コロナ禍の影響を大きく受けた昨シーズンに続き、2021年シーズンのJリーグも感染症対応ガイドラインに則った対応が求められました。感染拡大直後には急激な変化が求められた販促活動やコミュニケーションの在り方も、2021年には一般的なものとして定着し始めており、デジタルコミュニケーションを駆使したメディア戦略、マーケティング活動がより重要なものになりつつあります。
中でもコロナ禍においては、SNSを活用したファンエンゲージメントを向上させる取り組みが各クラブで試みられました。試合日のスタジアム来場やオンライン上での中継視聴を促す情報発信だけでなく、スタジアム集客とは直接関連しない選手インタビューやマスコット動画などのコンテンツ発信を行うことで、ファン・サポーターとのつながりを維持・強化する取り組みが各クラブで活発に行われています。
本コラムでは各クラブの公式Twitterアカウントの運用に着目し、SNSを駆使した情報発信におけるコンテンツ内容の傾向や拡散性などについての評価と、物販収入や入場料収入などの経営戦略への影響について分析・考察を行いました。

※当記事はJリーグ マネジメントカップ2021調査レポートに掲載した内容を一部改訂して転載しています。

J1所属クラブ公式アカウント全体における投稿内容の分析

ここでは2021年シーズンでJ1に所属していたクラブを対象に、各クラブの公式Twitterアカウントが2021年1月1日~12月31日の間に投稿したデータを利用します。各投稿における投稿日、投稿内容、リツイート数などの数値を、投稿内容のトレンドや、各クラブのアカウント運用方針の差異、財務数値への影響について分析・考察を進めていきます。

まず、J1所属クラブ公式アカウント全体での投稿数時系列推移を図1に示します。この図を見るとプレシーズン・アフターシーズン期間および東京で開催された世界的スポーツの祭典による中断期間には、投稿数が落ち着いていることと、逆にシーズン中はツイート数が多くなる傾向にあることがわかります。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

次に投稿内容のトレンド推移について見ていきます。

投稿内容の分類方法として、ツイート文に含まれる特定のキーワードを利用したキーワードマッチングを採用し、各投稿を<人事情報>、<物販関連情報>、<試合情報>、<その他>の4区分に分類しています。<人事情報>については、選手や監督の移籍・就任、怪我などによる離脱、新体制発表などが記載された投稿で、「移籍」や「加入」などのキーワードが含まれる投稿をここに分類しています。<物販関連情報>については、チケットやグッズの販売情報が記載されたもので、「販売」「グッズ」「○○円」などのキーワードが含まれるものです。<試合情報>については、「○○節」「試合開始」などのキーワードを含むものをピックアップし、内容としては試合の実況ツイート、試合結果の報告に関する投稿が主なものになっています。また、この3カテゴリのいずれにも分類されなかったものを<その他>としています。

各シーズン区分でカテゴリの内訳を見たところ、図2のような結果になりました。シーズン前半とシーズン後半については、〈試合情報〉の投稿が最も多くなっています。また、〈人事情報〉についてはプレシーズンとアフターシーズンで多くなっており、クラブの人事発表が行われるタイミングと合致した結果となっています。一方で〈物販関連情報〉の投稿については、どのシーズン区分でもほぼ同水準の20%前後で推移しており、あまり季節性の見られない推移になっています。

この投稿内容の内訳について、クラブごとに見た場合にどのような差異があるのかについて、これより詳細に分析をしていきます。

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J1所属各クラブの投稿内容詳細分析

クラブごとに投稿内容の内訳を可視化したものが図3になります。川崎Fについては、<物販関連情報>の投稿の割合がほかのクラブと比べて最も高いことがわかります。一方で、<試合情報>については横浜FMが高くなっています。川崎Fについては物販収入がJ1所属クラブの中では最も高く、SNS上でもグッズ販売の告知などを活発に行っていることがTwitterデータにも表れています。横浜FMについては、昨シーズンのリーグ優勝に引き続き、2021年シーズンでも好成績を残しているため、試合関連の投稿が活発に行われたと考えられます。これより、各クラブの試合成績の状況や、それぞれが重点的に取り組んでいるビジネス施策の状況によって、Twitterに投稿される内容も影響を受けていることがわかります。

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ここからは各投稿にどの程度の反響があったのかについて、深掘り分析を進めていきます。Twitterアカウント運用では、話題性のある投稿をして多くのリツイートを獲得し、その結果として幅広いユーザーに対して自クラブの情報を露出させることが重要になります。

