2025年10月に大阪・関西万博が閉幕しました。半年の会期中、一般来場者は2500万人を超え、ミャクミャク人気などでも話題を集めました。経済や社会への影響という観点ではどのような効果があったでしょうか。また、未来には何を残すことができるのでしょうか。デロイト トーマツのエコノミクスチームが、経済波及効果やソフト・ハードのレガシーについて考察しました。

万博が生み出す経済波及効果とは?

―2025年の重要イベントといえば、なんといっても大阪・関西万博です。報道やSNSを見ると、最終的に随分盛り上がったように見えます。経済や社会へのインパクトを分析するエコノミクスチームの皆さんの観点で、万博を振り返ってお話をお聞かせください。

宮原

万博のような大規模イベントでは、経済波及効果が社会的に注目されます。まず経済波及効果の概念を説明すると、新たな需要が発生した際に、国内でどれだけ生産活動が行われたかを推計するものです。万博ではインフラ整備や建設、イベント運営、来場者の消費といった直接的な経済活動が行われました。それらの直接的な効果に加え、例えばパビリオンの建設であれば、資材の調達、素材の製造、機材や設備のレンタルや購入など、様々な関連産業に波及していきます(間接的な生産活動)。新たに発生した需要を基に、産業関連表という統計表を用いて直接的・間接的な経済活動がどの程度行われたかを推計し、経済波及効果として算出します。

―大規模イベントや産業誘致などによる経済波及効果は、政府、企業、大学などの機関や専門家が様々な数字を発表しています。経済波及効果を算出する際、どのような点がポイントとなりますか。

宮原

信頼性の高い推計を行うため、分析対象となる活動から生まれた需要かどうかを客観的に説明できるように評価することは重要です。ここが曖昧だと幾らでも調整ができてしまい、分析結果の信頼性が担保できません。また、代替効果や機会費用など、マイナスとなる要因があればしっかり考慮し控除するように心掛けています。例えば、万博のレストランで昼食として3000円使った場合、毎日平均的に昼食に800円使うとすれば、差額の2200円だけが万博による経済波及効果といえます。

ミャクミャク人気と観光・地域活性化への波及効果

―万博では経済や社会にどのような効果があったと言えそうでしょうか。

小野田

会場建設やインフラ整備などの建設業、観光や飲食といったサービス業など、幅広い影響があったでしょう。エリア的にも、万博会場や大阪に留まらず、全国的に効果が及んでいると考えられます。インバウンド観光客のデータを見ると、大阪を訪れた外国人客数は過去最高になったとの報道もあり(※1)、万博効果が見て取れます。

川瀬

公式キャラクターのミャクミャクは、発表当初は否定的な意見もありましたが、社会現象といえるような人気者になりました。博覧会協会(2025年日本国際博覧会協会)は、公式ライセンス商品の売上を8月末時点で約800億円と発表しています(※2)。会期が終了しても3月まで販売を続けるということで、更なる売上増が期待されます。

―私も万博会場で、ミャクミャクが皆に愛されているなと実感しました。

宮原

ミャクミャクのキャラクターを使い、関西の9府県でスタンプラリーをするというイベントも開催されました。スタンプラリーを目的とした旅行需要を喚起し、周辺の都市を訪れるといった効果もあったでしょう。これに限らず、万博を契機として多くの地域で機運が盛り上がり、自治体や企業によって様々な仕掛けやイベントが実施されました。政府も、幅広い地域に旅行者の回遊があったという見解を発表しています(※3)。万博が地域振興につながったのは良かった点です。

小野田

デロイト トーマツでは、2023年度に経産省の委託を受け、今回の万博に伴って約2.9兆円の経済波及効果が見込まれると事前の想定値を用いて試算しました(※4)。事後的な検証はこれからとなりますが、事前の試算とは異なる要素もある可能性があります。また、今回の万博開催を通じてみられた課題についても振り返る必要があると思います。さらに、レガシーとして何を未来に残せるかも重要です。

キャッシュレス決済や先端技術など「未来社会の実験場」

―万博の成果を最大化するためには、レガシーの継承や活用も重要になりますね。

小野田

レガシーは、ソフトとハード両面があります。ソフトのレガシーの一つに決済の効率化が挙げられます。万博会場は完全キャッシュレス決済で運営されました。博覧会協会は11月に、利用者の満足度(今後もキャッシュレス決済を利用したいと回答した人)は9割を超え、店舗側は決済関連の作業時間が10分の1程度に短縮できたという調査結果を発表し、「キャッシュレス推進に向けて、レガシーとなる成果を上げた」と総括しています(※5)。今後の行動変容につながるか注目したいです。鉄道のタッチ決済利用も大きく増え、普及が進むきっかけにもなったようです(※6)。クレジットカードなどで利用できるのは、海外からの旅行者にとっても便利ですよね。

