
トラックドライバーが不足する「2024年問題」を背景に、環境負荷低減と効率化を両立するモーダルシフト(鉄道等による輸送への転換)が再注目されています。「貨物鉄道論文賞」特別賞を受賞した、合同会社デロイト トーマツの上田恵美子が、鉄道とトラックなどを効果的に組み合わせる「モーダルミックス」の実現に向けた資金調達の多様化などを考察し、物流の未来を展望します。
「2024年問題」とモーダルシフト再考
―「貨物鉄道論文賞」特別賞の受賞おめでとうございます(※1)。以前にも同賞を受賞され2度目の受賞だそうですね。年月を経て再度取り組んだことも含め、きっかけを教えてください。
貨物鉄道論文賞のテーマは、モーダルシフト(トラックなど自動車による貨物輸送を、環境負荷が小さく大量輸送が可能な鉄道や船舶に転換すること)です。1980年代には既に登場していた言葉なのですが、位置づけは変化してきています。トラックから鉄道にシフトすることで、輸送量あたりのCO2排出量を9割削減できるので、かつては地球温暖化対策やSDGs達成に向け、環境面での重要性が特に強調されていました。
それが2024年以降、ドライバー時間外労働規制に伴う労働力不足への対応が加わりました。物流におけるGXやDXの推進もモーダルシフトを後押し、論点が多角化しています。データを見ると鉄道輸送の比率は高まっているわけではありませんが、政府の総合物流施策大綱で鉄道による輸送量目標が設定され支援が強化されているほか、災害の頻発や輸送需要の高まりもあり、モーダルシフトは改めて注目される今日的なテーマになっています。こうした点に興味を持ち、今回の論文執筆に至りました。
―街中を走っているトラックと比べて貨物鉄道はあまり馴染みがない人が多いかもしれません。
東京などでは貨物列車を目にすることが少ないでしょうし、旅客駅と違って貨物駅は一般には知られていないかもしれませんね。貨物列車を牽引する機関車には「桃太郎」「金太郎」といった愛称がついているものもあります。機会があれば注目して見ていただければと思います。今回、日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)が受賞者を東京都品川区にある東京貨物ターミナル駅の見学に招待してくださったので、私は東京貨物ターミナル駅に入ってくる貨物列車を間近で見ることができました。ちなみに、東京貨物ターミナル駅は、東京ドーム16個分もの広さがあり、国内最大の貨物駅です。大変広大な敷地に着発線、留置線、荷役線など多数の線路があり、そこにレールゲートWEST・EASTという大規模施設が隣接しています。JR貨物によると、保安を担当する職員が毎日目視で点検しているそうですが、物流は止めることができないので、着発の合間にメンテナンスを行っているそうです。

桃太郎(EF210形式) 金太郎(EH500形式)
出典:国土交通省(※2)
レールゲートや最新技術が拓く次世代物流
―モーダルシフトは物流における長年のテーマというお話ですが、なかなか進みにくいのはなぜでしょうか。また、その問題はどのように解決していくことができると考えますか。
全国平均では鉄道へのモーダルシフトの進捗は遅く、一部の企業が先行して実施しているという状況です。これには、もともと日本は国土が狭く、トラック輸送の利便性が相対的に高いという事情があります。ジャストインタイム生産方式や柔軟なファースト/ラストマイル輸送への需要の高さ、道路ネットワークの整備が進んでいるといった社会的な事情も、日本で鉄道輸送よりもトラック輸送が選好される理由になっているといえます。
輸送手段としての鉄道のメリットは、少ない人員で大量・長距離輸送ができる効率性ですが、ファースト/ラストマイルにおいて役割を果たすことが難しいのです。貨物列車は最終目的地の前までモノを運べるわけではありませんから、トラックなどの小回りの利く別の輸送手段が必要になるのが現実です。さらには、災害などで鉄道が不通となるリスクもあるため、輸送そのものの安定性を担保するという意味でも、鉄道に代替するトラックの役割は決して無視できません。
