M&Aを成立・成功に導くために。M&A人材育成の重要性
M&Aのバイサイド(買収側)はM&A案件を「成立」させなければ、有望な投資機会を逃すことになります。さらに一部調査では「成立」したM&Aのうち、「成功」したといえるものは3割程度に留まると言われています。
この「成立」と「成功」の2つのハードルを乗り越えるためのポイントが、「M&A人材の育成」です。合同会社デロイト トーマツ (以下、デロイト トーマツ)の奥野と本間に、M&A人材育成の重要性やデロイト トーマツが提供するバリューについて話を聞きました。
目次
M&A件数増加の背景に「事業承継問題」や「政府による環境整備」など
―M&Aの件数は近年増加傾向 にあります。その背景は何でしょうか。

奥野
主に3つの背景があると考えます。
1つめが「事業承継問題」です。2025年には人口のボリュームゾーンとして突出している「団塊の世代」と呼ばれる方々全員が75歳を超えました。自身の年齢を鑑み、後継者不足に伴う廃業や倒産を避けるための手段として、M&Aを選択するオーナーが増えています。
2つめが「ビジネスモデルの変革」です。時代の変化により収益性が落ちてしまった低収益セグメントの売却や、立て直しのために買収を図るケースも一定見受けられます。
3つめが「政府によるM&A環境の整備」です。事業承継問題の解消を目的に、政府は「事業承継・M&A補助金」による支援強化や「事業承継税制」の拡充など、M&Aを後押しする仕組み作りを積極的に行っています。
―M&A件数の増加には構造的な背景があるのですね。となれば、今後も増加傾向は続くのでしょうか。

奥野
増加傾向は続く見通しです。日本企業同士のM&Aである「IN-IN」だけでなく、大きなトレンドとしては、競争力強化のため日本企業が海外企業を買収する「IN-OUT」や、こと円安局面において技術力の高い日本企業を海外企業が買収する「OUT-IN」の件数も増加していくものと考えられます。
M&A人材育成の不備が機会損失につながり得る
―M&Aにおけるバイサイド(買収側)の課題を教えてください。

奥野
M&A人材の育成が不十分なために、貴重なM&Aでの投資機会を逃し続けているケースが一定見受けられることです。
―なぜ人材育成の不備が、M&Aによる投資機会の損失につながってしまうのでしょうか。

奥野
入札形式・相対形式を問わず、M&Aの初期的検討からクロージングまで早ければ6カ月程度の時間しかありません。特に入札方式については短期化が進んでおり、1次入札までの期間が1~1.5カ月程度、2次入札までの期間もDD(デューデリジェンス)実施期間を含め1.5~2カ月程度と、以前と比べて検討期間が短くなっています。
つまり、買収側はタイトなスケジュールの中で、シナジー効果の検証や買収希望価格の決定、DDイシューの洗い出し、PMIに向けた体制の整備など、多様な意思決定を行わなければならないのです。
入札形式の場合、一般妥当な金額では、入札を勝ち抜ける確率は決して高いとは言えません。
ではどのように勝ち抜けるかというと、シナジーなども見込んだうえで価値のシミュレーションを引き上げる必要があるのですが、その際に重要なことは事前にいかに社内のM&Aの体制を整備しておくかに尽きます。
―社内のM&Aの知見が不十分な場合、「ほかの買い手候補と同程度の条件は提示できたとしても、勝てるほどの有利な条件を掲示することは難しい」ということですね。

奥野
その通りです。あくまで肌感覚ですが、十分なM&A体制や人材が整備している企業は、大企業を中心に2~3割程度に留まる印象です。
なお、いざFA(フィナンシャル・アドバイザー)よりM&A案件の紹介を受けてから研修や勉強に着手しようとしても、先述したスケジュールのタイト化もあり、その時間はほとんど取れないでしょう。
プロからM&A戦略を学べる「Academy Channel」
―M&A人材育成を目的としたデロイト トーマツによる支援内容を教えてください。

