世界中の投資家が投資基準にESG要素を加える傾向が強まっている昨今、特に欧米でESG投資先として注目されているのが、スポーツです。なぜ欧米ではスポーツがESG投資先として選ばれているのかという背景と事例を紹介した前編に続き、後編では、日本の現状と今後に向けた課題や取り組みについて紹介します。

国内でのスポーツの存在意義

欧米ではESG投資先として注目されているスポーツですが、翻って日本ではどのような存在なのでしょうか。例えば、コロナ禍ではスポーツは真っ先に「不要不急」なものの1つとされ、東京で開催された世界的スポーツの祭典は開催自体が危ぶまれたほどでした。プロ野球やJリーグなどでは、興行スポーツでは不可欠の要素である声出し応援が政府方針で制限され続け、2023年になり、やっと条件付きの規制緩和が実現するような状況です。我が国においてのスポーツは人気を確立しているものの、単に世の注目を集める娯楽・趣味としての域を出ておらず、社会変革をリードする重要な存在とまでは見なされていないのが現実かもしれません。

とはいえ、我が国でもスポーツがもたらすポジティブな社会的インパクトを評価し、活用する取り組みが地域を中心に進められつつあります。その好例の1つが、スタジアム・アリーナの活用です。スタジアム・アリーナを核に進められているまちづくりおよび地域活性化について、以下で具体的に説明していきます。

スタジアムを核に展開するまちづくりで地域活性化

経済産業省とスポーツ庁が2017年から推進するスタジアム・アリーナ改革では、まちづくりや地域活性化の核としてスタジアム・アリーナを活用することを目指しています。デロイト トーマツ グループも茨城県鹿嶋市や鹿島アントラーズと共同で、「人が集い、消費が生まれる鹿行地域の核となる新たな“まち”の創出」というコンセプトのもと、スタジアム・スポーツをまちづくりに活かす事業の支援を行っています(図1)。

図1:デロイト トーマツ グループが支援を行っている茨城県鹿嶋市におけるスタジアム活用事業
注:データ不足などで、試算が困難である活動の社会的インパクトは含めていない。
出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

サッカー以外にも音楽やビジネスなどの多様なイベントを開催し24時間、365日稼働するスタジアムとして高稼働率・高収益を実現することをはじめ、東京とのアクセスの良さを生かしたベッドタウンとして住民の生活の質の向上を目指すスマートシティ計画とも関連させています。

また、京都府亀岡市では、経済活性化、知名度向上、交流人口・移住定住人口の拡大を中長期的なゴールに据えた、スタジアムを活用したイノベーション促進事業「サンガスタジアム by KYOCERA・イノベーション・フィールド実証事業」に、運営受託者として参加しています。この事業は、スタジアムの集客力強化やスタジアムをフックにして周辺地域に誘客することにつながるような実証事業、また、デジタル・テクノロジー領域でスタジアムの新しい活用方法を検証・ビジネス化にチャレンジする実証事業を募集し、その実施に向けた支援を行うというもので、スタジアムをハブとした多様なビジネスの創出が期待されています。

スポーツの投資価値を社会的インパクトとして可視化する

ところで、プロスポーツチームやスタジアム・アリーナなどへの投資によって、ESG経営に取り組む企業はどのくらいリターンを得ることができるのでしょうか。こと日本では、これまでスポーツへの投資が進みづらかった背景として、財務諸表に載る価値しか可視化できていなかったこともあると考えられます。トップダウンの経営判断が一般的な欧米とは異なり、合議制で意思決定する多くの日本企業では、スポーツ投資の想定リターンを明確にすることが諸外国以上に求められる傾向があります。

デロイト トーマツ グループでは、費用対効果(ROI)の考え方を応用した社会的インパクト評価の一手法である「SROI(社会的投資便益率)」を用いて、事業により生まれる社会的・経済的・環境的変化の価値、つまり社会的インパクトを定量化して可視化する取り組みを行っています。スポーツに当てはめると、スポーツや健康への意識向上、地域課題の解決、スポンサー企業の課題解決、住民同士の社会的関係の構築などといった、従来は定量化が難しかったポジティブインパクトを貨幣価値に換算し、リターンを算出するというものです。

図2:デロイト トーマツ グループが支援したFC今治の社会的インパクト可視化事業
注:データ不足などで、試算が困難である活動の社会的インパクトは含めていない。
出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

具体例としては、JリーグのFC今治と共同で同クラブの社会的インパクトを評価し、ホームタウンのまちづくり促進の材料を提供しています。社会的インパクトの分析に当たっては、サッカークラブ運営事業、育成・普及事業、ホームタウン活動、アースランド・野外教育など、各事業のロジックモデルを作成し、それぞれの効果を体系的に整理し、定量化したうえで評価を行います。例えば、サッカークラブ運営事業の活動を通じたSROIは1.1倍であるのに対して、ホームタウン活動においては予算規模が小さいもののSROIは2.6倍と投資効率は他事業よりも大きく、今後の予算規模拡大によっては大きな効果が見込める領域であることが示されました(図2)。こうした手法を用いて非財務価値も含めたリターンを可視化することで、国内におけるスポーツなどの社会的インパクトを創出する事業への投資が進む一助になればと考えています。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 スポーツビジネスグループ

太田 和彦 / Ota Kazuhiko

ヴァイスプレジデント

大手不動産デベロッパーから、英系戦略コンサルティングファームを経て、現職。スポーツを専門領域に持ち、プロスポーツリーグの経営企画、プロスポーツクラブの経営計画策定、海外スタジアム/アリーナ市場調査、大規模国際大会の実施運営、国内外プロスポーツクラブのビジネスデューデリジェンス、地方自治体のスポーツを核とした地方創生事業などの支援業務に従事。著書に『スポーツのビジネスの未来 2021-30』(共著、日経BP社)。