2026年4月12日はハンガリーにとって歴史的な1日となった。16年にわたり「非リベラル民主主義」を掲げ、反EU、親中露路線だったヴィクトル・オルバーン首相率いる与党「フィデス(Fidesz)」が総選挙で敗北した。強固な基盤を築き上げていた長期政権が、なぜ今、崩壊したのか。本稿では、ハンガリーの現状とその特異性を紐どきながら、政権交代が実現した要因を検討する。さらにEUとの関係改善を模索する新興政党「ティサ(Tisza)」の誕生が欧州政治にどのような影響を与えるのか展望する。

ハンガリー総選挙の結果

  •  2026年4月12日に投開票が行われたハンガリー総選挙の結果、歴史的な政権交代が実現
     
  • 反EU、親中露路線のオルバーン首相率いる与党「フィデス(Fidesz)」が敗北
     
  • 新興政党「ティサ(Tisza)」が3分の2の議席を確保し、圧勝。党首のペーテル・マジャル氏が次期首相に就任する見通し
     
  • ロシアのプーチン大統領と米国のトランプ大統領は、欧州連合(EU)内における盟友であり代弁者でもあったオルバーン氏を失う結果となった
     
  • EUは、ウクライナ支援やエネルギーの自律化、EU改革など重要課題において、停滞していた意思決定の迅速化に期待を寄せる
     
  • ただし、今回の勝利はリベラル派が期待するような単純な「自由主義への回帰」を意味するものではなく、新政権の前途には多くの課題が山積している

 

ハンガリーの現状と国際的特性


2010年に政権に返り咲いて以来、4期連続で首相の座にあるヴィクトル・オルバーン氏率いる与党フィデスは、議会の3分の2という圧倒的多数を背景に、強権的な統治基盤を構築してきた。同氏が標榜する「非リベラル民主主義(Illiberal democracy)」[1]の実態は、民主主義的な外見を維持しつつ、自由が十分に保証されない点にある。具体的には、司法の独立性の形骸化、メディア統制、マイノリティへの抑圧など、法の支配を弱体化させる施策を強行してきた。

 

ハンガリーは、EU加盟国で唯一「ハイブリッド体制(Hybrid regime)」、あるいは「選挙独裁制(electoral autocracies)」とみなされている。これは、形式上は複数政党による選挙や参政権も民主主義体制と同水準で保証されているものの、政権側が制度を操作しているため、実質的な競争環境が極めて不公正であることを意味する。オルバーン氏は、長年にわたり、選挙制度をフィデスに有利な形へ歪めてきた[2]。報道等によれば、貧困地域を中心とした票の買収や威圧行為といった組織的な不正も明らかになっているという[3]。

 

特筆すべきは、党と国家の境界が曖昧となる「国家捕獲(State Capture)」という状況にある点だ。本来、不正対策を講じるべき国家機関が与党の意思を遂行する組織へと変質しており、政府予算がオルバーン氏の選挙キャンペーンに投入されるなど、公的リソースの私物化が常態化している[4]。こうした構造が、選挙を通じた正当な政権交代を困難としてきた。

 

ハンガリーの特異性は、その国際的な立ち位置にも現れている。オルバーン政権は自国の利益を最優先し、EUとは激しい対立を繰り返す一方で、ロシア、中国、そして米国のトランプ陣営とは緊密な関係を築いてきた。

 

オルバーン氏にとって、西欧諸国が求める「法の支配」やリベラルな規範は、自身の権力基盤を揺るがす脅威である。そのため、同氏はプーチン大統領や習近平国家主席の権威主義的な統治体制をロールモデルと見なし、政治・経済の依存先を意図的に多極化させることで、リベラルな国際秩序に縛られない独自の行動余地を確保してきた。「強力な指導者の決断こそが国際政治を動かす」と信じる同氏の価値観は、既存の制度やルールを軽視するロシア、中国、そして米国の「MAGA(米国を再び偉大に)」勢力との利害の一致を生んでいる。

 

こうした姿勢はEU内で孤立を招いているが、オルバーン政権は、EUの意思決定、特にEU外務理事会(Foreign Affairs Council)において「拒否権」を武器に、ウクライナ支援やロシア制裁、ウクライナのEU加盟プロセスの妨害を繰り返してきた。自らを「国家主権の擁護者」と位置付け、時にEUをロシア以上の脅威として描き出す振る舞いは、結果としてロシアがハンガリーを通じてEUの意思決定に影響力を行使することを許しているとの見方もある。米系メディアによれば、ハンガリーのシーヤールトー外務大臣がEU会合の合間にロシアのラブロフ外務大臣へ定期的に連絡を入れ、協議内容をリアルタイムで報告していたという[5]。近年、オルバーン氏はウクライナを「主たる敵」として名指ししており、その攻撃的な姿勢は「総選挙の対抗馬は(国内野党ではなく)ゼレンスキー大統領」と揶揄されるほどである。

