海外の有力スタートアップやVCが登壇し、国内外の産官学関係者が集う「グローバル量子トモダチの会 2026」が東京で開催されました。会場では、スタートアップの最先端の技術が産業実装へと着実に近づいている現在地が示され、日本市場への期待の高まりとともに、国際連携が量子分野の発展を加速させていることが印象づけられました。

世界の量子プレイヤーが東京でつながる、QIHが描く日本の量子戦略


6月3日、量子技術イノベーション拠点(QIH)主催によるピッチ・ネットワーキングイベント「グローバル量子トモダチの会 2026(Global Quantum Tomodachi Meetup 2026)」が開催されました。折しも台風6号が接近し、会場となった東京でも激しい雨風に見舞われましたが、無事開催に至りました。司会を務めた一般社団法人量子フォーラム 量子コンピュータ技術推進委員会 幹事であるデロイト トーマツの寺部雅能は、「こんな日に来てくださった皆さんこそ本当の『トモダチ』です」と、多くの来場者に感謝を述べました。


最初に、量子フォーラム技術担当理事 慶應大学の田中宗教授が「今日は、国内外のスタートアップ、投資家、研究者、企業などの量子プレイヤーが集っています。国際的な連携やパートナーシップを通じて、新しいアイデアやビジネスを築きましょう」と挨拶しました。次に、QIH/理化学研究所(理研)量子コンピュータ研究センター 副センター長の萬伸一氏が、理研が中核機関となっているQIHを紹介しました。日本政府が推進する量子イノベーション戦略に基いて2021年に発足し、産官学連携による研究・実証・オープンイノベーション、知財管理、人材育成などに一気通貫で取り組みます。量子コンピュータに関する主要トピックとしては、理研と大阪大学の共同開発による、主要部品・パーツやソフトウェアが全て日本製となる「純国産」超伝導量子コンピュータが挙げられます。初号機は2023年に発表した64量子ビットの「叡(英語表記“A”)」、2026年3月には144量子ビットの「叡-Ⅱ」のクラウド運用を開始しました。また、スーパーコンピュータ富岳と叡との連携によるハイブリッドプラットフォームの実証実験も行っています。

 

図:QIHについて

出所:理化学研究所

 

世界のスタートアップが示したテクノロジーの現在地


ピッチには6カ国から7社の量子スタートアップと1社の量子特化型VCが登壇しました。量子領域のリーダー企業の取り組みを通じて、量子コンピュータ技術の進化、特にスタートアップの技術の先端性と幅広さ、そして世界から日本への注目が語られました。

 

(掲載は登壇順、社名、国名、登壇者名、役職)


OQC 英国 杉浦 敦 Country Manager
OQCは英国で最初に商用量子コンピュータを製造した、オックスフォード大学発のスタートアップです。2026年3月に、シリーズCラウンドで3億5,000万ドルの大型調達を行っています。他のプレイヤーと異なる特徴として、杉浦氏は商用データセンターと統合していることを挙げました。日本では2023年に32量子ビットコンピュータ「OQC Toshiko」をエクイニクスのコロケーションデータセンターに設置し世界に公開しました(*1)。公共ネットワークを介さずダイレクトに連携しており安全にアクセスできます。実用化に向けて各業界での実装に取り組んでいます。

 

Quantum Machines イスラエル Gilad Ben-Shach  VP, Business Development 
量子制御システムの有力ベンダーであるQuantum Machinesは、顧客の1/3はアカデミアですが商用も急増しており、日本の顧客のうち1社は豊田通商だと紹介しました(*2)。同社のソリューション「QUA」は、QPU(量子プロセッサ)とCPU・GPUを統合、遅延を解消しパフォーマンスを最適化し、量子プログラミングと古典プログラミングをつなぐ、包括的なソフトウェアスタックです。2026年3月には、Rigetti社との共同開発で、QPU の安定的かつ高パフォーマンスな動作を実現し、2量子ビットゲートの忠実度で中央値99.5%を達成したと発表しました(*3)。

 

Q-CTRL オーストラリア Alex Shilh  VP of Product
Q-CTRLはTIME誌の「TIME100企業:業界リーダー」に、量子技術分野でIBMなどと並んで選出されました(*4)。ハードウェアを安定化させ、量子のパフォーマンスを最大化する基盤ソフトウェアを提供します。量子コンテナ型仮想化のパイオニアでもあり、NVIDIAなどの協業で量子仮想化機能を提供しています。日本での実績も紹介しました。理研のJHPC-quantumプロジェクト(HPCと量子コンピューティング連携によるハイブリッドプラットフォームを研究開発するプロジェクト)にも参画しています。また、三菱ケミカルとの共同研究は化学分野で注目すべき事例であり、材料開発シミュレーションにおいて計算能力を5倍向上させ、ゲート数を9割削減したと強調しました。

 

QuEra Computing 米国 Trevor Chaloux  Director of Marketing
ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)の技術を基盤とするQuEraは、中性原子方式の量子コンピュータを開発し、2億3,000万ドルのシリーズBラウンドの資金調達を行っています。なお、2025年にデロイト トーマツとの提携も発表しています(*5)。誤り訂正技術を実装した同社の量子コンピュータは、オンプレミスやAWSが提供する量子クラウドサービス(Amazon Braket)で利用できます。量子コンピュータ実用化の鍵を握る誤り訂正と精度については、2量子ビットゲートの忠実度99.941%を達成するなど、高い成果を上げています。Trevor氏は「商業的な価値に注目して欲しい」と述べました。

