デロイトUKが毎年発行しているFootball Money Leagueにおいて、欧州5大リーグに所属するクラブの売上高ランキングのトップに必ず顔を出しているレアル・マドリ―とFCバルセロナ。楽天がFCバルセロナのメインスポンサーを務めたことや、世界的スーパースターのイニエスタ選手が日本でプレーしていることもありなじみの深いLaLigaですが、本コラムではLaLiga1部(以下、LaLiga)をベンチマークとして、Jリーグと売上構成や費用構成などの比較を通して、収益拡大や効果的な支出のヒントを探りたいと思います。

※当記事はJリーグ マネジメントカップ2021調査レポートに掲載した内容を一部改訂して転載しています。

売上構成の比較

まずは売上構成について、コロナ禍以前の2018-19シーズンにおけるJリーグとLaLigaで比較してみたいと思います。J1平均では、スポンサー収入が44%と最も多く、次に入場料収入が20%、放映権収入が10%で続く売上構成となっています。一方でLaLiga平均では、放映権収入が44%と最も多く、スポンサー収入が27%、入場料収入が26%と続く形となっています。このことから、LaLigaはあらゆる収入の源泉となるコンテンツ、「試合」の価値が非常に高いということが見て取れると思います。また、その高い「試合」の価値を軸に英国プレミアリーグに追随し、積極的に放映権ビジネスを展開していっていることがうかがえます。

前提として、サッカーに対する国民の人気や関心が非常に高いスペイン国内においてLaLigaは、最高のコンテンツの1つであるといえます。レアル・マドリーとFCバルセロナという世界的ビッグクラブには多数の世界的なスター選手が在籍しているため、両クラブの直接対決を指す「エル・クラシコ」は世界で最も視聴されるスポーツイベントの1つとなっており、世界中の関心を集めることができています。一方で、Jリーグについてはコロナ禍前の2015年から2019年までの4年間における平均入場者数の成長率が+2.2%と微増にとどまり、集客力の向上に苦戦している状況にありました。また、日本代表選手の大半が国外リーグでプレーしていることもあり、Jリーグは慢性的に国内のスター選手を欠いていることから国内での関心が高まりにくい状況にあります。

このようにLaLigaとJリーグでは、前提となる「試合」の価値に大きな差異がある事実は認めざるを得ません。LaLigaが多くの放映権収入を得るために実施している取り組みには、今後のJリーグに対する関心を高め、視聴者数や放映権料の増加につなげるためのヒントが隠されていると思われますが、Jリーグの生み出している価値の源泉をしっかり見極め、それをマネタイズしていく方法を、より一層検討していく必要がありそうです。

その意味で参考になりそうな取り組みとしてLaLigaでは、2017年から世界中のファンとの接点を増加させるために、グローバルにオフィスや駐在員を配置することでネットワークの拡大を進め、各国でアクティベーションを積極的に行うことで国際化を進めてきています。2016年に8拠点だったところから、現地拠点や駐在員による活動範囲を55カ国まで拡大したグローバル・ネットワークを活用し、各国で「エル・クラシコ」のパブリックビューイングや現地のファンや子ども向けにサッカー教室を開催するなど、地道なアクティベーションを行っています。また、公式Webサイトをはじめ、Twitter、Instagram、TikTokなどあらゆるSNSにて多言語で情報発信を行うことで世界中の人々との接点を持つことに取り組んでいます。そういったファン・視聴者層の掘り起こしと合わせて、グローバルでの放送を意識したキックオフ時間の設定やデジタル技術などのテクノロジーへ投資することでファン層の拡大を積極的に進めていることがうかがえます。この点は、Jリーグも大いに参考にできるポイントかと思われます。

もう1点、放映権料の各クラブへの配分ルールについて触れたいと思います。Jリーグでは、各クラブに均等に配分される割合が67%、競技成績に応じて配分される割合が18%、人気・その他に応じて配分される割合が15%となっています。一方で、LaLigaでは均等に配分される割合が50%、競技成績に応じて配分される割合が25%、人気に応じて配分される割合が25%となっています。このことから、LaLigaではJリーグと比較して、各クラブに対するファンベースの拡大へのインセンティブが大きくなるような配分ルールになっています。そのため、LaLigaではクラブ単位でもTwitter、Facebook、Instagramなど、複数のSNSを活用した多言語での情報発信を行うなどの活動が積極的に行われているものと推察されます。例えば、今年日本代表の久保選手が移籍したレアル・ソシエダはTwitterで66万人、Facebookで121万人、Instagramで37万人、合計224万人のフォロワー数を擁しています。また、人口5万人の都市に本拠地を構えるビジャレアルはTwitterで51万人、Facebookで95万人、Instagramで85万人、合計231万人のフォロワー数となっており、レアル・マドリーやFCバルセロナのような世界的なビッグクラブでなくともグローバルでファンベースの拡大に積極的に取り組んでいることがうかがえます。LaLigaではリーグとしてグローバルで新規ファンの獲得に取り組むだけでなく、放映権料の配分ルールにおいて各クラブにファンベース拡大への取り組みに対するインセンティブを与えることで、リーグとクラブが一体となった取り組みができていると考えられます。