 

今回の総選挙において注目すべきは、こうしたロシアによる影の支援に加え、トランプ政権による異例の外交的後押しが可視化されたことだろう。トランプ米大統領は、オルバーン氏を「真に強く、力のある指導者」と称賛し、公然と再選を支持した[6]。さらに投票直前の4月8日には、ヴァンス副大統領がハンガリーを訪問し、EUやウクライナを激しく批判しながらオルバーン氏への連帯を強調した。トランプ政権にとってオルバーン氏は、反移民、反リベラルを掲げながら選挙に勝ち続ける「西側の指導者の象徴」であり、EUの弱体化と分断を志向する戦略的同志でもある。

 

権威主義的な指導者たちとの連携を誇示しつつ、ウクライナやEUへの対抗姿勢を強めることで、ハンガリーは国際政治におけるディスラプター(破壊者)としての地位を確立した。GDPでEU全体の1.2%[7]、人口は2.1%[8]に過ぎない小国でありながらも、今回の選挙結果と新政権のスタンスは、今後のEUの求心力と政策遂行能力を左右する極めて重要な変数となる。
 


なぜティサなのか?
 

なぜ今、政権交代が実現したのか。その背景には、限界を迎えた経済政策や深刻な物価高、そして政治の腐敗への不満があった。

 

  •  EV戦略と「中所得の罠」
     

オルバーン政権は、社会保障を抑制し、市民を労働市場へと駆り立てる「ワークベース・エコノミー(work-based economy)」を推進してきた。同政権はこの戦略の下、社会支出を抑えつつ、一方で外国直接投資(FDI)を積極的に呼び込み、雇用と賃金の向上を目指してきた。特に2010年代後半からは、EV(電気自動車)とバッテリー産業を新たな成長エンジンと位置付け、巨額の補助金を投じて中国や韓国、日本企業を誘致してきた。その結果、ハンガリーはEU内で最大の中国からの直接投資受入れ国となった[9]。

 

しかしこの戦略は、裏目に出ている。最大の誤算は、欧州全域における想定以上のEV普及の遅れである。巨大な欧州市場という、本来期待されていた需要の受け皿を失った。その結果、ハンガリーに誘致した企業同士が激しい競合状態に陥り、例えば中国メーカーの台頭が韓国企業のシェア低下や生産量削減を招くという事態が生じた。さらに深刻なのは、地場企業がこのバリューチェーンに組み込めず、実態としては外国資本の工場に労働力を提供するに留まっている点だ。高付加価値な製品やサービスへの転換に失敗し、安価な労働力に依存する「中所得の罠」から抜け出せないため、外資誘致による国内への経済波及効果は限定的である。

 

こうした誤算に加え、1990年代以降最大の投資国であるドイツの製造業の不振と、国内の賃金上昇に伴う工場の海外移転が重なり、ハンガリーの製造業の生産量(出荷量)は2025年時点で、2021年の水準を5.6%下回った[10]。さらに深刻なのは、生産性の伸びが低迷している点だ。2022年から2026年にかけて実質賃金の伸びは鈍化し、失業率も微増している。

 

  • 「高圧経済」の代償とEU資金の凍結
     

オルバーン政権は、積極的な財政出動と低金利を維持する高圧経済(high-pressure economy)を進めてきた。選挙前の大規模な利益誘導は一時的な支持を買ったものの、結果としてインフレ率をEUの平均以上に押し上げ、国民生活を圧迫するブーメランとなった。現在、政府債務の利払いはGDPの約5%に達し、国家財政を圧迫している[11]。

 

さらに、法の支配をめぐる対立から、ハンガリー経済を支えていたEU補助金(GDPの約3%相当)の大部分が凍結された。この資金は、政権が有権者に利益を与えて政治を歪めるパトロネージ・ネットワーク(patronage network)の源泉でもあったため、EU資金停止は、経済停滞と同時に、政権内部の統制力低下も招いた[12]。

 

  •  政治腐敗と「恩赦スキャンダル」
     

かねてより、オルバーン体制下での汚職や収賄疑惑は指摘されてきたが、保守層の決定的な離反を招いたのは、2024年2月の恩赦スキャンダルである。児童養護施設での性的虐待事件の隠蔽に関与した人物に対し、大統領が恩赦を与えていたことが発覚。これにより、政権が掲げてきた「伝統的な家族観」の偽善性が露呈し、ノバーク大統領とヴァルガ元法務大臣が辞職に追い込まれた。

 

