
デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社(DTSS)は2025年11月25日、衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO)と共催で特別セミナーを開催した。CONSEOは宇宙航空研究開発機構(JAXA)が事務局を務め、衛星開発・実証及びデータ利用に関する共創並びに新規参入の促進を目指して、2022年9月に設立された。
今回はJAXAや民間企業、学界、金融機関の関係者が多数参加。2022年の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で枠組みが示された自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)への企業の対応を切り口に、日本の衛星観測事業の展望を探った。
セミナーではCONSEO会長を兼任しているデロイトトーマツ戦略研究所の角南篤・共同代表理事が開会あいさつ。JAXA第一宇宙技術部門からの基調講演に続き、特別対談やパネルディスカッションを行い、生物多様性を保護するための自然資本を回復させる「ネイチャーポジティブ」に、観測衛星データがどう貢献できるのか議論した。
■イベント概要
名称 宇宙の視点から考えるネイチャーポジティブの未来
共催 デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社(DTSS)/衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO)
開催日 2025年11月25日(火)
会場 X-NIHONBASHI TOWER(日本橋三井タワー7階)
参加者 TNFD/衛星地球観測/データサービスに関連する企業関係者・官公庁関係者・金融事業者など
セミナーの要旨は次の通り
開会あいさつ
デロイト トーマツ戦略研究所の角南篤共同代表理事
日本は衛星データ活用の分野で遅れを取っており、特に低軌道衛星による活動は世界的に民間主導の競争が年々激化している。日本はビジネスだけではなく国益や安全保障などの観点からこの活動を支え、世界に貢献する必要がある。
低軌道衛星による地球観測を公的部門だけで行うのは無理があるため、民間が支えていける仕組みを構築する方策を考えた形がCONSEOだ。CONSEOが民間企業と色々な分野でつながって幹を太らせていけば、日本は宇宙分野で世界に貢献できる。データ共有の面などで日本を信頼してくれる国も多く、人材育成やビジネス機会をグローバルサウスにも展開できる。デロイト トーマツもグローバルネットワークで衛星データ活用の取り組みを後押しできる。
※低軌道衛星:高度2000キロメートル以下の地球低軌道を周回する人工衛星。比較的地球に近いため高速・低遅延の通信や高解像度の観測が可能な一方、カバー範囲が狭く、広域観測を実施する場合、多数の衛星で連携する衛星コンステレーションなどが求められる。
基調講演1「見通せる社会」の実現に向けたJAXAの衛星地球観測プログラム
JAXA第一宇宙技術部門の前島弘則・地球観測統括
毎年恒例のアジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)が11月18-21日に フィリピンで開催され、私も参加した。最終日には同国のマルコスJr. 大統領がCONSEOブースに立ち寄って資料を請求された。われわれの取り組みはやはり正しいのだと改めて感じた。
地球観測についてJAXAは2025年4月からの中長期計画(期間7年)で、関係機関との連携によって獲得を狙う便益(リターン)を明確にすると謳っている。確実なリターン獲得のため、重点テーマにリソースを集中的に投入し始めたところだ。
JAXAは1980年代から地球観測に取り組み、技術開発・実証を進めながら、利用推進に力を入れてきた。現在は社会定着をさらに進めるため、パートナーとともに便益を設定し、地球観測データを様々な課題解決につなげる段階に来ている。
