日本で最大級のビジネスプロフェッショナルグループの1つであるデロイト トーマツ グループのスポーツビジネスグループがお届けするJリーグマネジメントカップも、今年で7年目を迎えました。ビジネスマネジメントの側面からの評価でJリーグ所属チームが優勝をかけて競いました。J2優勝の栄冠を手にしたのは新潟です。

※当記事はJリーグ マネジメントカップ2021調査レポートに掲載した内容を一部改訂して転載しています。

Jリーグマネジメントカップ2021のJ2はアルビレックス新潟が2連覇で優勝

新潟は経営効率分野、経営戦略分野で1位、マーケティング分野で3位、財務状況分野で10位となり、2位に15ポイントの大差をつけて堂々の2連覇を果たしました。

Jリーグ有数の集客力を誇る新潟にとってシーズンを通した入場制限は痛手であったにも関わらず、徐々にファン・サポーターの姿がスタジアムに戻りつつあります。一方で、広い新潟においてはまだスタジアムに足を運ぶことが叶わないファン・サポーターも多く、スタジアムに来られなくとも楽しめるコンテンツの発信により力を入れ、制約が多い中でもクラブや選手を身近に感じてもらえる取り組みを継続してきました。それが功を奏し、BM面にも好影響を与え、クラブを強力に後押ししたものと推察されます。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

平均入場者数・スタジアム集客率

2021年シーズンにおけるJ2の平均入場者数は前年比+1,159人(+42.1%)の3,910人でした。コロナ禍2年目で先手を打てるようになったことから、22クラブ中21クラブは昨シーズンより平均入場者数が増加しています。新潟は、今シーズン新潟県での緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令されず、全ての試合が50%制限のみとなったこともあり、元々根強いファン・サポーターへの集客施策の効果を発揮できたものと考えられます。

2021年シーズンのJ2のスタジアム集客率の平均は前年比+5.2P(+36.8%)の19.5%となり、昨シーズンから少しずつ観客が戻っていることが見て取れる結果となりました。全22クラブ中、21クラブが前年比プラスとなり、その中で33.3%と最も集客力が高かった磐田は、J2優勝、3年ぶりのJ1昇格を決めたこともあり、J2では堂々のトップ、Jリーグ全57クラブ中でも2位となる集客率を記録しました。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

勝点1当たりチーム人件費

予算規模が少ない中、降格のリスクもあるJ2においては、いかに効率的にFM側での成果に結び付けられているか、BM側とのクラブ内連携が問われる分野です。2021年シーズンにおけるJ2平均は、前年比▲0.9百万円(▲7.1%)の11.8百万円でした。

最も効率的に勝点を獲得したのは秋田で、勝点1を5.6百万円で獲得したことになります。チーム人件費をリーグ最少に抑えながら、昇格初年度のJ2で勝点を積み重ねた結果と考えられます。一方で、最下位の大宮は前年比+7.7百万円(+31.4%)の32.2百万円と経営効率が悪化しており、秋田と比較すると5倍以上の差があります。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

売上高・チーム人件費率

事業規模においてはJ1との大きな差がいまだに埋まらないJ2において、限られたクラブのアセット(資産)をどこに割り当てるかは重要な課題です。その意味では、BM施策の重要性や難度はJ1よりも高いと考えられますが、一方で、J2でもやりようによっては結果が出せるということが興味深いポイントです。

2021年シーズンにおけるJ2の平均は、前年比▲4.4Pの43.4%でした。昨シーズンは50%を超える水準のクラブが、全22クラブのうち7クラブでしたが、2021年シーズンは4クラブに減少し、若干の改善が見られました。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

SNSフォロワー数・SNSフォロワー数増減率

2021年シーズンにおけるSNSフォロワー数J2の平均は前年比+6,491人(+7.6%)の91,735人でした。

SNSフォロワー数が10万人を超えるクラブにJ1経験のあるクラブが並ぶなか、J1昇格経験がないにも関わらず、そこに割って入っているクラブが相模原です。総SNSフォロワー数115千人を擁し、22あるJ2クラブにおいて、堂々の5位にランクインしています。