JリーグではLaLigaと比較して、放映権料の配分ルールが均等と競技成績に応じて配分される割合が高いことから、所属クラブの平均的な底上げ効果は発揮できていると考えられます。一方で、ファンベースの拡大に苦戦している状況を鑑みると、ファンベースを拡大させる取り組みを積極的に行ったクラブに報いるような制度設計を検討することも視野に入れるタイミングに来ているとも思われます。

注:日本円-ユーロの通貨レートは各年IMF年間平均レートを使用。LaLigaの収入には移籍金収入含まず。Jリーグは含む。
出所:LaLiga HP、JリーグHP、IMF HP
*:2019-20~2021-22シーズン(Copa del Rey分および製作費調整後)
出所:LaLiga HP
出所:LaLiga HP、Deloitte Football Finance

移籍金収支について

もう1つ、売上構成におけるJリーグとLaLigaの最も大きな違いは移籍金です。Jリーグでは移籍金はその他収入に含まれており、詳細な金額は開示されていません。一方で、LaLigaでは移籍金収支が別途開示されています。その開示内容を集計した移籍金収支から、移籍金はLaLigaの中堅から下位クラブにおける重要な収入源となっていることがうかがえます。

2022-2023シーズンにLaLigaに所属する20クラブにおける2012-2022年の10年間の平均では▲36百万ユーロの支出超過となっています。一方で、レアル・マドリー、FCバルセロナ、アトレティコ・マドリーのUEFAチャンピオンズリーグに出場している3クラブを除く、17クラブでは+13百万ユーロの収入超過となっています。さらにUEFAチャンピオンズリーグ、UEFAヨーロッパリーグ、UEFAヨーロッパカンファレンスリーグのUEFA主催大会に出場しない13クラブでは+15百万ユーロとなっており、競技成績の上位陣を除くほど移籍金収入の金額が多くなっています。つまり、UEFA主催大会に出場する強豪クラブはチーム力強化のために積極的に移籍金を支出し、選手を獲得する一方で、中堅から下位クラブは所属選手を放出することで移籍金収入を得るようなリーグ内の構図となっていることがうかがえ、中堅から下位クラブにとって移籍金が重要な収入源の1つになっているものと推察されます。

また、移籍金収入が最も多いクラブはアスレティック・ビルバオで+115百万ユーロの収入超過となっており、2番目に多いレアル・ソシエダ(+57百万ユーロ)の2倍の金額となっています。LaLigaにおいて、特に多くの移籍金収入を得ているこの2クラブはいずれもバスク州に本拠地を置くライバル関係にあり、両クラブとも育成に注力しており、下部組織から地元出身の選手を積極的にトップチームに昇格させているという共通の特徴があります。獲得時に移籍金のかからない下部組織出身選手がトップチームで活躍し、移籍する際に多額の移籍金収入を得ることができていることが、バスク州の2チームの移籍金収支がLaLigaの中でも特に多額の収入超過となっている要因です。

Jリーグでも近年、「Project DNA」のもと、育成強化の方針を明確に打ち出しているところですが、一方で、日本人選手が海外リーグに移籍する際にJクラブが適正な移籍金を得られているのか詳細が不明確な状況となっています。現状のように、移籍金の詳細が開示されていない状況では選手の市場価値や移籍金の相場が不明確となることから、今後、Jクラブが移籍金を新たな収入源と位置付け、拡大させていくためにはLaLigaと同様に移籍金情報を開示していくことも検討の余地がありそうです。また、継続的に移籍金収入を得るための取り組みとして、育成に注力し、地元出身の選手を積極的にトップチームに昇格させているバスク州の2チームの事例は各クラブの下部組織の位置付けやチームづくりの参考になると考えられます。

出所:CIES Football Observatory、Weekly Post 367

費用構成の比較

続いて費用構成について、こちらも売上構成と同様に2018-19シーズンにおけるJリーグとLaLigaで比較してみたいと思います。J1平均では、チーム人件費が50%と最も多く、その他人件費が10%、購買費用が6%、その他営業費用が33%となっています。LaLigaでは、チーム人件費が64%、その他人件費が7%、購買費用が4%、その他営業費用が25%となっています。

費用構成からは、Jリーグではチーム人件費がLaLigaと比較して低く、その他の費用の割合が高くなっていることが読み取れます。LaLigaのクラブと比較して、Jクラブはチーム運営やその他の活動に伴う支出の割合が大きくなっています。

一方で、LaLigaにおいてはその支出の大半を選手や監督・コーチなどのチーム人件費に充てていることが分かります。これは、特に欧州のサッカービジネス環境として、先述の放映権のウェイトが非常に大きいことが影響しています。各クラブにとっては、放映権料や賞金が大きく見込まれるUEFA関連の大会参加ができるかどうかがクラブ経営の生命線となっているため、特にトップリーグに所属しているクラブは、チーム人件費のウェイトを高めざるを得ないという構造的課題があることが暗に示されています。

世界的に見てもJリーグが経営的に評価されているのは、クラブライセンス制度導入以降、地道に積み上げられてきた各クラブの経営の健全性によるものが大きいといわれています。リーグとクラブは、自分たちの立ち位置や目指すべき方向性をしっかりと共有し、目の前の課題に一丸となって取り組んでいく体制を構築していくことが、今後はより重要になってくるものと思われます。

注:日本円-ユーロの通貨レートは各年IMF年間平均レートを使用。LaLigaの収入には移籍金収入含まず。Jリーグは含む。
出所:LaLiga HP、JリーグHP、IMF HP

DTFA Times編集部にて再編