そこで、ここでは情報の拡散性の目安であるリツイート数と、ファンの囲い込みに関する目安である獲得フォロワー数に着目しました。まずリツイート数に関しては、各投稿のリツイート数(本分析時点)を投稿時点のフォロワー数で割ることで、各アカウントのフォロワー規模を考慮した情報拡散度合の指標(=アクティブ反応率)を算出しました。また獲得フォロワー数に関しては、投稿した時点でのフォロワー数と、次の投稿時点でのフォロワー数の差分を計算することで、その投稿によってどれだけフォロワー数が増えたか(もしくは減ったか)を近似的に求めています。また分析をする際には、アクティブ反応率は分析対象期間における平均値、獲得フォロワー数は総獲得数を投稿数で割った1ツイート当たりの平均獲得フォロワー数を利用しています。

2021年シーズンにおけるアクティブ反応率と獲得フォロワー数を各軸に設定し、各投稿種別・クラブ別にプロットしたものが図4になります。<人事情報>についてはアクティブ反応率が高く、かつ獲得フォロワー数も多い右上に位置しているものが多く見られます。つまり、選手の移籍などの話題については、リツイートにより情報が拡散されやすい傾向にあり、かつファン・サポーターの新規開拓にも有効な話題となっている可能性が考えられます。

一方で〈試合情報〉や〈物販関連情報〉については原点付近に位置しているものが多く、情報の拡散やファン・サポーターの新規開拓にはあまり寄与していない、既存のフォロワー内に閉じた情報発信となっている可能性がうかがえます。

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各クラブの物販・入場料収入とTwitter運用の関係性分析

前述の通り、情報の拡散とファン・サポーターの新規獲得という2つの観点で見た場合、<試合情報>や<物販関連情報>の投稿についてはどちらの観点でもあまり有効でない可能性が見えてきました。しかし一方で、物販収入や入場料収入を得るためには、グッズの宣伝や試合情報の告知は不可欠です。その場合、どのような投稿をしているクラブが、結果として収益を大きく得ることができているのかについて、ここでは<物販関連情報>に焦点を当てて分析を進めます。

物販関連の投稿との関係性を調査する収益指標は、物販収入と入場料収入の合計値に設定します。この2つの収入の合計値に設定した理由として、グッズ購入者の中では、そのグッズを持ってスタジアムへ応援をしに行くというインセンティブが生まれると考えられるからです。よってグッズの購入によって生まれた、入場料収入に対する二次的な効果を踏まえて、物販収入と入場料収入の合計値で各クラブを評価します。

図5は縦軸に物販・入場料収入合計値の対前年度成長率、横軸に<物販関連情報>のアクティブ反応率(リツイート数÷投稿時点フォロワー数)の2021年シーズン全体の平均値をクラブごとにプロットした図です。ここでの相関係数は0.27と低い数値になっているため、クラブの収益性と、Twitterにおける拡散性はあまり関係ないように見えます。

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しかしグッズの売れ行きには、有名選手の加入や記録達成など、宣伝を行う「タイミング」の要素が大きいと考えられます。そこで、2021年シーズン全体の相関である図5を細分化し、シーズン区分ごとに相関係数を可視化したものが図6になります。各相関係数の変化を見ると、プレシーズンやアフターシーズンでは相関係数が低くなっていますが、シーズン中盤になるにつれ数値が上がり、値自体はやや低いものの、スポーツの祭典期間で正のピークを迎えていることがわかります。つまり、オリンピックによる中断期間を含むシーズン期間中にアクティブ反応率の高い物販関連の投稿をしていたクラブは、その年の物販・入場料収入を効率的に増加させることができた可能性が高い、ということになります。

これより、生活者のサッカーに対する関心がオフシーズンよりも高くなるスポーツの祭典期間を含むシーズン中というホットなタイミングで情報拡散性の高い投稿をすることで、効果的かつ効率的に、物販・入場料収入の増加に結び付けられる傾向があるということが考えられます。

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率間の相関係数

今回の分析では、J1所属の各クラブ公式Twitterアカウントの投稿データを利用して、投稿内容のトレンド推移や、投稿内容ごとの情報拡散性・ファンの囲い込み効果を評価しました。

その結果、<試合情報>や<物販関連情報>の投稿は、情報の拡散とファンの囲い込みという2つの観点ではあまり有効ではないという傾向が見られました。しかし物販・入場料収入とひもづけた分析では、シーズン中に行われる物販関連の投稿は、結果として物販・入場料収入を上昇させることができている傾向にあるという示唆も得られました。また、オフシーズンにおける人事関連のニュースは情報の拡散とファンの囲い込みに一定程度の優位性があることも確認できており、時期を見極めた適切なタイミングで拡散効果の高い種類の情報を投稿できるかが重要になることが推察されます。

DTFA Times編集部にて再編