SusHi Tech Tokyo 2026に世界のスタートアップが集結
2026年5月27日~29日に、東京ビッグサイトをメイン会場として、東京都主催によるカンファレンスSusHi Tech Tokyo 2026が開催されました。「Sustainable な都市を High Technology で実現する」をテーマに、世界から700社以上のスタートアップが出展しました。
本稿では、フィジカルAIに焦点を当てます。NVIDIAのCEOジェンスン・フアン氏も、AIは言語や画像を生成する段階から行動ができるAIへと進化していると述べ、世界的に関心が高まっています(*1)。過去には、ASIMOなどヒューマノイドロボットで世界のリーダーだった日本ですが、競争のステージは大きく変わりました。自律的に判断し複雑なタスクを実行する最新のフィジカルAIは、米国と中国がしのぎを削っています。
日本発フィジカルAIの強みは「現場」
1日目のセッション「日本発フィジカルAIは、世界を獲れるのか?~ロボティクス大国・日本、主役奪還のシナリオ~」には、日本のスタートアップ3社が登壇しました。アルムは、金型切削加工などの製造工程を自動化するAI開発や、技術を搭載した加工機械販売を行っています。フェアリーデバイセズは、現場作業者が着用する首掛け型のウェアラブルデバイスで画像や音を記録し、熟練技術者のノウハウをAIが学習します。Jizaiは自律的に考え行動する汎用AIロボット開発に取り組んでおり、CES2025にカスタマイズ可能なロボットMi-Moを出展しました。
モデレーターを務めたDG Daiwa Ventures マネージングディレクター 渡辺大和氏は、「AIの基盤モデルは大資本を持つ海外企業が先行しています。フィジカルAIはスタートアップが牽引していますが、中国企業が破壊的な低価格のロボットを発売し、世界を驚かせています。日本の勝ち筋について議論しましょう」と口火を切りました。Jizaiの代表取締役CEO石川佑樹氏は「私たちは汎用ロボットに挑戦する立場です。市場と近い立場で、ユーザの一次情報を持っていることを強みにしたいと考えています。家庭内で身近に接するロボットには、機能的に役立つかどうかだけではない、なんだか好き、好ましいという要素も重要です。特に後者について、市場との対話を通じて高い解像度で情報を持ちたい。CESでは、『ロボットが可愛すぎない、怖すぎないのが良い』という評価を得ました」と語りました。
フェアリーデバイセズの代表取締役CEO藤野真人氏は「私はフィジカルAIという言葉が存在しない時代から、現場で働く人の能力を拡張するAIを手掛けてきました。VLM(ビジョン・ランゲージ・モデル:視覚言語モデル)は、大量のネット動画を使って学習する海外大手ベンダーが強い。家庭のエアコン掃除の動画はYouTubeにたくさんあるでしょう。しかし、熟練工による空調機械の保守・修理などB2Bの専門的な技術の動画はネット上にはありません」と言い、フェアリーデバイセズとダイキン工業が共同開発したAIエージェントが、GENIAC-PRIZEで製造業の暗黙知の形式知化の最高賞を受賞したことも紹介しました(※2)。デバイス開発では、現場作業の邪魔にならず誰でもストレスなく使えるUXにこだわったそうです。アルムの代表取締役CEO平山京幸氏は、日本マイクロソフトとの協業について述べました(※3)。「製造業のAI活用というと生産管理や在庫管理などオフィスでの活用が一般的です。しかしAIで生産ラインを動かすことができるなら、そこには非常にポテンシャルがあります。私達のAI技術は、自然言語を使いボタン一つで工作機械を操作できます。α版、β版の段階でリリースしトライアンドエラーでリアルなデータを得ています。マイクロソフトも私達が持っている工場の現場のノウハウに期待しています」。3社に共通したのは、現場で得られるデータは、失敗からのフィードバックも含めて強みになるという指摘でした。
左からDG Daiwa Ventures渡辺大和氏、アルム株式会社 平山京幸氏、フェアリーデバイセズ株式会社 藤野真人氏、株式会社Jizai 石川佑樹氏
ロボット共生社会の実現へ、鍵を握る実環境データ
