近年、日本のモータースポーツ業界は大きな変革に挑戦しています。レースのカテゴリーのひとつであるスーパーフォーミュラでは、サステナブルなモータースポーツ業界づくりを目的とした『SUPER FORMULA NEXT50』プロジェクト(SF NEXT50)の取り組みを行っています。2021年に開始されたSF NEXT50は目に見える効果をもたらし、ビジネスとして取り組む関係者とモータースポーツファンの観客のどちらも、モータースポーツが持つ新たな価値を見出しています。スーパーフォーミュラのレース興行を主催するJRP(日本レースプロモーション)代表取締役社長の上野禎久氏とデロイト トーマツの五十嵐が対談を行いました。

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スーパーフォーミュラ 2026年シーズンの見どころ


 


右:日本レースプロモーション 上野禎久氏
左:合同会社デロイト トーマツ 五十嵐貴裕

 

五十嵐:2021年に、国内トップフォーミュラ50年を翌年に控えて、サステナブルなモータースポーツ業界づくりを目的とした『SUPER FORMULA NEXT50』プロジェクト(以下SF NEXT50)の取り組みが始まりました。始動当初はコロナ禍ということもあり、スーパーフォーミュラの観客動員数は10万人に満たない状況でした。それがコロナ前の2019年の観客動員数20万人を越え、2025年には26万人を超える過去最大規模の観客動員数を記録しました。これから2026年シーズンが始まりますが、今季のスーパーフォーミュラの見どころを教えてください。

 

上野:まずはレースで走る車の台数ですね。海外の選手の参戦が増えてきたので、レースそのものの面白さに拍車がかかっていると思います。エントリーリストに関しては、日本人女性で初めてスーパーフォーミュラに参戦したJuju(野田樹潤)選手がデビュー3周年を迎えますし、ラリーの世界チャンピオンであるカッレ・ロバンペラ選手がスーパーフォーミュラへの参戦を発表しました※。ファンの皆様にとってはもちろん、関係者としてもスーパーフォーミュラが海外から評価されていることが嬉しいですね。2026年は繰り広げられるレースそのものが純粋に楽しみです。
※ 健康上の問題により開幕直前に参戦見送り


五十嵐:海外のドライバーが新たにスーパーフォーミュラに参戦することで、これまで国内で活躍してきたドライバーとどのようなレースが繰り広げられると予想しますか?

 

上野:海外のドライバーはそれぞれの国や地域によってレースのスタイルが変わるものの、基本的にはアグレッシブな選手が多いです。一方で、日本のドライバーは鈴鹿サーキットや富士スピードウェイを長年走り込んだ経験値があるので手強いと評価されています。ただ、スーパーフォーミュラは純粋に速さを競うカテゴリーなので、ヨーロッパから来た速さに定評のあるドライバーたちがどのような戦いをするのかが、ファンの皆様の期待している見どころだと思います。

 

五十嵐:フォーミュラカーは一般の乗用車とは比べものにならない速さが出るので、スーパーフォーミュラはF1に負けず劣らず人気のカテゴリーになってきています。スーパーフォーミュラに挑戦したい日本の若手ドライバーや、F1を目指す海外の育成ドライバーからの関心が高まっていると思いますが、この注目度もSF NEXT50の取り組みによるものでしょうか。

 

上野:我々がSF NEXT50で掲げているビジョンのひとつに、ドライバーズファーストがあります。モータースポーツは車が注目されがちですが、実際には人と人が競い合う『ヒューマンモータースポーツ』です。我々はワンメイクレースを徹底し、人に焦点を当てたドラマをファンに見せたいと考えています。スーパーフォーミュラは世界一運転の上手いドライバーを決めるレースであり、スーパーフォーミュラでチャンピオンになれるドライバーは世界中どこに行っても通用するというのが我々の大切にしているブランド価値です。実際にスーパーフォーミュラを経て世界で活躍しているドライバーはたくさんいるので、世界中のドライバーがステップアップのためにスーパーフォーミュラへの参戦を決めてくれるというのは本当に嬉しいですね。

 

五十嵐:『ヒューマンモータースポーツ』という標語が浸透してきたことで、ドライバー達にもスーパーフォーミュラに挑戦する意欲が湧いてきたと感じています。

 

