景気循環による経済的影響は企業にとって不可避なものです。しかし、世界および地域経済に対し長期的な見通しを持つことにより、企業は景気循環のリスクを最小化することができます。デロイトは、世界のビジネスリーダーたちに必要な、マクロ経済、トレンド、地政学的問題に関する明快な分析と考察を発信することにより企業のリスクマネジメントに貢献しています。本連載は、Deloitte Insightsに連載中のWeekly Global Economic Updateの2026年7月27日週の記事より抜粋して日本語抄訳版としてお届けします。

Ira Kalish

Deloitte Touche Tohmatsu
チーフエコノミスト

経済問題とビジネス戦略に関するデロイトのリーダーの1人。グローバル経済をテーマに企業や貿易団体への講演も多数行っている。これまで47の国々を訪問したKalish氏の解説は、ウォール・ストリート・ジャーナル、エコノミスト、フィナンシャル・タイムズなどからも広く引用されている。ジョンズ・ホプキンス大学国際経済学博士号取得。

 

 

米国に拠点を置くテクノロジー企業による社債発行が急増しています。わずか6社の主要なハイパースケーラー(巨大クラウド企業)が2026年上半期に発行した新規社債は、約2,500億米ドルにのぼります。これは2025年通年の発行額の2倍を超える規模です。また、これらの企業が過去5年間に発行した社債の総額をも上回ります。その結果、社債発行全体に占めるテクノロジー企業の割合は過去最高に達しています。データセンターへの投資が急増し始めた当初、潤沢な手許資金を保有する大手テクノロジー企業には借り入れの必要がないとの見方が主流でしたが、その傾向は変化したようです。現在、大手テクノロジー企業は手許資金を温存しようと、投資資金の調達手段として債券市場への依存を強めています。

 

従来、多くのテクノロジー企業は、多額のキャッシュを生み出す一方で、保有資産の規模は比較的小さいと見られていました。しかし、データセンターへの巨額投資に伴い、その状況は変わりつつあります。現在、大手AI企業の設備投資額はフリーキャッシュフローの約94%に相当しており、以前の40%から急増しています。これは、テクノロジー企業が負債による資金調達に頼るようになった背景の一端を説明するものです。

 

この社債発行の急増は、いくつかの問題を提起しています。特に、米国政府が巨額の国債発行を続けるなかで、市場はこれほどの供給増加を吸収できるのでしょうか。社債発行の増加は、既に経済に一定の影響を及ぼしています。テクノロジー企業の社債利回りは、歴史的にはなお低い水準にあるものの、米国債と比較して大幅に上昇しています。さらに、投資家のコメントからは、市場がさらに多くの債務を吸収する余力があるかについて、懸念が高まりつつあることがうかがえます。テクノロジー企業は今後1~2年の間に、さらに多額の社債を発行する可能性が高いとの見方が支配的です。加えて、足元の米国債の利回りも上昇しており、社債市場に一段の圧力がかかる可能性があります。

 

最近まで、AIへの巨額投資に伴うリスクへの懸念は、主に株式市場に集中していました。AIバブルの可能性についても盛んに議論されてきました。しかし現在の社債の急増をうけ、AI関連収益の低迷時には、企業の債務返済能力に対する懸念も浮上しかねない状況となっています。

 

注目すべきは、世界各国の中央銀行に助言を行う国際決済銀行(BIS)が、AIへの巨額投資に伴う潜在的なリスクについて警告していることです。BISは最近の経済見通しの中で、「AI企業のレバレッジ上昇と信用市場での存在感拡大を鑑みると、AIに対する楽観的な見方が後退すれば、深刻な金融上の影響をもたらし得る。脆弱性はサプライヤーのエコシステムにも及ぶ。エンジニアリング、調達、建設業者などの企業の財務基盤は相対的に弱く、ハイパースケーラーが設備投資を縮小した場合のリスクに晒されている」と指摘しています。

 

BISはさらに、現在の企業評価に織り込まれている将来の予想利益が、異例に高い水準にあることも指摘しています。「投資家の間で慢心が広がり、リスク負担への対価が減少している。コロナ収束後、市場では業界・国を問わず投資熱が高まっていた。そうした状況のなか、2022年後半に生成AIツールが登場したことで、AIをテーマとした投資が急加速した」と述べています。

 

また、米国株の景気循環調整後株価収益率(CAPEレシオ)が現在、四半世紀前のドットコム・バブルのピーク時に次いで、史上2番目に高い水準にあることも念頭に置く必要があります。過去、株価収益率の急騰はしばしば急激な市場調整を引き起こしてきました。実際、BISは「現在の株式市場で大規模な調整が起きた場合、過去に比べてより大きなマクロ経済上の影響が生じる可能性がある。家計の株式保有額は、総資産および所得との比較において、過去数十年間を通して増加してきた。企業評価が大幅に調整されれば、過去よりも顕著な資産効果が生じ、消費の落ち込みもより急激となる可能性がある」との見解を示しています。


 

翻訳者

 

合同会社デロイト トーマツ
エコノミクスサービス
パートナー/チーフエコノミスト
増島 雄樹
 

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