この機を逃さず捉えたのが、ヴァルガ氏の元夫であり、体制の内部を知り尽くし、オルバーン氏の政敵となったマジャル氏だ。同氏はフィデスを離党して、新党「ティサ」を結成し、フィデスの汚職や道徳的堕落を激しく批判した。マジャル氏は国民の生活に直結する問題(kitchen table issue)を正面から争点化することで、国民の不満を吸収することに成功した。

 

ハンガリーの野党は長年にわたり、何度も結集を試みてきた。2022年の総選挙でも、野党連合がフィデスと接戦になるとの見方もあったが、蓋を開けてみればフィデスが3分の2以上の議席を確保する圧勝に終わった。その要因として、野党連合内での意見対立や資金不足、そしてカリスマ的なリーダーが不在だったことが指摘されている。一部では、「野党側には真に政権を奪取する意思がなく、万年野党の地位に甘んじているのではないか」という厳しい見方もあったほどだ。

 

こうした野党の閉塞感の中で誕生したのが新党ティサである。今回の選挙前の世論調査では、ほとんどの独立系調査機関がティサの勝利を予想した。

 


ティサ政権の優先課題と国際的なインパクト
 

16年にわたり権力を掌握してきたオルバーン氏の時代が幕を閉じ、ティサが勝利を収めたことはハンガリーの歴史的転換点である。ただし、この勝利はリベラル派が期待するような「自由主義への回帰」を意味するものではない。新政権が直面する現実と国際社会との関係を展望する。

 

ティサは、欧州人民党(EPP)に属する中道右派であり、閣僚候補に多国籍企業の元幹部を揃えるなど、実務能力を重視するテクノクラート政権としての顔を持つ。一方で、マジャル氏の選挙キャンペーンはポピュリスト的であった。同氏は、保守的な地方有権者を取り込むため、あえてオルバーン氏が用いた「反移民」や「ナショナリズム」といったレトリックを継承している。このため、新政権は、ウクライナ支援や移民政策において、国内世論を意識した慎重な舵取りを強いられることになる。

 

新政権が最優先課題として掲げるのは、長年の縁故主義によって歪められた経済の立て直しである。財政赤字をGDP比3%未満に削減し、2030年までにユーロ導入基準を達成するという野心的な目標は、透明性の高い市場経済への転換を目指すものである。また、富裕税の導入を財源に、医療・教育・交通インフラへの投資を加速させ、オルバーン政権時代の家族手当や年金増額を維持・拡大することで、中間層の復活とフィデスの支持基盤であった地方層の繋ぎ止めを同時に狙う。

 

他方でIT(情報技術)産業や防衛産業を支配するオリガルヒ(プーチン大統領に近い新興財閥)やフィデス系メディアによる攻勢は続くだろう。さらに官僚機構に残る旧体制派エリートの存在は、汚職の根絶を困難にする。政治経験が乏しいティサは、現在の厳しい経済状況を短期間で好転させなければ、支持率の急落を招くリスクを孕んでいる。

 

政権交代によって資金源を断たれるであろうフィデスが、これまでの利権構造(パトロネージ・ネットワーク)を維持できるかも注視すべきだろう。4年後の総選挙に向け、ハンガリーの国内政治環境が大きく変化する可能性もある。

 

国際社会に目を向けると、EUはハンガリーの「建設的なパートナー」への復帰を歓迎し、凍結されている約200億ユーロの補助金解除に向けて動き出すだろう。しかしそれには厳しい交渉が待ち受けている。EUは資金の凍結解除に先立ち、法の支配をめぐる抜本的な改革を求めている。さらに時間との戦いもある。新型コロナ危機からの経済回復を目的に創設した新型コロナ復興基金(RRF)の申請期限は2026年8月31日に迫っており、新政権は発足直後から短期間で改革を成し遂げなければいけない。この極めてタイトなスケジュールは、経験が乏しい新政権にとって大きな試練となる。
 

加えて、EUが凍結解除の事実上の条件とする「ウクライナへの900億ユーロ融資」への承認は、国内保守層から「ウクライナの手先」だと攻撃される材料になりかねない。マジャル氏が掲げる「反移民」や「ウクライナの早期EU加盟反対」という姿勢も、EU主流派との間に依然として無視できない溝を残しており、EUとの関係正常化は簡単ではないのが実情だろう。

 

ロシアのとの関係において、新政権は極めて複雑なジレンマに直面することになる。ティサは「2035年までにロシア産エネルギーへの依存ゼロ」という目標を掲げ、「2040年までに再生可能エネルギーの割合の倍増」を目指すが、代替の供給ルート確保には数年を要する。

 

