アスリートの「食」の現状を解説した前編を受け、後編では最近注目の食材、「食べてはいけないもの」がある選手への対応、今後の展望やそこから派生している「食」の様々なトレンドについて追っていきます。「スターフェスティバル」の藤倉氏、南部氏、あるいはプロスポーツ界の視野には、プロ選手はもちろん、将来プロとなることを目指す若年層の存在も含まれていました。このように、多様な面からプロスポーツ界の変わっていきつつある「食」を考えます。(聞き手:編集部 毛利俊介)

藤倉 貴久氏

スターフェスティバル株式会社
企業営業部部長

結婚式場、ウェディングのプロデュース会社にてウェディングプランナーとして従事。また営業職の責任者としてウェディングだけでなくケータリングの拡大も担当。スターフェスティバルに転職後は営業職として様々な食事の可能性を広げるべく、食事の需要がある業界の獲得に動く。「ラグビーワールドカップ2019」をきっかけにスポーツ業界に営業範囲を拡大。大型のスポーツイベントを中心に複数のプロスポーツチームの食に関わるサポートを行っている。

南部 賢志氏

スターフェスティバル株式会社
ロイヤルリレーション部部長

大学卒業後、大手通信会社にて営業職に従事。スターフェスティバルにて営業チーム、支社の立ち上げなどを歴任。「TOKYO 2020 オリンピック」をきっかけにスポーツ事業に関わる。その後も大型のスポーツイベントのみならず、複数のプロスポーツチームの食に関わるサポートを行っている。

アスリートが注目し始めている新しい食材、「鹿肉」

――貴社は基本的に昼食を提供しているそうですが、練習日と試合日で内容に違いはあるのでしょうか。

藤倉:練習日は練習後に昼食を提供、試合日はゲーム終了後に必ず食事を用意します。練習、試合後はしっかりめのメニューが、試合開始前のチームミーティング以前に取る食事では、おにぎりやうどんなど、消化が良くてすぐエネルギーに変わる食材が求められます。

南部:とはいえ、チームにより求められる食事内容は変わるので、炭水化物が中心だとも言い切れません。

――最近注目を集めている食材はありますか。

南部氏:なんと言っても鹿肉ですね。プロスポーツに限らず、筋肉を鍛えたいと望む人からは非常に注目されています。

出所:スターフェスティバル株式会社

藤倉:そうですね。気になるのは流通経路だと思いますが、鹿は害獣駆除として年間を通して捕獲されます。ただ、加工処理できる場所が少ないので、狩猟したあとは山の中に放置されているのが現状。それを有効活用しようと分析していたら、近年になって鹿肉の栄養学的優位性がわかってきました。

南部:ただし、流通量が少ないので安定供給が難しく、高価なのがネックです。それでも選手は、鹿肉についての知識をすでに持っています。以前あるチームにテストとして牛肉と鹿肉を並べて用意したら、鹿肉は一瞬でなくなりました(笑)。爆発的に普及はしていないけれど、アスリートからの注目度は間違いなく高まっている食材です。

藤倉:アスリートは、管理された食事にある意味飽きている部分があります。そのためチームは食事ごとに違う味付け、違う調理法を心がけていますが、やっぱり……。そこの需要に、目新しい鹿肉が刺さっているということでしょう。

南部:純粋に美味しいですしね。ラム肉などのように匂いがあるのではとイメージする人も多いでしょうが、実際は加工技術の発達により、臭みは一切ありません。

禁食があっても徹底した自己管理で栄養バランスを整える

――チームが食べさせたい「食」と、選手が食べたい「食」に違いがある場合はどうしているのでしょう。

藤倉:選手からは、「中華が食べたい」との希望をよく聞きます。若い人が多いし体も動かすしで、油ガッツリ系を欲しているんですね(笑)。チームや管理栄養士側も理解を示していて、練習後であればそういったメニューが出される場合があります。ただし、やはり油は控えめ。それでも満足感を得られるよう、工夫を凝らしています。

――ところで、どのスポーツにおいても海外選手が増えている今、宗教的な理由や個人の主義、アレルギーなどで「食べられないもの」がある場合はどうなのでしょう。

藤倉:好き嫌いも含め、管理栄養士と情報共有して、必ず何かしらは食べられる状態にします。お弁当におかずが4種類あったとしたら、どの選手も2種類は食べられるようにしますし、ビュッフェ形式の場合は自由に食べるものを選べるので問題はないですね。理想的な栄養バランスの食事見本も掲示しますから、それを基本に個々人がアレンジし、自分が食べられるものから必要な栄養を摂っています。

南部:プロチームに所属する海外選手は日本に移住していますし、日本は割と自由にものを食べる国だと知っているので、あまり細かいことを言う人はいません。プロアスリートだからこそ自己管理は徹底している、そんな印象を受けます。

チームだけでなく観客へ、若年層へと波及していくプロの「食」

――今後のプロスポーツ界での「食」は、どう変化していくでしょう。

藤倉:ホームでもアウェイでも、同じクオリティのものを安定的に食べたい。この要望はチームも選手も抱いているので、その点は進化していくでしょう。特にアウェイの場合、現状は地方であるほど食事管理が難しいので、そこが重点的に改善されると考えます。

さらに言うと、プロスポーツは興行なので、観客向けの食事にも力を入れるようになってきています。特別席で食事付きのチケットなども販売する「スポーツホスピタリティ」の導入が最近のトレンド。海外では当たり前にやっていることですが、それを日本でも取り入れようとの動きが出てきています。

いわゆるVIPではない、一般の熱心なスポーツファンへのサービスとしても「食」が一番手をつけやすい領域。チームの応援弁当のようなその場でしか買えない、見た目も工夫したメニューを用意するなど、ファンを呼び込むコンテンツとして食事が注目されています。

出所:スターフェスティバル株式会社

――プロ以外のアマチュアや学生チームの業界でも、「食」の管理は重視されていますか。

藤倉:プロの育成組織(ユースチーム)に所属している子どもは、かなり栄養に関する知識を身につけているでしょう。ただ成長期でもあるので、チーム側は食べさせる量にも気を配りつつ、今までより美味しいものを提供していこうとしているようです。一部スポーツは学生時代、アマチュアのときから管理栄養士がつき、食事管理への意識を植え付けています。この動きは、どんどん低年齢化していると感じます。

南部:現在は、選手の練習方法、手本となる動きなどが動画で簡単に見られる環境です。そしてそれらを発信する選手は、食事も練習の一環と捉えていることが多い。そういった情報に接することで子どもも「食」の知識を増やし、意識を高めていっているのでしょう。将来的にプロに呼ばれたとき、彼らもチームの栄養管理とそのための設備などもチェックするようになると想像できます。環境が整っていないチームには行かない、そんな風潮になっていくのではないでしょうか。

藤倉:プロチーム側もそういった未来を予測し、状況の改善に努めていこうとしているのが今なのかもしれませんね。

――本日はありがとうございました。