今年で2年目を迎える四国中央市のシティプロモーション。その推進のためにデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、DTFA)では、市民や市職員のまちづくりに対する志を共有するためのワークショップに注力しています。今回は、第2回「18っ祭!」に向けて始動した今年度、初回ワークショップにSROIチームとして加わった3名に取り組みの目的やポイント、ワークショップの感想や課題などについて聞きました。

竹ノ内 勇人

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
シニアヴァイスプレジデント

大手監査法人にて会計監査に従事後、2016年にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社しM&A目的・会計目的のバリュエーション業務を担当。近年では評価領域を広げ、社会的インパクト分析を軸としたブランディング業務などにも携わっている。

佐々木 友美

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
シニアアナリスト

大手生命保険相互会社で国内外の社債投資・モニタリング・実績管理を担当後、電機メーカーに籍を移し予算編成・予実管理などに携わる。2020年デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社後は企業価値分析や無形資産価値算定に加え営利・非営利団体の活動による社会的インパクトの分析などに取り組む。

江越 七海

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
アナリスト

大手国内百貨店入社後、海外ラグジュアリーブランドの婦人服、宝飾部門において、マーケティング業務を、その後リスクマネジメントや人事部門にて人材開発の職務に従事。2022年にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。社会的インパクトの分析などに携わっている。

まちの課題を議論する場づくりの重要性

——四国中央市のシティプロモーションは2年目を迎えました。本年度1回目のワークショップを運営してみていかがでしたか。

佐々木:今回のワークショップは、シティプロモーションの旗印となるロゴ・スローガンの制作に結び付けていく第一段階にあたります。シティプロモーション戦略を立ち上げたばかりの1年目、前年度の同じ時期に開催したワークショップでは、市職員の参加者が多くを占めていました。しかし今回は、市職員に加えて地元企業や高校生の方々も多く参加するため、異なるステークホルダーがそれぞれどこまで自由に話し合えるかを心配していました。

実際にスタートすると、各テーブルで予想以上に活発な意見交換が行われ、中には席を立ち上がってアイデア出しの付箋紙の記入をしたり、アイデアの流れの順番整理をしたりするグループもあったほどで安心しました。シティプロモーションのワークショップを通じて、参加者自身がまちの魅力や未来像を楽しく話し合うことができたことを良い経験としていただければと思っています。

竹ノ内:今回のワークショップでは、高校生、地元企業、市職員の3つのグループに分かれて話し合いましたシティプロモーションの一環である今回のワークショップですから、市職員グループの議論は、いくらか堅苦しい展開になるかと思いましたが、時には笑い声も出るなど肩の力を抜いて取り組んでいただけました。

一方で、ワークショップ前からの気がかりだった地元企業グループと高校生グループの雰囲気ですが、地元企業グループの中には率先してメンバーのアイデアや意見を整理する方がいらっしゃったり、高校生グループも含め各テーブルに話し合いを任せていても、自発的にリーダーシップを発揮した方がほかのメンバーの発言を上手に引き出すシーンも多く見られたりと、DTFAスタッフが進行サポートに入らなくても、議論がスムーズかつ生きいきと進んでいたことが印象的でした。

市職員の方々をはじめ地元企業や高校生の方たちが四国中央市の課題をそれぞれの観点で真摯に議論し、将来のまちのイメージを膨らませていく熱意が強く感じられました。今後も私たちがシティプロモーションに参画することで具体的な施策の実行や支援を続けながら、この皆様の熱を受けて次につなげていきたいと思いました。

江越:最初は皆さん緊張されていて、話し合いがぎこちない印象もありました。しかし、話し合いが進んでいくうちに、もともと地元への想いや情熱を持っている参加者の方々から新しいアイデアが多く出されし、その雰囲気の中でに刺激を受けて意見が深まっていきました。

特に印象的だったのは、高校生の方々のまちに対する真剣な思いと問題意識です。「日本一の紙のまち」という地元に対して明るい希望を持ちつつも、紙の今後の需要の変化や環境への影響を心配するなど、市の抱える課題がしっかりと議論されていました。

多角的な視点で意見を交わしゴールを目指す

——市職員だけでなく地元企業と高校生が一緒にまちづくりを考えるという今回の取り組みのメリットをどのように考えていますか。ワークショップに採用したSROI手法についても聞かせてください。

