日本で最大級のビジネスプロフェッショナルグループの1つであるデロイト トーマツ グループのスポーツビジネスグループがお届けするJリーグマネジメントカップも、今年で7年目を迎えました。ビジネスマネジメントの側面からの評価でJリーグ所属チームが優勝をかけて競いました。J3優勝の栄冠を手にしたのは鹿児島です。

※当記事はJリーグ マネジメントカップ2021調査レポートに掲載した内容を一部改訂して転載しています。

Jリーグマネジメントカップ2021のJ3は鹿児島ユナイテッドFCが4年ぶり優勝

鹿児島はマーケティング分野で1位、経営戦略分野で2位、経営効率分野で9位、財務状況分野で12位と、2位の岐阜を3ポイントの僅差でかわし、4年ぶりの優勝を掴み取りました。

鹿児島は様々なBM施策にチャレンジしているクラブの代表格で、2021年シーズンでは「ユニフォーム」をはじめとしたオリジナルグッズでのチャレンジが象徴的でした。クラブの意思を全面に反映した「薩摩切子」をイメージしたデザインのユニフォームや関連グッズは、県外へ鹿児島をアピールするとともに、県内でもさらに愛されるクラブとなるために進化を続けています。新たな練習拠点が完成し、FM面へとつながる環境が整備される中、クラブがさらなる高みへと突き進めるか、この先の動向に注目です。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

平均入場者数・スタジアム集客率

2021年シーズンにおけるJ3の平均入場者数は前年比+703人(+58.1%)の1,913人でした。

他ディビジョン同様コロナ禍2年目で先手を打てるようになったことから、全クラブで昨シーズンより平均入場者数が増加しています。熊本は、20節以降昇格争いに絡み、最終的にはJ3で優勝しJ2昇格を決めたため、ファンの関心度も高く、入場者数の増加につながったと考えられます。鹿児島は、昨シーズンは平日開催の試合が17試合中4試合もありましたが、今シーズンは全て土日開催となったことでより多くの集客を達成することができました。

2021年シーズンのJ3のスタジアム集客率の平均は前年比+6.5P(+73.0%)の15.4%で、コロナ禍前の2019年シーズンにおける18.2%と比較しても、約8割の水準まで集客率が戻っており、他のディビジョンと比べても最も早い回復傾向が見られます。全15クラブ全てで前年比プラスとなっています。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

勝点1当たりチーム人件費・勝点1当たり入場収入

経営リソースが限られるJ3においては、いかに効率的に投下リソースを勝利へとつなげることができるかが鍵になります。

最も効率的に勝点を獲得したクラブは昨シーズンに引き続きYS横浜で、勝点11.4百万円で獲得したことになります。最下位の今治は、勝点1を獲得するために10.3百万円を要しており、その差は約7.4倍です。一方で、好パフォーマンスを見せたのが、FM面においてJ2昇格を果たした熊本と岩手の両クラブです。チーム人件費については、熊本が前年比+1百万円(+0.4%)の242百万円、岩手が前年比+9百万円(+3.2%)の286百万円といずれも増額しているものの、同時に勝点を積み重ねることに成功しました。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

また、勝点1当たりの入場収入については、2021年シーズンにおけるJ3の平均は前年比+0.2百万円(+48.0%)の0.6百万円でした。コロナ禍の影響は回復傾向にあるものと考えられますが、J3所属クラブが18から15に減少したことに伴い、試合数が減少し、J3の平均勝点は前年比▲9(▲18.2%)となっています。

J3のトップは岐阜の1.2百万円で、前年比+0.5百万円(+71.6%)と大幅に増加。総勝点の減少による影響はありますが、入場料収入を前年比+10百万円(+25.6%)増加させられたことが主要因で、2022年シーズンにおいても、FM面での強化も図っていることから、その成果をBM面に反映させられるかが肝になります。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

売上高・チーム人件費率

プロスポーツクラブ経営においては、競技力強化目的で人件費になるべく多くの資金を投下することが一般的でしたが、人々や地域に支持され、持続的な経営がなされるためには、他の分野への投資も大切となります。特に競技力において上位ディビジョンとの差があるJ3では、競技力以外でのクラブの価値を底上げするための投資も重要です。