中長期計画の方針は、便益の獲得に向けて何が必要なのか、どのようなデータ・プロダクトやツール、衛星が必要なのか、と(あるべき未来から逆算して現在すべきことを考える)バックキャストのアプローチで「見通せる社会」の実現を目指していこうというものだ。
もう1つ、エコシステムも考えていかなければならない。衛星利用を進め、新たに多様な価値創出を実現することで、官民の投資が拡大・集中し、技術の高度化や競争力が強まることで、さらなる利用と投資が拡大する好循環を目指す。ここでは、産官学連携や官民共創が重要となる。
その中でJAXAが担う3つの役割がある。1番目は民間ではやりきれない防災や地球規模課題への対応、外交政策等に貢献する観測衛星の開発利用。2番目は民間主体の事業と連携した社会実装の推進。ダウンストリームである利用産業が成長することにより、アップストリームである宇宙機器産業も成長するという好循環を実現することだ。3番目は「新種」の観測衛星開発利用につながるイノベーションの創出である。
推進戦略として、地球観測をプログラムとして進めていく。従来は1つの衛星で何ができるのかという視点が強かったが、今後はプログラムとして様々なデータ・プロダクト、ツールを組み合わせてソリューションを作り上げ、役に立つものを検討する方向に舵を切ろうと考えている。
そこで①自然資本の把握とクレジット創出、➁水災害・水資源管理、③海洋状況把握、④インフラ管理・防災DX、の4つの重点テーマを設定している。①に関しては具体的に、森林/水田の自然資本を把握する効果的な衛星データの利用技術を確立する等により、カーボンクレジット市場のシェア獲得を目指す。これらのテーマ以外でも、ネイチャーポジティブに関連する取組も、重点テーマ化を目指して検討したい。
基調講演 2 生物多様性・自然資本の見地から考える地球観測衛星
JAXA第一宇宙技術部門の松尾尚子・地球観測プログラム戦略室長
CONSEO設立当初の2022年9月に107だった法人・団体会員数は、2025年11月10日現在、3倍の326に増えた。ネイチャーポジティブに関する企業のニーズや期待や課題を耳にはするものの、きちんと理解できていない。そのため、様々なアイデアをいただいて、研究や衛星データ利用に結びつけたいと思い、本日のイベントを開催した。
ネイチャーポジティブに衛星データが使えることは、COP15における「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の各指標等で示されている。また、国内では「生物多様性国家戦略2023-2030」が閣議決定されるなど、関連する活動が活発化している。
衛星は地上の様々な物理量を観測できる。物理量とは、温室効果ガスの濃度や植生の分布、あるいは海洋の表面温度などだ。そして衛星の強みは①広域性(全球を広範囲・低コストで観測)➁アクセス性(地上の状況に関係なく観測)③周期性(定期的に同一地点を観測)④均質性(世界中を同じように観測するのでデータの集約・比較・連携が容易)にある。
JAXAは現在、9機の地球観測衛星を運用している。これらの衛星から得られるデータは、生物多様性・自然資本の把握などに活かせるものも多い。例えば、高解像度の「土地利用土地被覆図」は10mの空間分解能を有している。草地や畑、水田など15種類の分類があり、時系列で並べると都市や森林、畑などの環境変化の状況が一目瞭然だ。さらに最近、東南アジア域を対象にしたプロダクトを公開した。このプロダクトは、誰でも自由にダウンロードして使うことができる。
今後、「衛星観測×自然資本・生物多様性」というテーマで何を目指すのかだが、例えば、TNFDに関する既存ツールに加え、衛星データを活用することでビジネスによる自然関連課題の把握や対応に貢献できる可能性を探っていきたい。そのために必要となる利用・実証事例の蓄積を進め産学官の連携を拡大しながら、TNFDフレームワークに沿った情報開示に留まらず、その先にある事業価値の可視化や自然資本の管理における衛星活用を進めていきたい。
特別対談「衛星データとビジネス課題の解決の接点、衛星の活用がもたらす社会経済便益」