佐々木:今回のワークショップで採用したSROI的な手法は、様々なステークホルダーの方々が参加できる点にメリットがあるアプローチです。異なるステークホルダーが参加することで、お互いの利害関係を常に意識しながらそれぞれの視点でまちに対する思いや理想とするイメージを話し合い、着地点を見出していくプロセスが非常に重要といえます。

多角的な視点でシティプロモーションを推進する重要性を考えると、市職員だけでなく地元企業と高校生の若者が集まり、ほかのステークホルダーのアイデアに触れて発想が変化していったり、日常生活の枠組みから少し外れた意見が生まれたりします。今自分たちが思うまちの姿についての考えや漠然と感じていることを発散できる場所になったのではないでしょうか。

竹ノ内:まちづくりの一環で市民の意見を把握するという意味では、自治体はワークショップのかたちではなくても日頃から住民にアンケート調査を行っています。ただ、四国中央市に限らず地方都市では人口流出が加速していて、これからのまちの未来を担う高校生のような若者たちがワークショップに参加するメリットは大変大きいと思います。今回のワークショップを通じて、まちに対する意見を大人たちに伝えていく方法のひとつと感じてもらえたのではないでしょうか。

四国中央市では大学や専門学校がないため、進学で市外に出て行き、そのまま就職するなどして地元には戻らない若者が多い状況が続いています。しかし、社会人としてまたまちに戻り、地元に都会での経験を還元してより良いまちづくりを目指す意識を、ワークショップを通じて育むことができたら嬉しいです。

江越:自分たちがまちの主役であることを再認識し、これからの生活で地元に良い影響を与えていく意識を見つめる良い機会になったのではないかと思います。

それぞれのグループを回っていると、ファシリテーター役を買って出ている方が、皆さんの話し合いを上手にリードしている光景を目にしました。異なるステークホルダーが参加するメリットを活かせるスタイルとして、次回以降も意識していきたいですね。

SROI手法の活用で明確なまちの未来像を描く

——今回のワークショップを通して感じた、SROI手法を使ったワークショップの課題や今後の取り組みを教えてください。

佐々木:シティプロモーションにも社会的インパクトを取り入れてまちづくりに実装されていく流れに、私自身大変期待感を持っています。

今回のワークショップは最終的にロゴやスローガン制作へと集約していくことが目的です。私たちがいつも表現手段として活用しているような、ロジックでつなげていくことに加えて、まちで暮らす方々の思いをうまく表現しながら、市民の皆さんの納得感のあるシティプロモーションへとブラッシュアップしていきたいです。

竹ノ内:普段私たちは、数字をいろいろなものに落とし込んで着地を見せていく仕事をしています。ただ、それだけでは表現しきれないものがあるため、文字やイメージに変換し、最終的に生み出される社会的な価値を再び数字で示し、可視化していく大切さを改めて認識しました。

SROIは、何かの活動にどういった意味があるかロジックモデルを作成し、どのような結果をもたらしたかを評価するケースで活用されることが多い手法です。今回のワークショップでは、そのうちの市の現状や未来といった結果を評価する部分を参加者に話し合っていただきました。私が理想としていた、私たちの武器であるロジカルなスキームを活用しつつ、アナログ的なデザインへと昇華していくプロセスをさらに拡大できたら嬉しいです。今後は、今回の話し合いの結果に基づいて、まちづくりのロジックモデルを皆さんで話し合うといった、SROI手法のプロセスを逆流させるアプローチもできるのではないかと楽しみにしています。

江越:ワークショップのアイデア出しの中で、どのグループも紙に関連したキーワードがたくさん登場していて、皆さん「日本一の紙のまち」である地元に強いプライドや愛着を持っていると感じました。

強いプライドやブランディング力がある市民の皆さんが、これからどのようなロゴやスローガンを制作されるか大変楽しみです。私たちのSROI手法を活用し、地元の方々がブレーンストーミングしやすいワークショップのスタイルへより一段とブラッシュアップしていけたらと思います。

——2回目、3回目と回を重ね、どのような展開を見せるのか、DTFA Times編集部でも今後の行方に注目したいと思います。

DTFA Times編集部

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