近年の急速なメディアの多様化に伴い、企業と消費者のコミュニケーションの在り方は従来のものと比較して大きく変化しています。消費者の嗜好にあわせて情報が最適化されるようになったことで、企業やメディアはAI時代に適応した新たな発信の仕方を模索する動きを見せています。また生成AIが日常生活に普及してきたことにより、消費者の選択にも変化が生まれています。現代の企業と消費者はどのようにコミュニケーションをとるべきか、PRディレクションのスペシャリストであるデロイト トーマツパブリックグッド株式会社の中尾明日香と渡邊聖之に話を聞きました。(聞き手:編集部 毛利)

企業と消費者のコミュニケーションの変遷と最近のトレンド

― 近年のメディア環境の変化は企業と消費者にどう影響していますか
 

制作:デロイトトーマツパブリックグッド

 制作:デロイトトーマツパブリックグッド

 

中尾:この数年間で企業と消費者のコミュニケーションの在り方は大きく変化しました。以前はテレビで紹介された商品が翌日の店頭から消えるほどテレビの影響が強かったのですが、今はインターネットを中心に情報源が多様化しており、消費者が様々なメディアから情報を得るようになったことでテレビがメディア・コミュニケーションの中心だという意識はなくなりました。こうしたメディア環境の変遷に対して、企業の対応は二極化しています。ひとつはターゲットを明確にした上で消費者とのコミュニケーション方法・メディアを改めて精査している企業です。ターゲットを今以上に細分化することがコミュニケーションとして最適なのかという懸念はありながらも、このような対応を選ぶ企業は増えてきています。一方、生活用品などの消費財メーカーでは自社ブランドを広く認知させるべく従来通りマスメディアを活用する企業もあります。

 

ここで言うマスメディアとは主にテレビを指しており、トレンドランキングのような番組では、一定の層に大きな影響力を持っているものの、以前に比べると宣伝効果は落ちています。WEBメディア・SNSの普及により情報リテラシーが高まり、テレビの一方的な情報発信が信頼できるか問われるようになったことも一因です。SNSでは、タイムラインに流れる情報が個人に最適化させることにより、情報接触が自分の興味関心の範囲にとどまる消費者が増え、テレビの視聴者数そのものが減少傾向にあります。

 

渡邊:企業側の発信としては、開発者が商品やサービスの開発秘話を語るという形式を選ぶところも増えています。開発者による文脈・ストーリーの発信が消費者の購買意識への影響が大きいことがわかってきました。企業が耳あたりの良い言葉で流暢にセールスポイントを喋ることよりも、口下手であってもリアルな話を引き出すことで、消費者の意識に残りやすいのかもしれません。
例えば、ある人材サービス事業会社では、活き活きと働ける職場づくりに取り組む企業を表彰するアワードを開催しています。授賞式で企業の担当者がインタビューを受けメディアに取り上げられることにより、間接的にアワードを主催する企業も含めた魅力を発信することにつながっています。

 

AI登場によって変わるコミュニケーション

―AIによって消費者の情報取得方法が急激に変わってきています。メディアやPR担当者はどのようなことに気を付けるべきでしょうか。
 

中尾:生成AIの登場により、メディアと企業のマッチングをAIで効率化させるPR会社も出てきました。当社ではAIで代替可能なことはAIに委ねるものの、人が担うからこそ可能なことをベースにして発信する方針を取っています。今後どのように変化していくかはわかりませんが、SNSのように最適化された情報ばかりが流れてくることへの抵抗感が消費者の間に生まれることで、セレンディピティ、すなわち想定外の情報に偶然たどり着くことの価値が再定義されるようになるのでは、と予想しています。企業は、消費者が意図していなかった情報にリーチするような発信をSNSやメディアを通してしていくべきだと考えます。

 

このセレンディピティを演出するにあたって、企業は消費者に体験価値を明示することが重要になります。近年では体験そのものの情報が消費者に届きづらいため、企業は変化し続けるメディア環境にとらわれずに自社ブランドの価値を打ち出していく手段を検討する必要があります。またメディアとしても、従来のPRの現場で使われてきた原則に立ち返って可変領域と不変領域を再定義し、メディアの新たな在り方を考える時期なのかもしれません。

 

AI時代の企業と消費者の新たなコミュニケーションの在り方が問われる一方、ECサイトなどオンラインの場と並行して、店舗やポップアップショップなど従来通りのリアルの場を活用する企業は数多くあります。オンラインでは把握しづらい消費者の反応を生で見ることができるので、消費者により良い体験価値を提供しながら、企業側も情報を得る、リアルの場の重要性は根強く残っています。

 

今後の企業の在り方

―企業は今後、どのように消費者とコミュニケーションをとっていくべきでしょうか
 

中尾:今後消費者は購買選択をする際に、AIに委ねるものと自らの意思を重視するものを区別することが当たり前になっていきます。生活必需品のように興味関心に関わらず必要なものの選択はAIに委ね、装飾品など個性が出るものは自らの意思で共感できるブランドを選ぶといったように、選択基準が二極化していくことが予想されます。そしておそらく、こうした機能価値とブランドに対する文脈価値や情緒価値はともに価格に大きく左右されます。機能価値においてはAIの提示した情報が消費者の選択肢となる可能性があるため、企業は文脈価値や情緒価値をどのように届けるか、商品およびサービスの文脈やストーリーにいかに価値を与え、消費者に認知されるかが、今後ますます求められていくようになります。既に投資家も数値としての企業評価だけではなく、企業のブランドの持つストーリーや人など無形資産が企業価値として反映されているかという点を重視しています。

 

またブランドの価値を高めるだけではなく、消費者に広く認知されて選ばれる発信をすることも非常に重要です。AIによる情報の最適化が進んでおり、まず消費者に認知されて検索をかけられる段階にならなければ選択肢に入らないということが問題意識としてあげられます。消費者は街頭の広告やSNSなど日常の至る所で情報にさらされているため、視界に入る情報を無意識に取捨選択している傾向にあります。こうした背景を踏まえ、ターゲットのリーチポイントをあえて従来のものからずらしてみるなどといった工夫をしながら、ブランドの持つ価値やストーリーまで含めた発信をしていく必要があります。

 

AIが日常的に使用される昨今、常に消費者の選択肢に入り続けることも、消費者の意識に残る価値を生み出し続けることも容易ではありません。日々進展する情報社会において、自社の持つ価値やストーリーを改めて見直しターゲットに届く形で発信をしていく姿勢が企業に求められています。
 

対談者

中尾明日香
デロイト トーマツパブリックグッド株式会社 取締役
高級車のディーラーを含む自動車関連企業のハウスエージェンシー部門を経て、2018年6月パブリックグッド入社。
電子機器、健康食品、IT、化学、衣料、化粧品など多様な業種で、ブランドブック・統合報告書制作、CI/VI開発、広報戦略立案、PR・SNS運用、イベント企画を専門とする
 

 

渡邊聖之
デロイト トーマツパブリックグッド株式会社 アシスタント ディレクター
テレビ番組の編集を経て、2018年にパブリックグッド入社。
総合人材サービス、健康食品、化学、下水道コンサル、精密機械加工などの業種で、PR戦略企画・実行、採用マーケティング、パブリシティ獲得の業務を担当

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