つまり、単純にトラック輸送を鉄道輸送に置き換えるという議論ではなく、鉄道輸送は長距離・大量輸送担うバックボーンとしつつも、ファースト/ラストマイルでトラック輸送を組み合わせていく「モーダルミックス」が、今日の物流現場でのモーダルシフトの現実的な方向性です。貨物駅の前後でトラックと効率的に連携できれば、鉄道輸送のメリットを活用しつつ物流全体を効率化することもできます。昨今はこのミックスの中に、自動運転やロボット、ドローン、AIなどの新たなテクノロジーを導入する取り組みが行われています。自動運転トラックによる運送は政府のプロジェクトも進んでいます。(※3)
―モーダルシフトだけではなくモーダルミックスがポイントになるのですね。モーダルミックスを推進するためには何が必要になりますか。
鉄道輸送を中心にモーダルミックスを推進するうえで重要なのは貨物駅です。貨物駅での取扱量をさらに増やす必要があります。そこで、私が注目するのは、レールゲートと呼ばれる貨物駅内や近隣に立地する高機能な物流施設です。鉄道・トラック・海運・航空物流の接続性を向上させ、鉄道駅のハブ機能を大きく高めることができます。
レールゲートは、物流の要衝となるターミナル駅に設置されます。先ほど言及した東京貨物ターミナル駅のほか、現在、札幌と千葉に開設されており、仙台、名古屋、大阪、福岡などでも計画が進んでいます。中でも、東京貨物ターミナル駅のレールゲートWEST・EASTは、首都高IC、東京港国際コンテナターミナル、羽田空港に近いという立地を生かし、異なる輸送モードの結節点として重要な役割を果たしています。
日本の物流ネットワークは関東・中部・近畿の三大都市圏を中心に形成されています。貨物の量は、首都圏から中部など西に向かう荷量が最も多いのですが、このエリアを走る貨物列車は多数設定されていて、キャパシティは逼迫していると推測できます。そう考えると、名古屋以西でのレールゲート開設は重要な役割を果たすと予想します。
貨物鉄道の輸送量を増やすには、列車に載せるコンテナを大きくしたり多くしたりというやり方もあるでしょう。ただ、現状大型コンテナを多量に取り扱える貨物駅は限られており、やはりレールゲートによる機能向上が必要となります。
モーダルミックス推進のカギを握る資金調達
―モーダルミックス実現に向け、レールゲートや最新技術の活用などによる物流の高度化を進める際、課題や考慮すべき点はありますか。
国内にJR貨物の貨物駅は約240あります。レールゲートのような施設が各貨物駅にあれば便利でしょうが、それはあまり現実的ではありません。課題の一つは、コストと資金調達です。レールゲートのような大型施設の建設やシステム導入など、インフラの整備と運用には巨大なコストがかかります。東京貨物ターミナル駅を見学した際にも、これほど大規模な施設を持続可能な物流インフラとして維持していくのはとても大変だろうと改めて感じました。私は、貨物鉄道を中心としたモーダルミックスの実現に向けては、資金調達が大きなテーマとなると考え、論文ではその点にも言及しました。授賞式では、審査員の方々から、「物流ネットワークの構築だけでなく、新たな資金調達方法の提案についての論考を評価した」とのコメントをいただきました。
―資金調達について、具体的にはどのような提言をされたのでしょうか。
JR貨物は1987年の国鉄分割・民営化によって発足した会社です。その後資金調達環境は大きく変化したでしょう。現在、貨物ターミナル駅の機能拡充に向けた投資は、JR貨物の自己資金、グリーンボンド、金融機関からの融資、民間企業との連携投資などを中心に行われていますが、レールゲートに関しては、民間のディベロッパーも共同事業者として参画しています。
もともと国鉄ですから、国や自治体の補助金なども重要な資金源となり、国の重要インフラという側面からみても親和性が高いといえます。そればかりではなく、貨物ターミナル駅と連携した物流不動産であれば、国内で複数の物件を運用した実績のあるREITの知見も活用できるだろうと述べました。REITは物流施設運営ノウハウを豊富に持っているので、レールゲートによる機能強化を進めやすくなるかもしれません。