2021年シーズンにおけるJ3の平均は、前年比▲4.5P37.6%でした。その値は50%を超えない範囲にとどめるのが望ましいといわれていますが、全15クラブが50%を下回る結果となりました。決してクラブの財務規模が大きくないJ3において、これまで以上にBMFMのコミュニケーションを密にし、戦略的に取り組むことが求められると考えられます。

SNSフォロワー数・SNSフォロワー数増減率

2021年シーズンにおけるJ3SNSフォロワー数の平均は前年比▲558人(▲1.4%)の40,174人でした。J3の上位3クラブは、熊本(78,666人)・岐阜(72,372人)・鹿児島 (57,697人)となっており、いずれも最近までJ2で戦っていたクラブでした。

今シーズンJ3に新規加入した宮崎は、フォロワー数は15,943人とJ3最下位でしたが、昨期の12,127人から+3,816人と大きく上昇しており、JFLからJ3に「昇格」したことにより社会的影響力が伸びたことを示している一つの指標であると考えられます。Jリーグの社会的な影響力を高めるためにも、リーグとも協力して当該指標をさらに伸ばしていくチャレンジが期待されます。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

2021年シーズンにおけるSNSフォロワー数増減率J3の平均は前年比+5.1P(+43.0%)の17.0%となり、鈍化傾向だった昨シーズンから一転、成長が加速しました。

トップは鳥取で、32.9%もの増加率を記録しました。鳥取はSNSの活用に積極的で、J3クラブの中でいち早くTikTokの公式アカウントも開設おり、その増加の内訳を見ると、2021年シーズンの8,583人の増加のうち、Twitterの増加が7,277人と大半を占めているのがわかります。スポンサーのサッポロビールとのタイアップ企画の実施や、夜のスタジアムを楽しむイベント「夜宴スタジアム」を開催し、貸し切りBBQ企画も併催していることから、これらの企画間の相乗効果もあったものと推察されます。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

売上高成長率

2021年シーズンにおけるJ3の平均は前年比+36.5P29.6%で、コロナ禍対応の浸透やアカデミーの活動再開に伴い、入場料収入は8.3%、アカデミー関連収入は26.7%の成長率となっています。また、スポンサー収入は7.7%、物販収入は34.7%の成長率となっており、Jリーグ配分金を除くいずれの分野でもプラス成長となっています。

最も高い成長率を達成したのはYS横浜の245.2%(+309.4P)で、特にスポンサー収入は518.2%と驚異の成長率となっています。クラブ創設以来、地域に密着した活動を続け、2019年からはSDGsをより前面に出した活動を展開したことが功を奏し、クラブの理念やこれまでの取り組みに共感した企業からスポンサー契約を獲得できたものと推察されます。

J3のクラブでは、売上高に占めるスポンサー収入の割合がJ1J2に比べ大きくなっていますが、知名度や露出度では劣っています。そのような状況下では、地域に根差した活動への共感やスポーツクラブの社会的価値に対するスポンサーメリットの訴求が、ますます重要になると考えられます。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

J3は特に経営リソースが限られている状況ではあるものの、ホームタウン地域の特性を生かした地域密着経営を通じて地域経済への貢献を図り、試合の集客や広告露出以外の収益力強化に向けたBM施策を実践していくことが大切です。コロナ禍の影響を大きく受けた2シーズンを経て、スタジアム観戦者数は徐々に回復しつつありますが、コロナ禍による環境変化を経て、物理的・心理的なファン・サポーターの行動傾向が大きく変化しています。これを踏まえ、安心・安全に配慮しつつ、新たな顧客体験価値を打ち出すことが今後さらに重要になるでしょう。

J3の結果の詳細、優勝した鹿児島ユナイテッドFCに焦点を当てた分析記事などは、Jリーグマネジメントカップ2021のレポートをご覧ください。

DTFA Times編集部にて再編