・デロイト トーマツ コンサルティング合同会社の丹羽弘善パートナー(写真左)
・九州大学工学研究院の馬奈木俊介・主幹教授(写真右)
馬奈木主幹教授
AIと衛星画像をうまく使えば2100年まで99.9%の精度で格子(グリッド)ごとに人口予測ができる。こうした手法はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の生物多様性分野にも活用できる。ただ、AIが進化すれば気候変動の予測精度が一気に上がるということではない。これまで行われていなかった微細なグリッドでの推計を行うから可能になるのであり、実用に耐えうるようにするために衛星画像は有効だ。
次に大事なのは、計測できない場所の予測値も推計可能な仕組みにすることだ。例えば世界のサンゴ礁の劣化予測では、サンゴ礁好きな人がアップロードした撮影画像などをサンプルとして集める「市民科学」に衛星画像を掛け合わせれば、精度を向上させ価値化につなげることができる。
サンゴ礁に興味のない人に興味を持ってもらうのに有効なのは例えばウェルビーイングだ。
一例として、緑の量と人々の幸福度との相関関係を、衛星画像を使って地域ごとに数値分析した結果をもとに、緑が多いほど人々のウェルビーイングが上がるという論文を書いた。その上で、自然資本を大切にして極端な開発をしない都市設計の必要性を説いた。
衛星画像を使えば、新幹線のようなインフラの社会貢献度や、ヒートアイランド化の予測値、森林が吸い込むCO2の度合いなども出せる。ドローンなどでの計測値も活用すれば、地域の生物多様性データのブラッシュアップも可能になる。
丹羽パートナー
企業にとっては生物多様性について、効果などを定量化できない限り、本当にやる意味があるのかということになってしまう点が懸念であるが、それ以外に良い点はあるか。
馬奈木主幹教授
対外発信のブランドにつながる場合が考えられる。例えば私が社長を務めるESG評価企業aiESG(アイエスジー)が開発に協力したジーンズ新製品の評価は、雑誌Beginの調査で8週連続1位になった。サプライチェーンを米国からインドネシアにシフトさせることで水の使用量を減らし、生物多様性を一部改善させたことを評価した消費者が、数パーセントでも世の中にいたからだと思う。
丹羽パートナー
一方で、活用したデータが本当だと社会的に認知されることも非常に重要だ。
馬奈木主幹教授
私の場合は海外の学術論文に出して正しさを担保するのが第一。国際的な機関に引用されることを増やすことで良い場合もある。企業ならコンソーシアムを組みながら需要を増やす取り組みをして、国際的な認知を取っていくべきでは。
丹羽パートナー
私はブラジルでのCOP30に行って活気を感じた一方、環境の変化、特に水質は非常に重要な要素だと感じた。関連して、上流での取水変動などの動的データを衛星で把握するなどして水質も分かれば非常に安心だ。
馬奈木主幹教授
水はグローバルな関心事だが、実際は完全にローカルな問題である。先ほどのジーンズの話では、米国のアパレルグループが4年間で水の生産性を2倍に上げたと言っていたが、それは元が悪すぎたからで、実際に相対比較するとインドネシアでやったほうが良かったということがあった。これは世界のサプライチェーンを分析しないと分からなかった。
丹羽パートナー
COP30では日本政府のパビリオンで、サーキュラーエコノミーに関する明瞭な指標が発表された。生物多様性でも世界的にわかりやすい指標が必要である。
馬奈木主幹教授
サーキュラーエコノミーについては評価モデルをいま経済産業省と作っている。現在の米国では第二次トランプ政権下で、気候変動は完璧に無視されている。そうした中で2カ月前に浮上してきたのが、バイデン前政権で欧州の概念として敬遠されていたサーキュラーエコノミーだ。
丹羽パートナー
サーキュラーエコノミーは資源循環なので、なるべくリサイクル材を使う。土地の開墾や掘削をしないため、当然、生物多様性には非常にプラスになってくる。ただ企業目線で言うと、それは誰がやるのか、という話になる。
馬奈木主幹教授