上野:その通りです。また、モータースポーツでは、ドライバーだけでなく彼らを支えるメカニック、エンジニア、オーナー、アドバイザーなど数多くの人達がひとつのチームとなり、車という道具を用いて戦います。まさに『ヒューマンモータースポーツ」という表現がしっくりきています。


五十嵐:スーパーフォーミュラはまさに人と人との戦いとのことですが、F1などほかのカテゴリーと比べると、レースの結果はマシンの性能と人の能力差のどちらに影響されやすいのでしょうか。

 

上野:圧倒的に人の能力差ですね。以前、新たなフォーミュラカーであるSF23を開発した際には、マシンの性能よりもドライバーの腕前によって勝負が決まるレースができるような車を設計することをコンセプトとして掲げていました。本来自動車メーカーがモータースポーツ業界のマシンを作る際は技術開発の面が強いのですが、こうした我々の意図を理解してくれました。

 

勝敗を決める道具としてのマシンの性能が均一化されていると、レースの結果にドライバー達が一喜一憂するドラマが生まれます。元々マシンの性能に差があると、負けても当然の結果なので泣くことがないんですね。ですがマシンの性能が均一化されていると、1000分の1秒の差で勝敗が決まり、ドライバーも雄叫びを上げたり悔し涙を流したりします。我々のコンセプト設計もそうですが、マーケティングチーム、デザインチームなど多くの関係者のアイデアが一致して、『ヒューマンモータースポーツ』の道具としてのSF23を生み出すことができたのかなと思いますね。

 

SF NEXT50の実行中にどのような環境の変化があったか

 

観客層の変化

 

五十嵐:モータースポーツ業界がどのようにしてサステナブルに発展していくかという視点では、注目度の上昇および観戦者数の増加が必要不可欠かと思います。レースそのものの見どころが増えたことはもちろん、キッザニアとのコラボによる仕事体験やレース終了後にアフターレースグリッドパーティーというイベントの開催など、SNSも活用しながらスーパーフォーミュラの面白さを多面的にアピールしている印象を受けます。2026年もしくはSF NEXT50の取り組みについて、レース以外にモータースポーツの面白さを打ち出していく考えがあれば聞かせてください。

 

上野:昭和の頃と比べると、JリーグやBリーグといったような日本のプロスポーツコンテンツの数はすごく増えました。数多くのスポーツの試合が毎週末開催されている中で、郊外のサーキットに会場を構えるスーパーフォーミュラは観客を呼び込むという点では不利です。そのような状況下で2023年にJRP会長に就任した近藤真彦氏は、ファミリー層の来場数増加を目指して様々な施策を打ち出してきました。その過程で、サーキットに来場したお子さんが「また来たい」と思えるような体験を生み出すことを大切にしてきました。そのための手段は必ずしもレースでなくても良いと考えています。それにレース以外を目的に来場したとしても、サーキットではレースを目にすることになります。時速300kmの迫力のあるレースは必ずお子さん達の意識に強く残るので、その光景をきっかけに、大人になった彼らがチケットを購入してレースを観戦する循環が生まれれば、我々の目指すサステナブルな発展というテーマを達成できると思います。

 

五十嵐:モータースポーツファンとしてライト層を呼び込むのは至上命題ですね。定着していたファンが高齢化により離れていくという従来の構造から、どのようにして若者がサーキット場へ足を運ぶきっかけを作り、もう一度観戦したいと思わせるかが10年後、20年後のモータースポーツ業界を決定づけています。SF NEXT50を打ち出してからのここ数年は、構造の転換にすごくこだわったのかなと思います。

 

上野:はい。加えて、ファンマーケティングの推進も強く意識しましたね。定着したファンが好きなドライバーを密接に応援できるように、アプリの開発や推しグッズの展開などをはじめ、ファンの多様な観戦目的に対応できるように工夫しました。実際にグッズの売れ行きは好調です。選手に感情移入できる道具があることは、スポーツの応援においてやっぱり必要かなと思いますね。
 

 

五十嵐:先ほどのお話にもあったように、モータースポーツ業界では観客層が変化していますね。SF NEXT50を始める2021年以前の観客は40-50代の昔からの男性ファンが多かったのが、最近は推し活の一環としてモータースポーツを観戦する若者や家族連れのお子さんの姿が目立つ印象を受けます。やはりSF NEXT50を進める中で、これまでとは異なる施策を打ち出してきたからでしょうか。

