日本で最大級のビジネスプロフェッショナルグループの1つであるデロイト トーマツ グループのスポーツビジネスグループがお届けするJリーグマネジメントカップも、今年で8回目を迎えました。Jリーグ所属チームがビジネスマネジメントの側面から評価され優勝をかけて競いました。今回2年ぶりにJ1を制したのは、川崎フロンターレです。

Jリーグマネジメントカップ2021のJ1優勝は川崎フロンターレの2連覇

川崎Fは経営効率分野では苦戦したものの、マーケティング分野、経営戦略分野、財務状況分野で1位と、3分野で1位を獲得する強さを見せ、2位に17ポイントの大差をつけて見事2連覇を飾りました。

2021年シーズンもフィールドマネジメント(FM)面で圧倒的な強さを見せた川崎Fが、ビジネスマネジメント(BM)面でも他を寄せ付けない手腕を発揮しました。昨シーズンに引き続きコロナ禍の影響で入場料収入は微増にとどまったものの、スポンサー収入の増加により売上高はコロナ禍前を超えて過去最高となりました。困難な状況でも助け合い、クラブを支えたいと考えるスポンサーが多かったことは、これまでクラブが地道に積み重ねて築いてきた関係性があったからこそといえるでしょう。

スポーツ興行において最も基本的な目標である「満員のスタジアム」の実現がコロナ禍の影響で制限が課せられる環境下では叶いません。スタジアム来場者へのBM施策と、来場できないファン・サポーター向けのBM施策をバランスよく実施していく観点が勝敗を分けたともいえるでしょう。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

平均入場者数・スタジアム集客率

2021年シーズンにおけるJ1の平均入場者数は前年比+414人(+7.1%)の6,292人でした。

昨シーズンに引き続き、新型コロナ対策として様々な制限が課されたものの、コロナ禍2年目で先手を打てるようになったことから、20クラブ中15クラブは昨シーズンより平均入場者数が増加しています。一方で、終盤に設けられた5,000人上限の厳しい制限下でホームゲーム試合数の多かったチームでは減少したものと考えられます。スタジアム集客率においては、J1平均は前年比+16.6%の22.3%となり、昨シーズンからやや増加する結果となりました。収容可能人数が20,000人前後の比較的コンパクトなスタジアムをホームとしているクラブに有利な結果となっています。

客単価

2021年シーズンにおけるJ1クラブの平均は前年比▲744円(▲12.6%)の5,154円でした。

J1の物販収入平均は▲4百万円(▲1.1%)と大きく変化がない一方で、入場制限の緩和施策により総入場者数平均が+32,692人(+29.9%)と回復傾向にあるため、物販収入を総入場者数で割って算出するJMCのグッズ単価は減少傾向を示しました。

今シーズン唯一客単価で10,000円超えを達成した川崎Fの客単価は+3,390円(+47.9%)の10,463円となっており、特に、グッズ単価は+2,704円(+62.8%)の7,013円と全クラブの1位の実績を残しています。優勝記念グッズを契機としたEC販売の拡大などにより物販収入が+318百万円(+46.9%)と大幅に増加していることが要因として挙げられます。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

勝点1当たりチーム人件費・勝点1当たり入場料収入

BMとFMの関係に焦点を当てるのが、「勝点1当たりチーム人件費」と「勝点1当たり入場料収入」の指標です。「勝点」というFM的要素を前提としながら効率性を追求しつつ顧客満足度も高められるかというトレードオフの課題に、クラブごとの最適解を見つけることができるかが、重要なミッションの1つです。

FM面で史上最高勝点リーグ優勝の川崎は、前者についてリーグ平均の45.4百万円より低い39.5百万円に抑えたものの、人件費も増加しているため、昨年比+2.9百万円の悪化となりました。