国の役割は減っていくと思っている。基本グローバルな方向に行くからだ。
丹羽パートナー
デロイトは3年前、ネイチャーポジティブの市場規模は2030年に40兆円と推計した。国主導で市場の基盤づくりを行い、ベンチャーや大企業などがこの市場を取りに行くのが非常に魅力的だ。
馬奈木主幹教授
ネイチャーポジティブで自然資本が増えると、企業にとっても投資するインセンティブにつながる。ぜひそこも連携させていただきたい。
パネルディスカッション
「TNFD対応における企業の課題と衛星データ市場の発展可能性」
【前半】TNFD用に衛星データを活用している企業の関係者に、利用する側の目線から見た衛星データ市場へのニーズ期待を聞く。
モデレーター
・デロイトトーマツ コンサルティングの中村詩音マネジャー
パネリスト
・三菱地所サステナビリティ推進部の福島宏樹マネジャー
・MS&ADインシュアランスグループの浦嶋裕子・上席スペシャリスト
・有限責任監査法人トーマツの後藤知弘パートナー
中村マネジャー(写真左)
TNFDには「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4本柱がある。開示のための衛星活用事例をご紹介いただきたい。
福島マネジャー(写真右)
三菱地所グループは「長期経営計画2030」のもと、株主価値向上戦略と社会価値向上戦略を両輪として位置づけ、一体的に推進することで、「まちづくりを通じた真に価値ある社会の実現」を目指すとの方向性を掲げている。
そのポイントの1つとして、大手町、丸の内、有楽町の「大丸有エリア」における緑地割合の変遷について、空中写真などを使った可視化に取り組んでいる。国土地理院の基盤データの活用やコンサルによる支援を経て物件ごとの緑地の変化データを整理・集約し、緑地面積の割合が丸ビルや新丸ビルを建て替えたおよそ20年前から現在までで倍増し約10%となったことを確認した。
TNFDはこういう環境価値や緑化が企業価値や社会価値につながると考えるきっかけになったと思っている。新しいバリューを作っていくような話でとてもチャレンジングであり、本当に有意義だと捉えている。
浦嶋・上席スペシャリスト(写真左)
TNFD開示枠組みのタスクフォースメンバーは全世界で40人。日本からは当社と農林中央金庫から1人ずつの計2人。私はその正規メンバーの代理要員(オルタネイト)をやらせていただいている。TNFDで開示すべき4本柱の最後の「目標と指標」には、現状プレースホルダー(仮置き)となっているが、ステートオブネイチャー指標がある。企業の事業活動に関する指標ではなく、実際に自然が今どういう状態なのか測る指標だ。
当社は「グリーンアースプロジェクト」を手がけている。増え続ける水災支払いに歯止めをかけるため、世界的なネイチャーポジティブの文脈を受け、自然を活用した防災減災を現場で実際にやってみようというもの。具体的には九州の球磨川流域で湿地保全をしながら、治水や生態系保全に取り組んでいる。熊本県立大学との共同事業だ。この現場で、ネイチャーポジティブイニシアティブが開発しているステートオブネイチャー指標のパイロットに応募した。
球磨川では2020年に大水害が発生した。盆地に多数存在する湿地が保全されれば水災リスクも下がると言われており、湿地保全の効果についてステートオブネイチャー指標のガイダンスにもとづき、東北大学ネイチャーポジティブ拠点が衛星データなどを用いて評価してくれた。JAXAのデータは存在しないと思っていたので別のデータを使ったが、実はあったので、再度分析も試みた。
われわれの活動エリアは2ヘクタール程度なので分析は衛星データでは解像度があわず、ドローン画像による目視が主体となったが、ステートオブネイチャー指標ではその場所だけではなく景観全体の評価が求められているので衛星データは有効。特にJAXAのデータは非常に解像度が高いので、われわれが使用したコペルニクスのデータよりも実は良かった、と東北大の先生も言っていた。
※コペルニクス:EUによる地球観測プログラム。全地球の環境監視と安全保障とを目的としており、データをオープンフリーで提供している。
