると、高齢者の平均支出には節約志向がうかがえる。しかし、財・サービスの一部については前期高齢者から後期高齢者に向けて、消費志向性が高まる。このポテンシャルを発揮するため、コンシューマー産業には「つながり消費」・「オンライン化」・「インフレ対応」の3つの観点からのアプローチが不可欠になる、というのが本論の仮説である。

日本政府は物価と賃金との好循環を通じたデフレからの完全脱却を政策目標としている。企業にとっても2021年末から続く物価上昇に消費者がどのように適応しようとしているのかを的確に捉えることは重要である。そこで本稿では四半期ごとのシリーズとして、公的統計や消費動向を手掛かりに、小売・外食をはじめとしたB2C企業へのインプリケーションを示す。 現状、消費者は値上げ疲れの様相を深め、物価に応じて賃金も上がるとの確信も持てていない。年金生活者を筆頭に、日本の総世帯の約60%は物価上昇の影響を強く受けている。そのため、消費者の価格選好性がB2C企業の事業戦略を左右する形となっている。原材料費、人件費、電気代、物流費をはじめとするコストを製品価格に転嫁しにくい状況下で今後、価格競争が加速する懸念もある。 さらにリスク要因として、インバウンドをターゲットとする宿泊や飲食などの産業が、高収益をテコに人手を引きつければ、労働集約的な構造を脱却できない企業の収益機会はさらに奪われかねない。このように外部環境が変革を求める中でB2C企業は短期では、コスト競争力のさらなる強化を通じた資本集約と、価格コントロール力の構築を進める必要がある。中長期では「客数×客単価型」ビジネスからの転換が求められよう。