川瀬

今回の万博会場は「未来社会の実験場」になると位置付けられていました。万博で展示された先進的な技術は、今後社会実装が進んでいくことが期待されます。過去を振り返ると、2005年に愛知で開催された「愛・地球博」は、未来の技術としてロボットにフォーカスし、ロボット博とも呼ばれました。会場では警備、清掃などを行うロボットが導入されましたが、20年後の現在では、そうしたロボットは身近で目にするようになりました。

宮原

今回の万博も、空飛ぶクルマ、iPS心臓、AIなど様々な技術が披露されました。認知度が高まったでしょうし、万博で得たフィードバックやビジネスマッチングなどから、課題が明確になり、新たなアイデアも生まれたでしょう。社会実装が加速すると考えたいです。

万博のレガシーを未来へどう生かすか

―ハードのレガシーはどうでしょうか。私は万博会場で大屋根リングに感銘を受けたので、一部であっても残るのは嬉しく思っています。

川瀬

万博会場として整備された夢洲をどう活用していくかは重要です。1970年の大阪万博会場は万博記念公園として整備され、岡本太郎の太陽の塔や記念館などが残っています。また、愛知万博の跡地においても、愛知県がジブリパークとして生かすよう推進しました。どちらも、現在に至るまで多くの人が訪れており、レガシーが地域経済に影響を与えているといえるでしょう。

小野田

大阪府・大阪市が検討資料を公開しています(※7)。カジノを含むIRIntegrated Resort)施設の建設が計画されていることに加え、「万博の理念を継承したまちづくり」をコンセプトとして整備を行う構想が発表されています。110万20万人を受け入れたキャパシティがあり、多くの人を強く惹きつけた場所として、夢洲は唯一無二といえるでしょう。万博の記憶を継承しつつ、経済的・社会的インパクトを最大化するにはどのような活用の仕方が望ましいか考えていくことで、次世代に対して大きな価値を創出できるのではないでしょうか。

―万博の成果を検証し、レガシーをどのように活かしていくかについては、これから十分に議論する必要がありますね。

宮原

大勢の来場者が異文化や先端技術に触れ、楽しみ、学んだ万博です。ソフト・ハードのレガシーが負債になるのか、資産になるのかは、これからの取り組み次第です。地域やコミュニティ、人々に対する社会的インパクトを最大化できるよう、産官学あげて力を合わせていきたいですね。

左から宮原、小野田、川瀬

宮原 拓也 合同会社デロイト トーマツ マネジャー
企業調査会社で調査に従事後、延長産業連関表やサテライト勘定など加工統計作成の検討・推計、統計的因果推論や地域経済分析など統計・経済分析業務に取り組む。2024年より現職で、企業・官公庁が取り組む施策の価値の定量化支援、政策立案・推進、EBPM実装などの支援業務を提供。

小野田 峻 合同会社デロイト トーマツ シニアコンサルタント
国内金融機関入社後、個人営業業務を経て企業年金基金向けの資産運用業務に従事。2023年より現職にて、経済波及効果試算やマクロ経済分析等を用いた官公庁向けEBPM支援業務および経済調査分析業務、企業や地方公共団体に向けた社会的インパクト・社会的価値分析業務を提供。

川瀬 茉里奈 合同会社デロイト トーマツ シニアコンサルタント
商社入社後、菓子原料の輸入および菓子製品の輸出を担当。事業投資事業においては、ベトナムでの新規事業の立ち上げやITスタートアップの製品の日本展開に携わる。2023年より現職、官公庁向けの経済波及効果分析、企業向けのビジネスデューデリジェンス、経済指標見直しにおける妥当性検討等の事業に従事。

1 読売新聞「大阪を訪れた外国人客数、上半期で過去最高の847万人中国、韓国、台湾など」(2025730日)
https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20250730-OYO1T50006/

2 2025年日本国際博覧会協会 会議資料(2025107日)
https://www.expo2025.or.jp/wp/wp-content/uploads/20251007_rijikaisiryou.pdf

3 国土交通省 官公庁 村田長官会見要旨
https://www.mlit.go.jp/kankocho/page01_00050.html

4 経済産業省 商務・サービスグループ 博覧会推進室 「大阪・関西万博経済波及効果 再試算結果について」(2024年3月)
https://www.meti.go.jp/policy/exhibition/keizaihakyukouka.pdf

5 2025年日本国際博覧会協会「大阪・関西万博における全面的キャッシュレス決済運用の効果検証について」(202511月)
https://www.expo2025.or.jp/news/news-20251117-01/

6 日経新聞「関西の鉄道タッチ決済、大阪万博期間中に8割増 三井住友カード調べ」(202511月7日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF0754N0X01C25A1000000/?msockid=14b97c38e646636c0973692de70162ba

7 大阪府・大阪市「夢洲第2期区域マスタープラン Ver.2.0(案)」(20256月)
https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/109488/masterplanver2an.pdf

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