これまでプーチン大統領は、石油や天然ガスの輸出をたびたび「経済的威圧」として利用し、供給を遮断することで欧州諸国に経済的打撃を与え、政治的圧力をかけてきた。オルバーン政権下でロシア産エネルギーへの依存度がむしろ高まっていたハンガリーにとって、プーチン氏はいつでも新政権に経済的ダメージを与え、その政策決定に介入できるカードを握っている。特に、ロシアの技術と資金に依存するパクシュ原子力発電所の増設プロジェクトは新政権にとって苦渋の決断を迫られる象徴的な案件になる。ロシアとの決別はエネルギー安全保障上のリスクが高いため、現実的な解としては段階的な依存度の低減と再調整を目指すほかないだろう。

 

対米関係においては、2035年までに国防費をGDP比5%へ引き上げるというティサの公約が、強力な外交カードとなる。これは欧州諸国が通常戦力の主たる担い手になるべきであるというトランプ政権の要請に合致するものだ。新政権に対し、トランプ大統領がどのような反応を示すかは不透明だが、ヴァンス副大統領はブダペストを訪問した際、選挙の結果にかかわらず協力する用意があると示唆している。実際、ハンガリーへの関心はトランプ氏本人よりも、オルバーン陣営とイデオロギー的な親和性を持つヴァンス氏の方が顕著だという見方もある。
 

また、新政権において、大西洋主義者として知られる元エネルギー安全保障担当大使、アニタ・オルバーン氏(オルバーン首相と同姓だが家族関係はない)が閣僚に起用されれば、ワシントンの穏健派との人脈を活かした関係構築が期待される。米国内の足並みは一様ではなく、超党派の上院議員グループが、これまでウクライナ支援を妨害してきたハンガリーに対する制裁法案を提出していることも、新政権にとっては追い風となるだろう。

 

ハンガリーで政権交代が実現しても、欧州が抱える構造的課題は依然として残る。その1つが、プーチン大統領と親密な関係を維持し、EUからの譲歩を引き出すために拒否権を連発してきたスロバキアのロベルト・フィツォ首相の存在である。オルバーン氏の退陣後、ロシアが次の戦略拠点としてスロバキアへの関心を強め、来年の選挙を見据えて影響力拡大を図る懸念もある。フィツォ首相はハンガリーが担ってきた「反EU」という役割を引き継ぐ意向を示しているが、その対抗力には限界がある。スロバキアはハンガリー以上にEUからの財政支援に依存しており、フィツォ首相個人の権力基盤もオルバーン氏ほど強固ではないからだ。むしろ、ハンガリーの事例が示す、反EU体制の終焉は、中東欧のポピュリズム勢力に対する牽制として機能することに期待したい。

 

参考文献・資料
[1] Ville Suuronen, “Antiliberalism and Counter-Enlightenment for the 21st Century: Viktor Orbán’s Illiberal Political Ideology.” Government and Opposition 60.4 (2025): 1136–1156.
[2] Kim Lane Scheppele, “How Viktor Orban Wins”, Journal of Democracy, 33.3 (2022): pp.45-61. 
[3] Marton Dunai, “Have Hungarians had enough of Viktor Orban?”, Financial Times, April 9, 2026. 
[4] Zsuzsanna Szelenyi, “Hungary’s Orbán Unleashes His ‘Digital Infantry’”, The Center for European Policy Analysis (CEPA), April 8, 2026. 
貧困によって数十万人のハンガリー人が政治的圧力にさらされているというドキュメンタリー「票の値段(The price of vote)」もある。
[5] Catherine Belton, “To tilt Hungarian election, Russians proposed staging assassination attempt”, the Washington Post, March 21, 2026. 
[6] トランプ氏のソーシャルメディアTruthへの投稿(March 25, 2026).
[7] Eurostat, “Gross domestic product (GDP) and main components (output, expenditure and income)”, last updated on April 9, 2026. 
[8] Eurostat, “Population and population change statistics”, Data extracted on July 6, 2025. 
[9] Agatha Kratz, Max J. Zenglein, Andreas Mischer, Gregor Williams and Armand Meyer. “Chinese Investment Rebounds Despite Growing Frictions: Chinese FDI in Europe in 2024”, Rhodium Group, March 21, 2025.
[10] Eurostat, “Production in industry – monthly data”, last updated on April 11, 2026. 
[11] OECD, “Global Debt Report 2026”, March 4, 2026. 
[12] 欧州委員会によると、EU補助金の不正利用は、加盟国の中でハンガリーは極めて多く、また独立系研究者によれば、その資金の相当部分が政治的に関連のあるエンティティーに流れているという。
ウェブサイトの最終閲覧は、2026年4月13日である。
 

 

平木 綾香 / Ayaka Hiraki

研究員

官公庁、外資系コンサルティングファームにて、安全保障貿易管理業務、公共・グローバル案件などに従事後、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(現合同会社デロイト トーマツ)に入社。
専門分野は、国際政治経済、安全保障、アメリカ政治外交。修士(政策・メディア)。


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