デジタルマーケティングの在り方が今、大きく変革の時を迎えています。サードパーティCookieの規制強化によって、従来のターゲティング手法や顧客分析は大幅な見直しを迫られることになりました。こうした環境変化の中、大手通信会社が保有する膨大なユーザーデータと先進的なAI技術への期待が高まっています。AIを活用することで多様なデータを高度に分析することが可能となり、従来よりも精度の高いマーケティング施策を実現し始めています。AIによるデータ解析は、消費者の行動やニーズをより深く理解し、企業とユーザーの間に新たな価値を生み出す可能性を秘めています。今回、業界の最前線で活躍するデータビジネスの担当者に、データビジネスの現状と、AIがもたらすマーケティングの未来像について話を聞きました。(聞き手 編集部毛利)

近藤和政

株式会社D2C

新卒で販促支援の会社に入社し、2000年にDAC(現Hakuhodo DY ONE)へ入社しデジタルマーケティングの世界へ。親会社である博報堂DYメディアパートナーズなどへ出向しプランニングや広告企画などに従事したのち、国産DSP Logicadを開発販売しているSo-net Media networks(現SMN)で東日本営業本部のマネージャー等を経験。2021年に(株)D2Cへ入社しプロダクト開発に従事。

データ保護規制が強化される中でのデータビジネス

―現在ご担当されているビジネスについて教えてください

NTTドコモの子会社で、データマーケティングカンパニーである株式会社D2Cで、ドコモのユーザーデータの中から第三者提供許諾を頂いたデータを使いGoogleMetaなどのメガプラットフォームやDAZN等動画サービスでの広告配信メニューの提供を行っています。
オンラインでのデータはもちろん、メガプラットフォーム側が持っていないd払いなどのオフライン、契約者データをもとにした正確なデモグラフィックデータなどが利用できることは当社のサービスの特徴だと考えています。

―近年、データ保護規制が強化される中でデータの扱い方はどう変化していますか

近年サイトを訪れた際に個人データ(Cookieなど)の取得・利用についてユーザーに同意の取得を促すポップアップ(バナー)が表示されるのを皆さんも経験されているかと思います。
これは日本の電気通信事業法の「外部送信規律」、欧州GDPRの「ゼロクッキーロード」、米国CPRAの「オプトアウト規制」などの法律に対応したものです。これら法整備によりデータを扱うための仕組みをしっかり整えることが各事業者に求められ、それができない事業者はこの領域でのサービス提供を行うことはできなくなりました。

GoogleでもCookieデータの代わりとなるプライバシーサンドボックスという取り組みを進めていましたが先日廃止が発表されました。従来型のCookie依存の体制は今後も続くのでしょうか。

しばらくは続くかもしれませんが欧米のデータ保護の勢いが強まっていることは変わらないのでデータ管理の強化・進化は止まらないでしょう。
当社の親会社で、データ保有者のNTTドコモはパーソナルデータ活用についてのサイトを開設するなど情報提供を行い、法令順守はもちろん、プライバシーに十分配慮したうえでデータを有効に活用するため、パーソナルデータダッシュボードを提供しています。他通信キャリアでも同様のデータ管理サービスが用意されておりユーザーが自分自身でデータを管理する時代が来ているといえます。

出典:https://datadashboard.front.smt.docomo.ne.jp/

AIを使ったデータビジネスの強化

―キャリアデータ×AIエンジンでどのようなことができますか

従来の閲覧履歴ベースでの広告配信においては、○○の履歴があるからこの人は○○に興味がある人だというセグメントへの配信というものでしたが、AIを使うことで予兆をとらえてユーザーへ広告でアプローチするということが可能になります。例えば保険はライフイベントなどに合わせて加入する商品が変わります。○○に興味がある人というセグメントでアプローチしても実際は既に加入されている可能性もあります。その予兆をAIで捉えることで、まだ見ぬ潜在顧客へ検討段階でアプローチすることが可能になります。

―オフラインのデータや位置情報のデータが意味を持ってくるわけですね

そうですね、オンラインでの履歴だけでなくどのお店に行ったとかどういう生活スタイルを送っているかなどオフラインでのデータを統合して分析することで、次のアクションにつながる予兆をより高い精度で捉えられる可能性があります。それを数千万人という大規模データから導き出せるのが我々のビジネスの強みです。

AIを使わない場合と使う場合でどういった違いがありますか

AIを使わないとどうしても人の経験や勘でのアプローチになってしまいます。AIを使うと正解データにある様々な特徴のなかからどんな特徴をどのぐらいの重み付けして評価するかモデル化しシミュレーションが可能になります。これにより確度が高いユーザーへアプローチすることが可能になっていきます。

AIでデータビジネスのプレーヤーは増えていくのか

―通信会社に限らず様々なデータホルダーがデータビジネスに乗り出しています。AIの進化と並行してデータビジネスは拡大していくのでしょうか。

自社内でのデータ活用に関しては既に多くの企業が取り組んでいて、AIによってそれがさらに加速するのは間違いありません。また、ウェアラブル端末で取得したヘルスケアデータを保険会社が購入したり、IoT端末で取得した気象データを不動産や物流企業が購入し業務効率化につなげたりするなどの新しいデータビジネスが次々と生まれています。

また、ユーザーデータの広告的ビジネス活用という観点でいうと最近は通信だけでなく金融系企業や小売系企業でも広告利用のサービスがリリースされてきています。

広告ビジネスで使うにあたり重要なのはそのデータがビジネスで使えるかという点です。データのID数、種別とその数、データを使った配信先メディアを保持しているか否か。この辺りが肝かと思います。マトリックスの〇のところはAI活用で得られる多くの示唆があるでしょうし、△のところはAIを使うことでビジネスとして使える状態に近づけることができますが、これらの要素がそもそも一定以上にない×の辺りはAIを使う以前にビジネスとして成立させることは厳しいかと思います。

特に自社メディアがない場合、GoogleMeta等メガプラットフォームとADID IDFAなどをシンク(同期)させる必要が出てきますが、その結果保有ID数の十数%しか配信可能なIDがプラットフォーム側で出現しないといった状況が起こりえるので注意が必要です。(配信に使うとなるとセグメントするので保有ID数が数百万あっても対象を抽出すると数万ID⇒プラットフォームシンク後は数千IDで広告売上が数十万円にしかならず、そもそも事業として成立しにくい)

また自社内での分析等で使えたとしてもビジネスとして外部に提供するにはそれ向けにルールやシステム等の環境整備と維持管理といった多くの対応工数と費用が掛かります。

広告ビジネス領域の話として、AIの進化と並行して拡大していくかは、基礎的な部分(データの数や希少性)があるか否かで分かれてくると思います。ある場合はAIによる示唆などによって拡大すると思います。

本記事に関するお問い合わせはこちら