中村マネジャー
監査保証にも衛星データは活用できそうか。
後藤パートナー(写真右)
サステナビリティ情報の開示と保証はいま進歩の途上のため、衛星データを使って実務をするところまでは正直なところ進んではいないと思う。
あくまで個人の肌感覚だが、監査とか保証では入手が必要な証拠に明確なルールはなく、最終的には保証人や監査人が判断する世界。当然ながら証拠には強弱がある。例えば建物であれば、実際に訪れて登記簿でも使用状況が確認できていれば証拠力は強いが、伝えられただけの口頭的証拠は非常に弱い。
ただ、私自身も経験があるが、不動産の実物を確かめる手続きで、コロナ禍で行き難かった頃は若いスタッフに現地に行かせ、自分自身はグーグルアースで存在を確認していた。今後そういった世界の中で、JAXAの衛星データが使われる時代はいずれ訪れるだろう。
浦嶋・上席スペシャリスト
企業ごとに何が本当のマテリアルかを履き違えてはいけないと思う。TNFDは大事だが、ただチェックボックスに対応することに汲々とするのはおかしい。業種ごとに大事なのは何かを明確にしたうえで、適切なデータの量や精緻さを考えることが重要だ。
福島マネジャー
三菱地所であれば緑地の割合上昇の正確性を追求し過ぎるのではなく、ヒートアイランド緩和やCO2吸収など、緑地増で得られる効果に焦点を当てるべきだと思っている。それらを定量化し、さらに指標同士の因果関係を可視化していくことができれば、理想的だろう。
浦嶋・上席スペシャリスト
当社と自然との接点において最も重要な課題の1つが治水であるため、自然の状態を水災リスクや防災の効果とどう組み合わせて可視化するかが大きなポイントだと思う。われわれは学者ではないので、生態系や生物多様性そのものを非常に精緻に測ることが求められているわけではないと考えている。
中村マネジャー
実際の分析で出てきたデータをどう活用するかについて、データプロバイダーとコミュニケーションを取られたか。
福島マネジャー
宇宙や衛星という切り口は、馴染みがない点があるので、従来の業務領域とは異なる側面もあり、緑地の割合が10%と出るまでの過程自体の解像度を上げていくことは、実はハードルではあった。
生物多様性分野における第三者保証は、現時点ではなお確立された慣行とは言い難い状況にある。そうした状況下では、結果の妥当性のみに着目するのではなく、評価に至るプロセスにも目を向けることが重要だと考えている。形式的な第三者保証の有無にとらわれず、外部の視点が入ること自体に意義があり、結果とプロセスの双方における客観性を確保していくことが重要だと思う。
浦嶋・上席スペシャリスト
大学の先生たちはコペルニクスのデータがグーグルアースエンジンの中に入っており、クラウド上で計算可能で使いやすいと言っていた。JAXAのデータもそうした使いやすい環境が今後も整えられ、世界でも使用されればいいと思う。あと、われわれは投資家でもあるので、ネイチャーをどう解釈するかというビジネスを、色々な知見やデータを組み合わせて可視化させていく行為が必要だと考える。CONSEOはまさにそういう舞台だ。
中村マネジャー
TNFDについて日本では、世界最多の210社がコミットしている。衛星データを活用しながら開示を進めていければと思っており、今後も皆様と協議したい。
【後半】衛星データ市場のニーズ期待を受けた将来市場の発展可能性について考察。
モデレーター
・DTSSの長山聡祐・執行役
パネリスト
・NTTデータソーシャルイノベーション事業部の大竹篤史部長
・シンク・ネイチャーの久保田康裕CEO
・JAXA第一宇宙技術部門の渡邊康宏・主任
長山執行役(写真右)
前半はデータユーザー側の視点での話だったが、後半はデータプロバイダー側の視点から、どのような未来があるのかを語っていければと思う。
大竹部長(写真左)
私がやっているのはJAXAの衛星データを使った3D地図事業。「AW3D(全世界デジタル3D地図サービス)」名で3D関係の製品や付加価値データを展開している。2014年の提供開始以来、独自の画像解析技術やAI・ビッグデータ技術を強みに世界130カ国以上、4,000件以上の利用実績がある。
