AIの能力は飛躍的に向上しています。以前、創造的な事は人間にしかできないと言われていましたが、生成AIが絵も描くようになりました。生成AIの用途のトップは「セラピー/話し相手」という調査結果もあり、相談や共感といった人間的なコミュニケーションの領域にもAIが活用されています(※1)。デロイト トーマツ ディープスクエア株式会社(以下DTDS)代表の小林(寛)とCTOの小林(範)が、AIと人間が協働する将来を展望し、人間とAIの役割分担や意思決定の在り方について考察します。

AIと人間の役割はどのように変化する?

2025年はAIエージェント元年と呼ばれているなど、技術の進展が進んでいます。ビジネスにおいて、AIと人間の役割はどのように変化していくと考えますか。

小林(寛)

このテーマは議論が尽きません。責任を持って意思決定を行うことはやはり人間にしかできません。今年、三井住友フィナンシャルグループやキリンホールディングスなどがAI社長、AI役員を導入しました(※2)。経営者の発言や思考を学習したAIが会議で意見を述べるようにもなっています。AIは膨大なデータを学習し休みなく分析できますから、AI社長やAI役員が有益な助言を行い、経営の意思決定が迅速になるという効果を得られることが期待されているでしょう。とはいえ、どのシナリオを選び、どの方向に進むか判断するのは人間です。AIは助言者であり、人間が意思決定者である——この関係が今後の基本形になるでしょう。

小林(範)

AIには思想や好みはありません。AIは公平にデータを見ますが、その公平さが必ずしも社会的な正しさと同じになるとは限りません。例えば、人事領域でAIを使った場合、AIが過去の実績だけを基に評価すると、出産や育児によるブランクがなかった人物を生産性が高いと判断する可能性があります。AIの分析に基づいて採用や昇格を行うと、結果的にジェンダーやライフイベントに基づく多様性を損なう可能性もあります。

「人間がハンドルを握って走るAI車」に求められるもの

ーAIは方向性を決めないが、業務遂行能力が高く推進力はある。ハンドルは人間が握ってエンジンにAIを積んで走る車のようなイメージですね。

小林(範)

車のハンドルを握る人には運転の知識や人間としての倫理観が必要です。それと同様に、AIを活用して意思決定をする人間には、AIの基礎知識や倫理や法律の知見が求められます。

小林(寛)

車に運転免許証があるように、これからの時代、ビジネスを遂行するためにAIに関連した資格を取得するのは有効でしょう。AIに関する代表的な資格試験の1つが一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)の検定試験で、DTDSは資格認定プログラム事業者です(※3)。JDLAG検定取得を管理職の昇格条件にすると決めた大手商社もあり、このような動きは広がるだろうと予想しています。AIリテラシーを持つことが新たなビジネス基礎力になりつつあります。

AIエージェントのインパクト

AIエージェントが注目されています。今後、ビジネスにどのようなインパクトを与えるのでしょうか。

小林(範)

従来の生成AIは、チャットで質問に答える“応答型”の存在でした。一方、AIエージェントは自律的に行動し、具体的なタスクを実行できるのが特徴です。RPAと比べても、AIエージェントは自然言語で操作することができ、変更や調整も柔軟です。業務の自動化や省力化が難しかった知的業務の領域にもAIが入り込む可能性が高まっています。

小林(寛)

AIエージェントの登場によって、業務アプリケーションのあり方が変わってくるでしょう。これまでは人が複数のアプリケーションにデータを入力して業務を処理していました。しかし、AIエージェントが直接データを扱うようになれば、人間はもはやUI(接点)を操作する必要がなくなります。新しいシステムの使い方を覚える負担が減り、「機能が動けばよい」というシンプルな世界が広がるでしょう。

小林(範)

ただし、UIの利用機会は減る一方で、UX(体験)のデザインは今まで以上に重要になりそうです。ユーザが負担なく自然にAIエージェントとやり取りでき、AIエージェントがミスを起こさず確実に目的を達成できる、そのための「人とAIの対話設計」を担う人材は活躍できます。

小林(寛)

どの企業にもある共通する定型業務は、汎用的なAIエージェントが最適な業務プロセスで遂行すれ良いのかもしれません。一方で、企業の競争力を左右する領域では、自社のデータとプロセスを活かした独自のAIエージェント開発が鍵になります。

小林(範)

AIの源泉となるのはデータです。同じ業務でも、データが違えばアウトプットも異なります。生成AIの活用においてRAG(検索拡張生成)を通じて自社独自データを活用することは既に一般化していますが、「どれだけ良質なデータを持っているか」も差別化のポイントになりそうです。

※1:Harvard Business Review「この1年で生成AIの使われ方はどう変化したか」(20256月)
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/11922

2 三井住友銀行「『AI-CEO』の開発を通じた AI 活用の加速について」(20258月)
https://www.smbc.co.jp/news/pdf/j20250805_01.pdf
キリンホールディングス「『KIRIN Digital Vision2035』に基づき、AI役員を導入」(20258月)
https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2025/0804_02.html

3 一般社団法人日本ディープラーニング協会 資格試験について
https://www.jdla.org/certificate/

4 Geeky Gadgets “Microsoft CEO’s Shocking Prediction : AI Agents Will Replace Apps and SaaS Platforms”202412月)
https://www.geeky-gadgets.com/ai-agents-replacing-traditional-software/

小林 寛幸

デロイト トーマツ ディープスクエア株式会社
代表取締役社長

新卒入社時より会計・IR業務およびコンサルティング業務に従事。2012年に株式会社Present Square(現DTDS)を創業後、経営、事業企画およびAIを含む教育・コンサルティングに従事。2020年より、日本ディープラーニング協会(JDLA)認定の AI 講座を法人・個人に提供を開始する。

小林範久

デロイト トーマツ ディープスクエア株式会社
代表取締役/CTO

新卒入社時より大手SIerにてエンジニアとして、POSや受発注など大量データを扱う基幹システムの開発に従事。 その後、株式会社Present Square(現DTDS)の技術責任者として、データ分析・AIサービスの開発およびAI人材育成に携わる。

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