2日目のセッション「生活空間に溶け込むPhysical AI x Robotics:データ・シミュレーション・実環境をつなぐ実装アプローチ」は、ロボットが身近な存在になりつつある未来を示すとともに、実現に向けた課題も明らかにしました。Woven by Toyotaシニアエンジニアのトム・スチュワート氏は、トヨタが静岡県裾野市で開発を進めるWoven Cityで、一般社団法人AIロボット協会も参画してロボット活用の実証を進めていることを紹介し(※4)、「ロボットが担うタスクの候補リストは何百もあります。私自身は家庭でトイレ掃除をするロボットというアイデアが気に入っています。頻繁にやらないといけないが人があまりやりたくない、複雑性もあるタスクだからです」と語りました。フォースティードロボティクスの代表取締役 COO & CFO 諸岡亜貴子氏は、地図やSLAMに依存せずカメラ映像のみでロボットが自律走行できるナビゲーションエンジンなどの製品をローンチしていることを紹介しました。
また、フィジカルAIのスタートアップにとってデータは課題だと言います。「フィジカルAIの開発には実環境のデータが必要不可欠です。米国や中国の企業は大規模データを収集していますが、日本は規制があり、ヘルスケアなど機密性が高いとして取得困難なデータも多い。それが日本の技術の進化のスピードを鈍らせています」。スチュワート氏も「ロボットをデータでシミュレーションした後に実環境に置くとうまくいかないというギャップは起きます。Woven City は、VLA(ビジョン・ランゲージ・アクション:視覚言語行動)モデルを開発するのに、現実の都市空間で豊富なフィジカルデータを収集し検証できる環境です」とアピールしました。
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左から エヌビディア合同会社 平野一将氏、Woven by Toyota トム・スチュワート氏、フォースティードロボティクス 諸岡亜貴子氏
人手不足社会で広がる日本の勝機
高齢化と労働力不足が深刻化している日本では、課題解決の切り札としてフィジカルAIは確実に需要があるといえるでしょう。TechCrunchのレポートは「日本ではロボットが仕事を奪うのではなく、フィジカルAIは事業存続のために導入されている」と述べています(※5)。「フィジカルAIを活用しなければ社会・経済を維持できない」という状況は、社会実装が進む強力なドライバーになります。
1日目のセッションの日本の勝機を改めて考えると、米中と同じ土俵で基盤モデルの開発競争をすることではないのでしょう。いち早く、人手不足に悩む物流、保守、介護、農業などの現場で実際に利用できるハードウェア・ソフトウェアを開発し、継続的に運用できるビジネスモデルを構築することが重要になりそうです。スタートアップの技術やアイデアはイノベーションの原動力になっており、大企業、行政などを含めた新たなエコシステムの拡充も欠かせません。こうした積み重ねが、日本のフィジカルAIの競争力につながっていくと考えられます。
*1 CES 2025:AI は「驚異的なペース」で進歩していると NVIDIA の CEO が語る
https://blogs.nvidia.co.jp/blog/ces-2025-jensen-huang/
*2 ダイキンとフェアリーデバイセズが開発するAIエージェントが経済産業省とNEDO主催の「GENIAC-PRIZE」で最高賞「第1位」と特別賞「AIエージェント賞」をダブル受賞
https://www.daikin.co.jp/press/2026/20260325
*3 アルム、日本マイクロソフトと協力し、Azure OpenAIを活用した次世代切削加工機「TTMC Origin(オリジン)」の開発を推進
https://arumcode.com/news/other_info/%e3%82%a2%e3%83%ab%e3%83%a0%e3%80%81%e6%97%a5%e6%9c%ac%e3%83%9e%e3%82%a4%e3%82%af%e3%83%ad%e3%82%bd%e3%83%95%e3%83%88%e3%81%a8%e5%8d%94%e5%8a%9b%e3%81%97%e3%80%81azure-openai%e3%82%92%e6%b4%bb
*4 Toyota Woven CityのInventorとして参画――AIロボットの社会実装に向けた実環境での検討を開始
https://www.airoa.org/ja/updates/2026-4-22
*5 In Japan, the robot isn’t coming for your job; it’s filling the one nobody wants
https://techcrunch.com/2026/04/05/japan-is-proving-experimental-physical-ai-is-ready-for-the-real-world/