具体例としては、都会での風の流れの変化を示すシミュレーションや能登地震前後の状況比較、森林資源の変動把握などだ。さらに昨年には「Marble Visions」という会社を設立し、衛星の製造と打ち上げにも参入しようとしている。
久保田CEO(写真左)
私はもともとマクロ生態学の研究者だが、アカデミアからの科学的知見の社会や経済への還元に限界を感じ、バックキャスト的なところをきちんとやりたいと考えて2019年にシンク・ネイチャーを立ち上げた。様々な産業セクターの企業の自然関連リスク・機会への対応のために衛星データをフル活用している。
衛星データを含めた自然関連データは膨大で、多様な形式のデータを統合的に分析運用するノウハウが重要だ。ビジネスニーズを的確に予見・把握して、企業が事業活動をしていく上で有益なインテリジェンスを衛星データからどう抽出するかが鍵になっている。
渡邊主任(写真右)
バックキャストという言葉は概念的にはわかりやすいが、実践は非常に難しい。特に自然資本・生物多様性の分野では衛星が果たす役割はあると思うものの、この先にニーズが広がるか未知数。ニーズや市場の開拓を進めながら、JAXAがどういうプロダクトやツールや衛星を作っていけばいいのか、というバックキャストでのミッション検討を進めていく両輪の作業が必要である。
前半でMS&AD の浦嶋・上席スペシャリストが指摘されたように、JAXAのプロダクトがなかなか使われてない実情がある。ここは大きな課題。また、自然資本・生物多様性の分野についてはわれわれとしても、知見が十分にたまっていない状態。連携先やユーザーから色々鍛えていただきながら、JAXAとしての価値を定義していきたい。
大竹部長
われわれは多様なエンドユーザーにデータを提供しているが、携帯電話などでいうラストワンマイルを誰とどうやってやるかが一番大事だと思っている。顧客が本当に欲しがっているデータを最後にたどり着き加工して提供するところを、その分野の真のエキスパートと連携して、システムを作らねばならない。
JAXAの土地被覆分類は非常に優秀でわれわれも使っている。携帯電話会社が5Gのアンテナを張る際、電波の通り具合を調べるため土地の被覆分類をものすごく使う。ただ、携帯電話会社は、土地識別がJAXAの2倍の30分類くらいで、建物の高さも含めた細かなデータまで欲しがる。われわれプロバイダー側のデータと、顧客が本当に欲しがるデータの間のギャップを埋めるところを誰がやっていくのかが、大きな課題と思う。
久保田CEO
TNFDはネイチャーポジティブビジネスを主流化させうる大きなチャンスだとは思っている。一方で、コーポレートガバナンスのサステナビリティの文脈で行われる情報開示なので、その領域における衛星データの利活用は限定的だろう。実際、衛星データの情報量は一般的なコンサル市場では過剰で、分析コストへの懸念も出てくるだろう。
衛星データの一番の強みは広域性と時空間的な解像度の高さだ。そのような衛星データの利活用においては、情報開示を超えた先のビジネス機会の獲得を見通すことが条件で、コストを上回るリターンが認識されないで終わる可能性も小さくないと思っている。われわれはそこを何とか突破したいと考え、衛星データから抽出されるインテリジェンスのマーケットフィットをやろうとしている。
長山執行役
そういった取り組みの中でJAXAに期待するものは。
久保田CEO
先ほど渡邊さんがおっしゃっていたバックキャスト思考だと思う。衛星を開発して打ち上げていくコストに比較して、バックキャスト思考に基づいた衛星データの利活用技術開発への投資は、費用対効果が極めて大きいと思う。バックキャスト起点で(現状の延長線上で今後やるべきことを模索する)フォアキャストも考えるべき時期にきている。
大竹部長
日本で一番優秀なエンジニアがいるのは間違いなくJAXAなので、その人たちとオープンに本当の中身の議論をやりたい。そしてJAXAは、海外から注目されている世界トップクラスの宇宙機関でもある。TNFDのようなグローバルなルール作りは、JAXAがうまく主導して民間が追従していく枠組みがでれば、世界をリードするような仕組みになるのではないか。