後者は勝点1をできるだけ高く売りたいクラブ側の視点と、できるだけ低く買いたいサポーター側とで、トレードオフの関係を内包する指標といえます。J1平均は前年比+1百万円(+15.3%)の7.7百万円となりました。昨シーズンはJ2降格クラブがなかったことからJ1のクラブ数が増加しており、それに伴って試合数も増加したため、全体的に勝点が多くなっていたことを考慮すると、低下圧力がかかるはずですが、それでも微増となったのは、それ以上に入場料収入が回復したことを示す結果となっています。
トップの清水が勝点で前年比+14(+50.0%)、入場料収入も前年比+144万円(+48.8%)とどちらの指標もバランスよく増加する結果とした一方で、大阪府からの要請でJ1最多となるホーム戦5試合が無観客試合となった影響もあったG大阪は、入場料収入が前年比▲75百万円(▲23.1%)、リーグ順位も2位から13位へ下がったことから勝点も▲21(▲32.3%)と落ち込む結果を反映した順位となっています。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

売上高・チーム人件費率

クラブのアセット(資産)をどこに割り当てるかという重要なBM施策において、FM面への投資となる「売上高・チーム人件費率」で、J1の平均は、前年比▲5.8Pの57.7%でした。

その値は50%を超えない範囲にとどめるのが望ましいといわれていますが、2021年シーズンのJ1においては全20クラブ中15クラブが50%を超える結果となっています。コロナの影響で入場料収入などが確保しにくい一方で、チーム人件費は簡単に抑制できない影響がそのまま表れている状況です。

SNSフォロワー数・SNSフォロワー数増減率

SNSフォロワー数は、今シーズンからはTikTokのフォロワー数をカウントに追加して、J1平均は前年比+10,435人(+2.7%)の400,302人でした。

TikTokを活用しているクラブ数はまだ7クラブのみと少ない一方で、FC東京では、SNSフォロワー数の約41万人のうち、TikTokフォロワー数は既に4万人を超えており、その数は2021年1月時点の約8,700人から約5倍と大幅に増加しています。栄枯盛衰の激しいSNSの世界において、新たな波に乗ることに成功した事例といえるでしょう。

SNSフォロワー数増減率のJ1の平均は前年比+2.3P(+23.7%)の11.8%となっており、昨シーズンまでの成長鈍化傾向からの改善が見られました。

トップは34.5%を記録しフォロワー数を約88万人にまで増加させた川崎Fです。2位がフォロワー数でJ1最少(約6万人)の徳島、3位はフォロワー数が徳島に次いで少ない仙台だったことを踏まえると、元々フォロワー数が多かった川崎Fの躍進は異例ですが、約22万人超の新規フォロワーの半数以上の約14万人を、シーズン終了後のラスト1カ月、タイの英雄・チャナティップ選手が札幌から移籍加入すると発表された月だけで獲得しています。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

財務状況

コロナ禍による経営環境の変化は、クラブ経営の将来に大きな影響を及ぼしましたが、2021年シーズンにおける売上高のJ1平均は、前年比+323百万円(+8.4%)の4,159百万円となりました。

内訳を見ると、入場料収入が+94百万円(+30.7%)、その他収入が+250百万円(+44.0%)の増収となっています。売上高がJ1で最大となった川崎Fは、入場料収入がコロナ禍前から半減しているものの、スポンサー収入や物販収入を大幅に増加させることで前年比+1,537百万円(+28.2%)の6,982百万円と過去最高を更新しています。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

コロナ禍を経験したことは、将来の新たな感染症の流行などの不測の事態に備えた財務体質の強化が喫緊の課題であることを知らしめました。徐々に入場者数や声出し応援の規制が緩和され、スタジアムに熱狂が戻ることが期待されますが、経営層の意識変革が求められていることには変わりありません。

欧米に比してスタジアムへ観客が戻り切らない現状の一因と推察される声出し応援の制限について、Jリーグでは2022年6月よりガイドラインを策定し、一部スタジアムに応援エリアを設けて声出し応援を段階的に再開してきました。9月初頭には、感染リスク評価のためのデータの蓄積に基づき、ガイドラインが遵守されている限りは声出し応援によって感染拡大は起きなかったとのエビデンスを得ることに成功し、政府の規制緩和を後押ししました。ほかの興行スポーツやライブエンターテインメントにとどまらず、Jリーグが生み出す社会的価値のさらなる可能性を示しています。

次回はJ2の結果を紹介します。

DTFA Times編集部にて再編