B1優勝クラブ分析「川崎ブレイブサンダース」
DTFA Times編集部にて再編
2022年シーズン、B1中地区を勝率.667と、同.550で2位の横浜BCに大差をつけて優勝した川崎ブレイブサンダース(以下、川崎B)。チャンピオンシップでは、残念ながらQUARTERFINALSで敗れてしまいましたが、B1屈指の強豪であることを見せつけるシーズンとなりました。
その川崎Bは、BM面においても好成績を残し、見事2020年シーズン以来、3年ぶりのB1部門優勝を飾りました。平均入場者数、アリーナ集客率がともに前年比+42.1%、売上高に至っては同+75.2%と、驚異的な成長を遂げています。この成長に、どのような背景があったのか、元沢伸夫前社長に代わり2023年6月より経営を引き継いだ川崎渉社長にお話を伺い、デロイト トーマツ グループ独自の目線で分析しました。
目次
Bクラブ経営の着眼点
東芝からDeNAに経営譲渡された川崎Bの経営改革を担ってきた元沢前社長から経営を引き継いだ川崎社長ですが、ご自身のキャリアの中で、スポーツビジネスに関しては、これまで主にJリーグを舞台に活躍されてきました。
スポーツビジネスにおいては、「競技」「エンターテインメント」「コミュニティ」という3つの要素をバランスよく成長させることが重要であるという側面があります。川崎社長はこれまでの経験から、Jリーグは「競技」「コミュニティ」の比重が高いのに対し、Bリーグは「エンターテインメント」の比重が高いと考えられているようでした。Bリーグの歴史はまだ始まったばかりであり、今はまず新しい顧客層の入口を広げることが重要という点では、「エンターテインメント」がうまく組み込まれている現状の川崎Bのバランスは悪くないと考えられているようです。一方で、「コミュニティ」については、いわゆる一見さんだけでアリーナを埋めていくことには限界があるため、ベースとして定着してもらえるファンの規模をもう少し増やしていく必要があると、ビジネス上の課題も感じていました。
そのため、デジタル戦略についても、これまではYouTubeやTikTokを通じて新しい顧客層を開拓することに優先順位を置いていましたが、それらの顧客を定着させ、ファン化していくには、顧客データを分析しPDCAを回していくことが必要であると、現状を冷静に見つめています。このように、Bリーグにおけるビジネスの可能性や課題を、川崎社長がこれまでの経験を活かし俯瞰して見ることができるのは、今後の川崎Bの成長における大きな強みと考えられます。
スポーツで生まれ変わった川崎市
川崎Bが本拠地を置く川崎市は、かつて本拠を構えたプロスポーツチームがことごとく移転していってしまったことから、長らく「プロスポーツ不毛の地」と呼ばれていました。それが今や国内有数のトップクラブを複数擁する「スポーツが熱い街」へと変貌を遂げています。これは、それぞれのクラブによる各々の努力がベースとなっている点はもちろんですが、それ以外に欠かせないポイントがあります。それは競技の枠を超えたコラボレーションです。
サッカー・Jリーグの川崎フロンターレ(以下、川崎F)との取り組みを例に挙げると、両クラブのホームゲームにてコラボイベントを行ったり、川崎Fの育成拠点を川崎Bのアカデミー活動拠点にしたりするなどの連携をしています。その結果、アリーナや陸上競技場の近くにはカバンに両クラブのマスコットであるロウルとふろん太のグッズを両方付けて歩く人々の姿が多く見られます。
加えて、行政の協力も見逃せません。川崎市は「かわさきスポーツパートナー」として、6クラブを認定していて、スポーツを通じたまちづくりに非常に関心が高く、福田市長も様々な場所でそれを発信しています。また川崎Bは、川崎市との連携の下、バスケットボールのみならず、スケートボードやヒップホップダンスなどの体験・交流ができる「川崎の若者文化発信拠点」であるカワサキ文化会館を運営したりもしています。
縦に長く、市内北部・中部・南部とそれぞれが異なる文化を有しているためシビックプライドが生まれにくい中、上記のような競技横断型の横展開が進むことにより、スポーツへの感謝やリスペクトの精神を持つ人が非常に多い地域になっているといえるのではないでしょうか。
スポーツによる地域活性化
2023年11月、川崎Bの親会社であるDeNAと京浜急行電鉄が主体となって、最大12,000人(Bリーグ開催時)が収容可能な新アリーナを2028年10月にオープンすることが発表されました。完成すれば、現在拠点としている川崎市とどろきアリーナの2倍ほどのキャパシティになります。
この「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」は、アリーナを中心に、宿泊施設、飲食施設、アート空間、公園機能などを備えた複合エンターテインメント施設を設置することにより、幅広いジャンルのエンターテインメントや非日常の体験を提供することを目指しています。当然ながら、川崎社長も大きな期待感をお持ちで、「2028年のオープンは、新アリーナとして最後発組に入ると思っている。既に沖縄や群馬などに素晴らしいアリーナができていて、来年以降もいくつかのアリーナができる。最後発組として、最新のテクノロジーを活用しつつ、日常を含めてアリーナができたから街が変わったと思われるようなものをしっかりつくっていきたいし、そのうえで川崎Bというソフトがしっかりと役割を果たせるようにしていきたいと思う。」という力強いコメントをいただきました。
川崎Bの親会社であるDeNAは、神奈川県内の3つの政令指定都市(横浜市・川崎市・相模原市)に主要拠点を置く3つのスポーツチーム(横浜DeNAベイスターズ・川崎ブレイブサンダース・SC相模原)へ経営参画し、スポーツを軸としたまちづくりに注力しています。この点について川崎社長は、DeNAグループというつながりをベースにファンになっていただくことは歓迎するが、それだけを理由に無理矢理に横浜市民や相模原市民を川崎Bのファンにしようということは考えてはいないとのことでした。
クラブ経営者の立場としては、DeNAネットワークを活用したファン層の開拓は非常に魅力的だと思われますが、そうしないのはDeNAグループに「スポーツを通じて、“ひと”と“まち”を元気にする」という明確なミッションがあり、加えて前述したスポーツビジネスにおける要素の1つとして「コミュニティ」が非常に重要であると、川崎社長自身が認識されていることが大きいと考えられます。一方で、新アリーナ構想においては、横浜DeNAベイスターズが横浜スタジアムをグループの傘下に入れて一体運営しているところは非常に参考にしている、ともコメントされていて、経営方針や実際のノウハウは、グループ内での横連携が効果的に行われているようです。
このように、クラブとしての理念や親会社のミッションをベースとした新アリーナ計画を通じて、川崎市という街とそこを拠点として活動するクラブが今後どのような発展を見せるのか、目が離せません。