より長期的かつ安定的な資金調達先としては、インフラファンドの活用も有効だろうと考えます。国内の上場インフラファンドは、現状は再生可能エネルギー関連のインフラへの投資がメインです。しかし貨物鉄道は社会的基盤ですから、今後は非上場インフラファンドを含めた将来的な資金供給の活発化が望まれます。
法規制などが異なるため一概には比較できませんが、海外には鉄道インフラへの民間資金流入の実績もあり、参考になるでしょう。
―「2024年問題」で、地方の物流はいっそう深刻さを増しています。地方の課題についてはどのように考えますか。
地方で持続可能な物流をいかに維持していくかは難しい問題です。物流は、経済の血液に例えられます。鉄道輸送が都市間を結ぶ太い血管で、地域のトラック輸送が毛細血管として隅々まで荷物を届けるのです。地方におけるモーダルミックスは鉄道輸送と地域のトラック輸送が一体として機能することで実現します。しかし、高齢化と過疎化が進む地方では、トラックドライバー不足の深刻化が避けられません。そして、物流が滞ると地方の衰退を招くことになります。
こうした中で、自動運転トラックやロボットなどの新たなテクノロジーは、特にリソースが不足する地方圏において重要になってくるでしょう。地域経済の活性化にも波及していくことが期待されます。
次世代物流の実現に向けた展望
―今後のモーダルシフト、モーダルミックスの展開で上田さんが注目している点はありますか。
実は、論文で検討しきれなかった課題もたくさんあり、その一つが貨物の積載率です。当然、貨物の流れには偏りがあります。前述のように、関東から西へ向かう貨物量は多いのですが、逆方向の貨物も同程度あるとは限りません。多くのコンテナを連ねて走っている貨物列車も、もしかするといくつか空のコンテナを運んでいるかもしれません。コンテナの貨物を目的地で降ろした後、空で回送せず、復路で貨物を積んで出発地に戻ることをラウンド輸送といいますが、往路と復路をうまくマッチングすることができれば、環境負荷の低減に加え、コストダウンにもつながります。ラウンド輸送をモーダルミックスと組み合わせれば、より効率的な貨物輸送が実現します。
こうした取り組みでは、物流事業者や自治体・政府などが協調することが重要になります。マッチングや最適化を行うためには、各地の物流量やスケジュールなどの様々なデータを集約して分析する必要があります。鉄道輸送に限らずトラックや船舶など、輸送手段を跨いで情報を共有することができれば、効果も最大化できるでしょう。もちろん難しいテーマですが、物流の課題意識と危機感は社会全体が共有しています。これから様々な取り組みが進むことを望んでいます。

上田 恵美子
合同会社デロイト トーマツ チーフスタッフ
政府系金融機関にて中小企業向け政策金融に従事、中小企業に関する調査・研究業務を経験。2019年からデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(現合同会社デロイト トーマツ)でリサーチ業務に従事。2009年に第10回鉄道貨物振興奨励賞特別賞、2025年に第25回貨物鉄道論文賞特別賞を受賞。著書は『地域再生―あなたが主役だ』(日本経済評論社、2010年、共著)など。
出典
※1 日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)「第25回 貨物鉄道論文賞」について(2025年12月)
https://www.jrfreight.co.jp/info/2025/files/20251201_02.pdf
※2 国土交通省 車両紹介を加工して作成
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000022.html
※3 国土交通省 「自動運転トラックによる幹線輸送の社会実装に向けた実証事業」
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_tk1_000271.html