相模原は2021年にDeNA社の出資を受けています。DeNA社は他競技で蓄積したクラブ運営ノウハウ(特にデジタルマーケティング領域)の横展開を積極的に行っており、相模原に対しても同様です。Bリーグの川崎ブレイブサンダースでは、YouTube動画から新規ファン獲得に成功している実績は、Bリーグマネジメントカップ2021で紹介されています。

2021年シーズンにおけるSNSフォロワー数増減率J2の平均は前年比▲0.1P(▲1.0%)の11.9%となっており、昨シーズン同様に成長の鈍化傾向が継続しています。

そのような状況の中であっても高い成長率を見せたのは栃木で、昨シーズンからの増加率+33.6%を記録しました。栃木の増加の内訳を見ると、概ねFacebookは200人、Twitterは3,000人、Instagramは2,000人の増加と、堅調な増加幅である一方、TikTokが11,000人と爆発的な増加幅を記録しています。

栃木では、SNSのエキスパートである取締役の主導のもと、Jクラブの中でもいち早くTikTokに着目し、活用を進めてきたことが知られています。他のSNSとは異なるユーザー層への拡散という特徴にも目を付け、既存のコアファン以外へのリーチにも活用してきた様子がうかがえます。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

売上高

2021年シーズンにおけるJ2の平均は、前年比+9百万円(+0.6%)の1,509百万円でした。内訳を見ると、スポンサー収入が▲30百万円(▲3.4%)の減収となっていますが、入場料収入は+34百万円(+28.8%)、物販収入は+13百万円(+14.1%)の増収となっています。
入場料収入や物販収入が回復する一方で、スポンサー収入は2年連続で減少しています。スポンサー価値の源泉となるコンテンツである「試合」の価値を高め、スタジアムを満員に近づけることがBM側での最重要施策でしたが、入場者数の制限下では、ほかのクラブコンテンツの価値を高めることや、スポンサーシップを通じて新たな事業創造やニーズ開拓につながるような施策等がより重要になってきていると考えられます。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

売上高成長率

2021年シーズンにおけるJ2平均は前年比+21.4Pの14.7%で、J3からの昇格組である相模原と秋田がそれぞれ104.7%、68.1%と特に高い成長率を記録しました。また、昇格組を除く20クラブでは、17クラブがプラス成長となっています。

昇格組を除くクラブの中で、特に高い成長率を記録したのは昨シーズンに続き町田です。町田はスポンサー収入の増加を主要因として19.1%の成長率を記録しています。加えて、入場料収入が+41.5%(+22百万円)、物販収入が+26.8%(+11百万円)と高い成長率となっています。町田がスポンサー収入を増加させている要因として、ゼルビアアシストと呼ばれる地元企業との協業が挙げられます。ゼルビアアシストとは、2021シーズンより開始したクラブとともに街づくりを行う協働プラットフォームで、子ども・環境・健康・福祉・街づくりの5分野で様々なアクティベーションを実行しています。

このようにスポンサー価値だけでなく、ホームタウンにおけるクラブの価値を向上させるBM施策を積極的に行い、売上高を持続的に成長させる仕組みを作ることがますます重要になると考えられます。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

J2にはJ1とJ3両方のディビジョンから入れ替えがあり、昇降格クラブ(2021年シーズンは特例により降格の影響はない)の特徴がJ2のビジネス環境に表れる傾向がある一方で、クラブ間格差が最も大きいという特徴があります。BM施策次第で大きく伸びる余地を持つクラブも多数あると考えられ、単年では必ずしもFM面での成果が出ないケースもありますが、コロナ禍という逆風受けてなお、プラス成長を遂げたクラブもあります。経営判断のより中長期的な観点が継続的に検証する姿勢が求められていることの証左です。

J2の結果の詳細、優勝した新潟アルビレックスに焦点を当てた分析記事などは、Jリーグマネジメントカップ2021のレポートをご覧ください。次回はJ3の結果を紹介します。

DTFA Times編集部にて再編