渡邊主任
バックキャストとフォアキャストについてはJAXA内でも議論があったと思う。今までは各衛星が持っているプロダクトをどう社会に実装させていくかというフォアキャスト目線だったが、今年度からはバックキャスト主体になる。その中で、企業が活用可能なユースケースをJAXAがしっかりと汗をかいて作っていく必要がある。
エンジニアや研究者の優秀さは実感している。そして土地被覆図の分類数を増やすようなニーズが産業界にあると分かれば、そこをめがけて、すごく良い研究開発をする人が多数いる。先人が積み上げてきたJAXAのブランディングは国内外問わないこともあるので、生物多様性分野でも旗を振れるだろう。
長山執行役
衛星データをネイチャーポジティブに使う上で期待していることは。
大竹部長
目に見えない情報を取れるセンサーに現在注目している。生物多様性や自然資本というと、撮影画像だけでなく色々な情報を取っていかないといけないからだ。ハイパーセンサーや多波長センサーと言われるが、日本には衛星以外のメーカーでセンサーを作ったり使ったりしている人が多数いる。そういう人たちを仲間に入れ込んで、そういった新技術を日本として売りにしたら良いのでは。
衛星だけでやれることは限られており、われわれ自身が驕りすぎてはいけない。万能な衛星があるはずはないので、衛星以外のセンサーとどう組み合わせるか、利用者がどういう加工を望んでいるかという大きなエコシステムを常に考えながら、どこのパーツで衛星が役に立てるのかを意識しながら事業を進めていきたい。
久保田CEO
自然資本、生物多様性の文脈では、質が良くて適切な学習データづくりがポイントになる。衛星データだけではビジネスの人たちが要望するインテリジェンスに及ばない点を、われわれは非常に注視している。
もう一つの課題は衛星データの強みの裏返しとしての弱点。時空間的に高解像度かつ広域で取られているので、データ容量が膨大なのがネックだ。深掘りして色々と試行錯誤的な分析をやる必要があるのだが、容量的にそのデータをクラウドに置いておくだけでも結構なお金がかかるし、同時に計算コストもかかる。ここをどうブレイクスルーするかが大きな課題だ。この点はJAXAと一緒にやることで、ユーザーフレンドリーなデータをある程度整えられるとは思っている。
渡邊主任
今年度からの中長期計画で、1つの大きなポイントはバックキャストだが、もう1つは総合性。JAXA内のプロジェクトとかデータの総合性もそうだが、外部との連携というところでの総合性は、これまで以上に重要になっていくと思っている。そこで様々な課題や可能性が出てくると想定される中で、「JAXAだからできること」や「JAXAしかできないこと」をしっかりと見極め、役割を定義していきたい。
閉会あいさつ・長山執行役
TNFDと言うと開示に話が寄っていきがちだが、データを使う側と提供する側の両方から話を聞けたことは、社会に必要なものを本当に考える取り組みの一歩になったと思う。COP30において公表されている、TNFDに沿った開示を行う意向を登録した日本企業は210社となっており、2位の英国の92社を大きく引き離したのは非常に誇るべきである。
しかし、最近目にとまった記事があった。生物多様性を維持するためには毎年1兆ドル近くの投資が今後必要となる一方、自然破壊的な活動に毎年7兆ドルの投資が使われていると書かれていた。
自然破壊を止めるには、これだったら投資できるという信頼性のあるデータを以て説明をしなければ投資家からマネーを集められないだろう。公共のお金だけではなくて民間のお金を入れてしっかりと1つのビジネスとしてやっていくにはそういった性質が必要であり、衛星データの利用は非常に有効ではないか。今後の技術発展とともにそうした効果がどんどん認知されてくると考えている。
本日のこの会が、今後のわれわれの事業を発展させ、あるいは地球の環境保全を少なくとも前進させる一歩になれば幸いである。
※所属組織・肩書は全てセミナー開催時のものです。本文中の意見や見解に関わる部分は、私見であることをお断りします。
