2023年3月5日、四国中央市のシティプロモーションのキックオフイベント「18っ祭!」が開催されました。今回のイベントに合わせて市の未来を象徴するアート作品を制作したアーティストの鷲尾友公さん、ミュージシャンのnabeLTDさん、美術家の風間天心さんに、それぞれプロクリエイターの目線からイベントの意義や印象を伺いました。

まちの魅力を可視化するVision Mapの制作

鷲尾 友公さん

美術家・グラフィックデザイナー

愛知県生まれ。同地在住。グラフィックデザインを中心にイラストやデザイン、映像など多岐に渡って美術活動を展開。「あいちトリエンナーレ2019 情の時代」をはじめ、国内外の美術館やアートイベントで活躍中。

――鷲尾さんは、美術家、グラフィックデザイナーとして活躍されています。今回、四国中央市の未来の姿を高校生たちとの意見交換を通じて形にした「Vision Map」を制作されました。高校生とはどのような流れで制作を進めましたか。

最初に「四国中央市の成人式のプログラムの一環としてアート作品を発表したいのでぜひ協力してほしい」というお話をいただきました。そこでまず、昨年11月に開催されたまちづくりのワークショップに参加し、高校生にこのまちの魅力を聞き取りながらアイデアを膨らませていったのです。

やがて、高校生が主役の「18っ祭!」というイベントで、市の未来の姿をイラストにして発表する構想がまとまりました。今回発表した「Vision Map」は高校生と協力して作業を進めた作品ですが、皆さんの団結の結晶だと感じています。

――作品に込めた思いについて、ひと言お願いします。

四国中央市は「紙のまち」として有名で、まちを歩くと紙を製造する独特のにおいがします。地元の人たちは慣れていて当たり前になっているというのが印象的でした。

でも、アジアに行けばアジアのにおいがあるように、行く先々のまちでにおいが違うことって、五感で直接感じられるまちの魅力のひとつではないかと思うんです。今回のイラスト作品には、そういった地元では可視化されないものも含めて描き込んだつもりです。

――この企画の目的にも通じますが、若者は何があればまちに戻ってくると思いますか。

「経験」と「時間」ではないかなと思います。参加した高校生から「このまちには何もないから」という言葉をよく聞きました。「遊ぶ場所やおしゃれする場所、学ぶ場所がない」、だから「18歳を起点にみんな市外に出ていくのだ」と。

まちを離れれば、外の世界は知らないことだらけです。出会う人、失敗したことなど、様々な価値観を知りながら若者は経験を積んでいきます。自分の経験を誰かに教えたいと感じるようになるのは、30代後半あたりではないでしょうか。仕事や結婚のため都会で暮らす人が多い一方で、都会で積んだ経験と時間を重ねた人たちが地元に戻ってきたときに、改めてこのまちの魅力を再発見できるのではないでしょうか。

四国中央市VisionMap&オリジナル音源
VisionMap制作:鷲尾友公さん、オリジナル音源制作:nabeLTDさん
出所:四国中央市公式チャンネル(https://youtu.be/0J-3K6S9Lxo)

未来へ受け継がれ成長するテーマソングを目指して

nabeLTDさん(TwitterInstagram

ピアニスト・プロデューサー・コンポーザー・アレンジャー

幼少期からピアノに熱中し、ジャズに傾倒。バークリー音楽大学を卒業後、ニューヨークを拠点に活動する。帰国後は、鍵盤奏者としてアーティストへの楽曲提供やサポートミュージシャンなど、多彩な演奏活動を続けている。

――ミュージシャンとして活躍されているnabeLTDさんは、鷲尾さんが制作した「VisionMap」とコラボして「四国中央市の「音」を紡ぎ合わせたオリジナル音源を制作されました。今回のシティプロモーションの企画を聞いたときの印象はいかがでしたか。

これまでアーティストに音楽を提供する仕事が多かったのですが、今回のようにまちづくりを通して地域や若者と関わる仕事は新鮮だったので、ぜひチャレンジしてみたいとお引き受けしました。

――高校生を中心とした企画ですが、いつものリスナーとは多少異なる層と関わる中で苦労された点、印象的だった点をお聞かせください。

今回の音楽制作は、四国中央市のまちが持つ「音」をモチーフにするアイデアからスタートしています。ただ、あまりに現代音楽すぎても高校生には馴染みがないためバランスを取らなければなりません。そんな中、秋祭りなどで開催される太鼓祭りがヒントとなり「ネオ・祭り囃子」をテーマに作品をつくる方向性が定まりました。オリジナル音源には、お祭りの和太鼓や鉦(かね)の音はじめ、私が市内各地で直接録音した音源などを取り入れています。