 

上野:そうですね。経験上、モータースポーツ業界では従来のコアなファンの存続と新規のファンの獲得を両立させるのが難しいので、コアなファンが新規のファンを連れてきやすい環境作りを目指すことにしました。ファミリー層はまさにその例です。たとえ家族全員がモータースポーツファンでなくても、周囲の観光地などを含めてサーキット場に来ることが楽しい機会になれば、その後もサーキット場に足を運んでくれます。家族でいうとお父さんなど、コアなファンが先導して新規ファンを増やすお手伝いをしてくれるような環境を目指しました。コアなファンの熱量が高いほど、周囲を巻き込む力も強いですからね。

 


五十嵐:それに加えてモータースポーツに接点のない層、または以前接点を持っていた層を呼び込むために様々な施策を打ち出した結果うまくいき、若者やファミリー層が増えたと思います。これはスーパーフォーミュラに限った話なのか、それともモータースポーツ業界全体で起きている話なのか、どちらでしょうか。

 

上野:モータースポーツ業界全体で起きている話です。少し話題を戻すと、2020年時点でスーパーフォーミュラの年間観客動員数は10万人を切っていました。同時期にスーパーGTは、コロナ禍であっても年間30万人の観客を動員していました。スーパーフォーミュラはほかのシリーズと比べると伸びしろがあったため、いろんな施策にチャレンジすることができたんですよね。モータースポーツは以前から自動車技術の実験室と呼ばれていましたが、スーパーフォーミュラではコロナ禍を機にファンマーケティングの施策も実験的に行い、上手くいった施策はほかのカテゴリーにも広めていこうという気運が高まっていました。


五十嵐:数多くの施策を打ち出してきた中で、手ごたえのあったもの、またあまり効果を得られなかったものなどはありますか?

 

上野:どちらもたくさんあります。やはり実際にやってみないとわからないので。そして施策に結果が出て初めて周りの理解も進むということは、モータースポーツ業界ではよくあります。それに車という道具を使うスポーツなのでハレーションが起こることも多々ありますが、やはり結果が出てくると批判も応援に変わっていきました。

 

スポンサー企業の変化

 

五十嵐:様々な取り組みの過程で、スーパーフォーミュラを支えるスポンサー企業にも変化が見られたかと思います。SF NEXT50が始まる前は部品メーカーなどBtoBの自動車業界のスポンサー企業が多く見られましたが、最近ではBtoC、それもAWSやカーボンニュートラルなどモータースポーツに直接接点のない業界のスポンサー企業が目立つ印象です。この変化はレース以外にもモータースポーツの魅力を伝える取り組みを続けてきた結果でしょうか。

 

上野:まさにその通りです。以前のモータースポーツのスポンサー企業は自動車業界に限られていましたが、今は自動車産業そのものの構造も転換期にあります。これまでのモータースポーツは速い車の開発に特化していましたが、最近では通信技術やデータ分析の技術など様々な技術の「走る実験室」としての価値が評価されています。


五十嵐:スーパーフォーミュラというひとつのエンターテインメントを中心に、様々なビジネスを展開していくスポンサー企業が増えている印象です。今後も新たなビジネスを展開する考えはありますか?

 

上野:はい。我々だけでなくスポンサー企業間のビジネスマッチングも積極的に行っています。エンジンや通信など様々な事業を展開しているメーカーの方々に企業紹介ブースに出展してもらい、企業同士による誘致の場を提供した結果、数社がマッチングに成功しています。

 

国内外を含むモータースポーツ業界の変化

 

五十嵐:スーパーフォーミュラを中心に、モータースポーツ業界は国内外いずれも変化しています。近年は海外のドライバーの参入が目立ち、それに伴い海外からの観客が増加するなど外国語での発信も増えているかと思います。この変化を意図して、以前から海外向けの発信を増やしていったのでしょうか。

 