 

Nu Quantum 英国 Ed Wood VP 
Ed Wood氏は、実用的で大規模な量子コンピューティングを実現するには、ネットワークによるスケールアウトが有効だと説明しました。Nu Quantumは、個々の量子プロセッサをモジュール化された分散型アーキテクチャで結びつけることに焦点を当てています。ソリューションとしては、Entanglement Fabricアーキテクチャによる量子ビット・光子インターフェース装置を提供しています。プロセッサ間に量子もつれ(quantum entanglement)を織り込むことで、将来のデータセンターに必要な大規模かつ誤り訂正の能力が高いシステムを実現します。

 

Quantonation フランス Ylan Tran
Quantonationフランスに本社を置く量子技術特化型のVCで、デロイト トーマツは2025年にMOUを締結し協業を行っています(*6)。投資家の立場でピッチを行いました。運用額は5億ユーロ以上、ポートフォリオには40社の量子スタートアップが含まれます。Ylan Tran氏は「私たちは、量子コンピュータ、深層物理学、ネットワーク、センシング等の量子技術に投資を行っています。投資だけではなく、ベンチャースタジオの設立などエコシステムの構築を進めています」と述べました。日本で最初の投資先となったのはYaqumoです。2025年設立で中性原子方式量子コンピュータを開発していますが、早くも2026年にQuantonationから出資を受けました。「日本政府が積極的に投資をしていることもあり、日本市場には注目しています。多くのスタートアップと出会いたいし、教育やリサーチのプログラムも展開したい」と強い期待を示しました。

 

Qunova Computing 韓国 Kevin Rhee CEO/CTO
量子コンピュータは、新薬や素材開発などの領域で優位性を発揮する可能性がありますが、誤り(ノイズ)を訂正できないNISQ (Noisy Intermediate-Scale Quantum) の段階です。QunovaはNISQで実用的な計算を行えるソフトウェアを開発しています。量子化学計算においてエラー要因を減らし高い精度を発揮する「Hi-VQE」アルゴリズムを開発しました。NISQハードウェアで量子優位(量子コンピュータが既存のスーパーコンピュータよりも特定の問題でより迅速かつ正確に計算できる状態を実現すること)を達成する成果を得ています。2026年6月には理研のJHPC-quantumプロジェクトにも採択されました。

 

Classiq Technologies イスラエル Nir Minerbl CEO
Nir Minerbl氏は、「量子コンピュータのハードウェアは多くの企業が参画しており進化が進んでいます。一方我々はソフトウェアのリーダーです。世界で最初に量子コンピュータのOS(オペレーションシステム)を開発し提供しています」と強調します。同社のプラットフォームを使えば、馴染みのある手法を用いてアルゴリズムを開発し、自動的に圧縮・最適化した量子回路で実行することができます。多くの業界で活用可能性があるといい、一例としてデロイト トーマツと三菱ケミカルと共同で行った有機EL材料探索の計算のPoCで量子回路圧縮の成果を上げたことを紹介しました(*7)。

 

日本市場で広がる産業実装に向けた期待と共創


本イベントからは、スタートアップの挑戦を通じて進化を続ける量子技術が、産業実装の観点で存在感を高めていることがうかがえました。加えて、日本政府が量子を重点分野と位置付け、官民連携による投資や基盤整備を進めていることもあり、投資家、スタートアップの双方が日本市場に関心を寄せていることも強く印象付けられました。
イベントの最後はネットワーキングで、寺部は「ネットワーキングこそがメインイベントです。新しい人10人と話してみてください」と呼びかけました。ネットワーキングの間には学生ショートピッチも行われました。今回生まれた『トモダチ』のつながりは、共創の起点として、量子時代の新たなビジネスを形づくっていくのかもしれません。


運営を担当したデロイト トーマツベンチャーサポートの尾作千尋は、「台風の中でもこれだけの人が足を運んでくださったことに非常に驚きました。量子関心層から事業や研究にて実際に取り組んでいる層まで幅広く来場して頂き、日本と海外の量子エコシステムの距離を大きく縮めるイベントになったと思います」とイベントを振り返りました。
 


*1 
https://oqc.tech/company/newsroom/oqc-installing-quantum-computer-in-equinix-japan/

*2 Toyota Tsusho Partners With Quantum Machines To Provide Quantum Solutions for Japanese Market
https://kyodonewsprwire.jp/release/202207053459

*3 Quantum Machines Reaches a Novera QPU Performance Milestone with Its OPX1000 Platform
https://www.quantum-machines.co/press-release/rigetti-novera-qpu-performance-milestone/

*4   2026年 TIME100 Companies: Industry Leaders 
https://time.com/article/2026/04/27/time100-companies-new-frontiers/

*5 デロイト トーマツ、量子コンピュータ開発の米QuEraと日本での量子産業発展の加速を目指す戦略的協業を開始
https://www.deloitte.com/jp/ja/about/press-room/nr20250225.html

*6 デロイト トーマツ、量子特化型ベンチャーキャピタルのQuantonationと日本での量子スタートアップエコシステムの創出を目指す協業を開始
https://www.deloitte.com/jp/ja/about/press-room/nr20250701-2.html

*7 デロイト トーマツ、ソフトウェア会社Classiq、三菱ケミカルが材料開発用途での量子コンピュータ早期実用化に向けて最大97%のアルゴリズム圧縮を実現
https://www.deloitte.com/jp/ja/about/press-room/nr20241211.html

 

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