景気循環による経済的影響は企業にとって不可避なものです。しかし、世界および地域経済に対し長期的な見通しを持つことにより、企業は景気循環のリスクを最小化することができます。デロイトは、世界のビジネスリーダーたちに必要な、マクロ経済、トレンド、地政学的問題に関する明快な分析と考察を発信することにより企業のリスクマネジメントに貢献しています。
本連載では、デロイトのエコノミストチームが昨今の世界経済ニュースやトレンドについて解説します。今回は、Deloitte Insightsに連載中のWeekly Global Economic Updateの2025年4月21日週の記事より抜粋して日本語抄訳版としてお届けします。

Ira Kalish

Deloitte Touche Tomatsu
チーフエコノミスト

経済問題とビジネス戦略に関するデロイトのリーダーの1人。グローバル経済をテーマに企業や貿易団体への講演も多数行っている。これまで47の国々を訪問したKalish氏の解説は、ウォール・ストリート・ジャーナル、エコノミスト、フィナンシャル・タイムズなどからも広く引用されている。ジョンズ・ホプキンス大学国際経済学博士号取得。

米価の高騰

現在、日本では米をめぐる問題が浮上しています。米の作付面積が減少して久しく、訪日外国人旅行者の増加を背景に米の需要が高まるなか、米の価格が高騰し、インフレの長期化を招いています。実際、2025年3月の米価は前年同月比で92.1%上昇したと報告されています。日本では米の消費量が非常に多いため、家計に占める食費の割合は28.3%に上昇し、過去43年で最も高い割合となりました。この問題の一因は、日本が米を自給している点にあります。輸入が解禁されれば需給逼迫が緩和する可能性がありますが、日本の農林水産大臣は「主食を海外に頼ることは食料安全保障上、好ましくない」との見解を示しています。

インフレの長期化

いずれにしても、米の状況が全体的なインフレに寄与していることは確かです。政府の発表によると、2025年3月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で3.6%上昇しました。これは過去2カ月より低いものの、依然として歴史的に高い水準にあり、2023年以来の高水準となりました。さらに、変動の大きい食品とエネルギー価格を除いたコアコCPIは、3月に前年同月比で2.9%上昇し、過去12カ月で最も高い水準となりました。このように、日本におけるインフレ圧力は日本銀行が目標とする2%を大きく上回る状態が続いています。

日本の対応

日本銀行にとって、政策判断が難しい局面といえます。一方ではインフレ率が目標を上回っており、さらなる金融引き締めが必要であることを示唆しています。他方、アメリカ政府の政策に反応して円が上昇しています。通貨の上昇はデフレ圧力をもたらすため、利上げの必要性を軽減する要因となります。さらに、米国との貿易摩擦の激化は日本経済の成長を鈍化させる恐れがあり、もしそうなれば、インフレ圧力も緩和されるでしょう。このような状況においては、日本銀行の立場では状況を見守ることが理にかなっているかもしれません。

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Deloitte Global Economist Networkについて

Deloitte Global Economist Networkは、デロイトネットワーク内外の視聴者向けに興味深く示唆に富むコンテンツを発信する多様なエコノミストのグループです。デロイトが有するインダストリーと経済全般に関する専門知識により、複雑な産業ベースの問題に高度な分析と示唆を提供しています。デロイトのトップマネジメントやパートナーを対象に、重要な問題を検討するレポートやThought Leadershipの提供、最新の産業・経済動向にキャッチアップするためのエクゼクティブブリーフィングまで、多岐にわたる活動を行っています。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

増島 雄樹 / Masujima Yuki

マネージングディレクター・プリンシパルエコノミスト

外為トレーダーとしてキャリアをスタート。世界銀行、日本銀行、日本経済研究センター主任研究員、ブルームバーグシニアエコノミストを経て、2023年4月より現職。マクロ経済予測・費用便益分析・政策提言を中心に、エコノミクス・サービスを提供。為替に関する論文・著書多数。2018年度ESPフォーキャスト調査・優秀フォーキャスター賞を受賞。博士(国際経済・金融)。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートイノベーション

高島 理沙子 / Takashima Risako

シニアコンサルタント

国際協力機構にて、ODAプロジェクトの企画・監理や国際開発に関する研究活動、国際会議の運営に従事。シカゴ大学公共政策大学院にて公共政策学修士を取得した後、2025年1月にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。

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