
2024年の合計特殊出生率は1.15と1947年以降で最も低くなった(※1)。結婚の減少に伴い第1子の出生率が下がっているのが主因だ。1990年以降は比較的安定していた第1子出生率が近年低下していることで、少子化対策における結婚支援の重要性が増すのに加え、事実婚など社会規範の捉え方も影響を受ける可能性がある。本稿では、データに基づき少子化の現在地を確認していく。
目次
合計特殊出生率は厚生労働省の人口動態統計に含まれる。その年に生まれた子どもの数を日本人女性の出産時の年齢(15~49歳)ごとに割って算出する。戦後、最も高かったのは1949年の4.54だった。人口を維持するのに必要な水準は2.07程度であり、1975年に2を割り込んでから、長期的な低下傾向にある(図表①)。
(図表①)出生数と合計特殊出生率の推移
日本では婚外子が少なく、結婚の動向が合計特殊出生率にも影響する。婚姻率が低下基調にあったところに、2020年に発生したコロナ禍が追い打ちをかけた(図表②)。
(図表②)婚姻率の推移
第1子の出生率が低下
結婚減少の影響を合計特殊出生率で確認するため、第1子、第2子、第3子以降というグループに分解してみたのが図表③だ。第1子出生率は2022年に、1990年以降で初めて0.6を下回った。10年間ごとに比較していくと、2024年は2015年に比べ0.16低下している。2005年と2014年では0.07の上昇、1995~2004年では0.02の小幅な低下だった。
(図表③)出生順位ごとの出生率の推移
第1子出生率の動きが乏しく、第2子や第3子以降の出生率の影響力が強い時は少子化対策として、子育て世代向けの施策を中心にするのが合理的だろう。政府や地方自治体がこれまでやってきた児童手当の増額や0~2歳の第2子以降の保育料無償化、待機児童対策、育児休業の取得率向上策などはデータとも平仄が合う。一方、第1子出生率が低下している現状を踏まえれば、非正規で働く若年男性の正規化支援など結婚を後押しする方策や、事実婚でも子どもを生み育てやすい社会環境の整備などが求められる。
政府は、若年人口が急減し始める2030年までを「少子化を反転するラストチャンス」ととらえてきた(※2)。2024年の婚姻率は5年ぶりに増加し、結婚のペントアップ(先送り)需要が考えられる一方、2025年以降は再び低下に転じて非婚がノルム(社会通念)として定着するリスクもありそうだ。現在は分水嶺に立っており、スピード感を持った少子化対策が欠かせない。
就職氷河期世代の出生率は緩やかに上向いていた
少子化対策が出生率にどう影響するのかを調べるため、女性の生まれた年ごとの出生率を追跡してみると、一定の政策効果があった可能性が示された。図表④は、1960~79年生まれの女性を対象に、15~44歳の出生率を累積したデータだ。就職氷河期(生まれ年は1970~1982年頃)に該当する層の出生率は前の世代から続いた低下傾向が下げ止まって、後期の世代は緩やかながら上向いているのが確認できる。政府が少子化対策に力を入れ始めたのは1990年の「1.57ショック」以降だ。就職氷河期という厳しい環境であったものの、出産適齢期に育児休業や保育所整備などが進んだことが、この世代の出生率を下支えしたのではないか。
(図表④)1960~79年生まれの女性の累積出生率(期間は15~44歳)
出生数は以前のレポート(リンク)で推計した通り、70万人を初めて下回った。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が2023年4月に公表した将来推計人口の中位推計(※2)より、14年早い70万人割れとなった。
日本人の出生数減少と合わせて注目しておきたいのは、外国人の急増だ。出入国在留管理庁によると、2024年末時点の在留外国人数は376万8,977人と、前年末から35万7,985人増えた。社人研は、外国人が年16万人増えると推計していたが、24年の増勢はその2倍以上だ。出生数の減少ペースも踏まえれば、2070年に総人口の1割を外国人が占めるという社人研の予測が、想定よりも早く現実となる可能性がある。日本は人口を起点に社会の変化が加速する時代に足を踏み入れているのかもしれない。
【参考資料】
(※1)令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai24/index.html)
(※2)内閣官房「こども未来戦略」(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_mirai/pdf/kakugikettei_20231222.pdf)
(※3)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(全国)」(https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp_zenkoku2023.asp)
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