本間
事業承継やM&A戦略などの知見を体系的に学習できるコンテンツプラットフォーム「Academy Channel」を運営、公開しており、M&Aのプロフェッショナルを育成するためのコンテンツを多数取り揃えています。
月額3,960円※から利用することができ、個人・法人問わず多くのビジネスパーソンにご利用いただいています。
※年払いプラン選択時の月額・税込価格
コンテンツラインナップは「M&A戦略」を中心に「危機管理」「経営戦略」「知財戦略」などにカテゴライズしています。

―「Academy Channel」の特徴は何でしょうか。

本間
まず「デロイト トーマツグループの現役の専門家が自ら制作し、講師を務めていること」が挙げられます。現場の視点を踏まえたM&A実務の勘所やFAの上手な活用方法などを学ぶことができると好評をいただいています。
また昨今では主流と言われる対面研修とe-ラーニングを組み合わせた「ハイブリッド型」での提供が可能であることも特徴です。対面研修で理解しきれなかった部分をe-ラーニングを使ってピンポイントで復習できるため、学習者の理解度を高いレベルで均一化させることができます。

奥野
「Academy Channel」のコンテンツラインナップはM&A実務に関するほぼ全てを学ぶことができるほど網羅的ですが、さらに細かい企業ニーズに応じて研修プログラムをカスタマイズすることもできます。例えば「特定の業界のバリュエーション(企業価値評価)について詳しく学びたい」「当社のリテラシーに応じた財務モデリングのトレーニングをして欲しい」 などのご要望に応じた研修を提供しています。
M&Aをビジネスパーソンが学ぶ意義
―M&Aの担当者としてだけでなく、ビジネスパーソンとしてM&Aに関する知識を学ぶ意義は何でしょうか。

奥野
特に将来の幹部候補となるビジネスパーソンには必須の「経営知識を身に付けられること」だと思います。具体的には、M&Aは「財務・税務・法務のるつぼ」と言われており、それら3分野の知識をトータルで身に付けられます。またM&Aではシナジー効果の検証が不可欠であり、その検証プロセスでは様々な業界・業種のビジネスを正確に理解しなければなりません。結果的に自社の領域を超えた幅広いビジネスに関する視野が養われることでしょう。
―最後に、将来的にM&Aを視野に入れている企業に向けてメッセージをお願いします。

奥野
一部調査では、「成立」したM&Aのうち、「成功」したといえるものは3割程度に留まるそうです。
では、M&A案件を「成功」させるために何が必要かと言うと、「適切なプライシングを算出する」「M&A後の事業運営を想像しながらDDを実施する」「DDで洗い出したイシューをPMIに生かす」など、M&A成立に至る主要なプロセス全てを高いレベルで実現する必要があると考えます。
加えて、M&Aは「ご縁」です。いつ自社の経営戦略に合致した案件がFAから紹介されるか分かりません。だからこそ、そのときに備え、今のうちから「M&A人材の育成」に着手してみてはいかがでしょうか。
奥野 哲平
合同会社デロイト トーマツ
パートナー
2002年に国内銀行入行。営業店にて事業会社向けファイナンス業務に従事後、IBビジネス業務を担当。大手証券会社へ出向し、以後7年間M&Aアドバイザリー業務に従事。その後、会計系アドバイザリーファームを経て、独立系プライベートエクイティファンドのスタートアップに携わり、ファンドレイズや投資案件のソーシング、投資検討に関与。2019年11月より現職にて、主に国内ミドルキャップ案件を中心にM&Aアドバイザリー業務を提供中。
本間 里佳
合同会社デロイト トーマツ
シニアコンサルタント/Design & Brand
2017年に入社。クライシスコミュニケーションチームにて複数の大型不正調査案件のPMOに従事。その後Innovation Unitに異動、総合商社・スタートアップでの経験を活かしDT Academyの事業拡大を推進するとともに、企業への人材育成プランの提案を行っている。