――参加した高校生に対してどのような印象を持ちましたか。

皆さん、このまちのことを真面目に思って企画・運営を進めていく姿が印象的でした。

――一度出て行った若者がまちに戻ってくるために必要な要素は何だと思いますか。

「カッコイイかどうか」ではないでしょうか。私も地元を離れ、音楽を学ぶため長く海外留学をしましたが、海外で暮らした経験から日本を見直すにつれて「音楽をはじめとして、もっと様々なアプローチでまちを盛り上げていきたい」という気持ちが強くなりました。そのまちにいることにステータスを感じられるような地方創生が大切だと思います。

――制作された音源は、来年以降もイベントのテーマソングとして使われていきます。高校生のつながりとともに、作品が受け継がれていく可能性についてどう感じますか。

私の理想は、この曲がどんどん育っていくことですね。何か余白を残しておきたいという気持ちも含めて制作しました。今後、この音源で使われている祭り囃子を市民の方たちが鳴らすことや、地元で有名な中学校の吹奏楽部が演奏することなどもあれば素敵ですね。

地元の伝統工芸、水引アートでまち全体をむすぶ

風間 天心さん

美術家・僧侶

北海道生まれ。2006年、第9回岡本太郎現代芸術賞に入選。2011年、武蔵野美術大学パリ賞によりパリに滞在し研鑽を積む。国内外を問わず多数の個展やグループ展で精力的に作品を発表している。

――美術家の風間さんは水引を取り入れた作品を中心に活躍されています。今回のシティプロモーションでは、伝統工芸の水引アート作品『むすひのくに』を制作されました。この企画に参加したきっかけを教えてください。

この企画のスタッフから、シティプロモーションで未来に向けたまちづくりをテーマにしたイベントを企画しているので協力してほしいと依頼されました。長年、水引を使ったアート作品を手掛けているのですが、実際に水引の産地とのつながりはなかったこともあり、喜んでお引き受けしました。

水引アート作品『むすひのくに』

――普段制作している水引作品と異なる点はありますか。

水引の生産地で実際に製造されている方から材料を仕入れる経験は、とても新鮮でした。そもそも、伝統工芸の水引は「結ぶもの」という認識で、技術を大切に受け継いでいます。一方で、私がこれまで手がけてきた水引アート作品は、独自のアイデアで制作しており、「結ぶ」以外のアート技法も多く取り入れています。そのため、地元の方たち、特に水引の伝統工芸士の皆さんにどのように受け入れられるか、期待と不安の混じる気持ちで作品発表の日を迎えました。

――このまちの高校生と関わってみた印象はいかがでしたか。

地元の高校4校ほどで非常勤講師をしているので、日頃から高校生との関わりはありました。このまちの若者の特徴なのかはわかりませんが、皆さんシャイなのか、最初は距離感がありました。しかし、時間をかけて高校生と関わるうちに、一度打ち解けると一気に距離が縮まった印象があって、そこは嬉しかったですね。

――高校生と今回のイベント運営をする上で心掛けたことはありますか。

高校生が自由に意見を出せるような場所づくりに苦心しました。高校生だけで、まちづくりの企画を進めていくことは、知識や経験などを含めて大変なことです。

今回のイベントでは『お祭り』をテーマに選んだことで、大人も若者も一緒になり自由に意見を出し合える土台ができたのではないかと思います。さらに、私たちのような外部の人間が参加することによって、地元を覆う殻を破り、まち全体で新しい風を起こしていくきっかけになれば嬉しいです。

――本日は貴重なお話をありがとうございました。

市役所担当者から

今回、3名のアーティストの方々と高校生のコラボレーションを近くで見守る中で、プロジェクトが進むにつれて、双方の距離が縮まる様子を目の当たりにしました。コミュニケーションを通じて、高校生のまちの未来への思いをそれぞれの作品に上手く取り入れて具体化してくれたと感じています。
特に、高校生が何気なくつぶやくひと言を拾い上げて、アートも交えながら周囲の高校生メンバーも巻き込んでいく流れは、さすがアーティストさんだと心を動かされました。
まちづくりにおいて、行政がアーティストさんと連携する機会は多くありませんが、アートという、完成しない、余白のある取り組み、また、多様な価値観を受容する取り組みが、今後の市民協同型のまちづくりには求められるのではないか、とも感じました。ぜひ、今後も今回制作して頂いた作品を上手く活かしながら活動を進めていきたいと思います。

DTFA Times編集部