上野:そうです。スーパーフォーミュラは元々、F1出場を目指す世界中のドライバー達の登竜門という位置づけで認識されていました。鈴鹿サーキットや富士スピードウェイなどF1が開催されるようなサーキットで、品質の良い日本のメーカーが作ったタイヤで走れるということが魅力で、F1を目指すドライバー達は力をつけてステップアップするために集まってきていました。しかしスーパーフォーミュラのクオリティが年々下がり、コロナ禍の打撃も相まって一気に海外のドライバーがいなくなった時期がありました。ヨーロッパの若手ドライバーが参戦していた当時は現地メディアからも注目されましたが、いなくなってしまうと注目度も下がります。そのためまずはヨーロッパのメディアに露出して現地での認知度を上げ、日本のスーパーフォーミュラで走りたいと思わせる環境作りを目指しています。来日したヨーロッパのドライバーの発信力があれば、ヨーロッパからの誘致も進みます。

 

我々は海外向けにどんどん配信していくことで、海外メディアを通じて海外のドライバーにスーパーフォーミュラで走りたいと思わせる方針を取りました。5年前からmotorsport.comでグローバル配信を始めましたが※、リアム・ローソンのような有名ドライバーがスーパーフォーミュラに参戦すると決まったときは国別記事のトップに表示されました。このときに、海外のファンやドライバーが閲覧できるチャンネルでの発信を増やしていこうと思いましたね。
※2026年シーズンはシリーズ公式アプリ「SFgo」にてグローバル配信


五十嵐:最近はF1人気やeモータースポーツの流行、フォーミュラEの日本開催などほかのカテゴリーの話題が盛り上がっていたり、映画やNetflixでF1コンテンツの露出が高まったりなどモータースポーツ業界に様々な動きが見られます。この影響を肌で感じることはありますか?

 

上野:はい。一般の方がモータースポーツに接する機会が増えており、業界全体の認知が進んでファンが増える環境が生まれています。このような動きは大歓迎です。

 

五十嵐:F1やeモータースポーツが盛り上がるということは、スーパーフォーミュラとしては観客を取り合うのではなくパイが広がるということでしょうか。

 

上野:はい。その意味では我々はeモータースポーツに早くから注目していて、2019年に導入したSF19というマシンは実際のデビュー戦より前に、eスポーツのグランツーリスモでデビューしています。ドライバーより先にゲーム上でファンが走ったんです。このようなきっかけでも構わないので、とにかく一般の方にモータースポーツを知ってもらい、触れてもらうための接点を作ることが大切です。

 


 

五十嵐:ほかのスポーツやエンターテインメントが充実してきたことにより人々の余暇の過ごし方が変化しています。スポーツビジネスの変化に対して、スーパーフォーミュラはどのように対応していく方針でしょうか。

 

上野:スーパーフォーミュラとしては、地域連携パートナーとしての活動を推進しています。余暇の過ごし方が多様化している現代、レースの観戦のためだけに郊外のサーキットに赴くのは比較的ハードルが高いです。そこで我々は、モータースポーツというサービスを点ではなく周辺の観光資源も含めた面でアピールし、地方自治体の方々にもモータースポーツというコンテンツを使って地域をアピールしてもらう地域連携パートナーという形を選びました。観客にとっても、点の観光から面のスポーツ観戦になる方が遠出を重層的に楽しめます。今やモータースポーツ観戦は、週末観光型のレジャーとしての側面を持つスポーツツーリズムでもあります。

 

五十嵐:スポーツツーリズムという概念は昔から唱えられていましたが、今その必要性の認知が広がってきていますね。今後モータースポーツ観戦を含むパッケージ型の観光プランが生まれると、スーパーフォーミュラの新たなブレイクスルーとなる気がします。

 

対談者

上野禎久
株式会社日本レースプロモーション(JRP)代表取締役社長。1988年に鈴鹿サーキットランド(現ホンダモビリティランド)へ入社し、レース運営、広報、マーケティングなどに従事。2017年にJRPへ出向し、2018年に取締役スーパーフォーミュラ事業本部長に就任。2021年より現職を務め、そして今年、JRPに正式に籍を移し、シリーズ運営のさらなる強化と改革に取り組む。

 

五十嵐貴裕
合同会社デロイトトーマツ シニアマネジャー
ブティック系コンサルティングファームにて、IPOに向けた中期経営計画策定支援、新規上場申請書類の作成支援等の常駐支援に従事。2017年にデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。BDD、中期経営計画策定支援、新規事業計画策定、PMI等の業務に加えモータースポーツ産業の拡大支援に取り組んでいる。

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