前回の記事では、民芸についての概念と事例を紹介し、民芸思想を活用した「民芸的ブランディング」の可能性を示唆しました。今回はいっそう踏み込み、民芸からインスピレーションを得て、ブランディングへの応用を試みたいと思います。まずは、ブランディングと民芸を構成する要素を比較しながら説明を行います。次に事例からどのような効果を期待できるか「三方よし」という考えをもとにして言及します。

「民芸的ブランディング」の構成要素

出所:株式会社シー・アイ・エー作成

ブランディングには、2つの重要な要素があります。1つ目は「一貫性」。2つ目は「持続可能性」です。

ブランディングにおける「一貫性」とは、ブランドのアイデンティティ、パーソナリティ、コミュニケーション、提供する製品やサービスにおいて、芯がありブレがないことです。すると、使い手は製品やサービスから得られる体験価値を理解して共感しやすくなり、信頼を得ることができます。また、「持続可能性」とは、「一貫性」により構築した信頼を礎に、時代の価値観や生活様式に沿い長期的な関係を築くことです。これら「一貫性」と「持続可能性」により、中長期での組織の価値向上を実現することが可能となります。

民芸においても2つの要素は重要なものであり、ブランディングにおけるヒントとなります。

まず、民芸の「用の美」から「一貫性」をくみ取ることができます。「用の美」は利用・使用する際に感じる「美しさ」を起点としています。見た目の「美しさ」だけではなく、地域の生活に根付いた機能、意義、官能、知識、美学、仲介など商品と人との相互作用において得られる体験価値が生み出す「美しさ」です。

複数の要素が絡み合う「用の美」は一朝一夕では実現できません。ユーザーと商品、コミュニケーション、サービス、環境との相互作用を含めた包括的・統合的な体験のデザインが必要となります。様々な体験を積み重ねて統合していくためには、「一貫性」が欠かせません。

次に民芸の持続可能性から着想を得ます。民芸運動は、地方の伝統的な生活道具に注目し、新しい視点で「美」を定義することで、当時の「ものづくり」「暮らし」、の価値に一石を投じたものでした。そして、その視点は色褪せず、約100年経ても変化しながら現代の私たちに美の形を定義しています。ここで重要なのは本質を変えないこと。

土地が育んだ風土や文化を核に革新を集積することで伝統として未来に続く、独自の美が生まれることを学ぶことができます。ブランディングにおいても本質的な価値の源であるブランドDNAを重視します。哲学や信条を言語化あるいは可視化し、長期的な価値創造を促進する共通の指標を持つことで、持続可能性の礎となるのです。

上記に加えて、体験価値を社会へ発信することも「民芸的ブランディング」の重要なポイントです。点(視点、体験価値)から面(視座、ストーリーや価値観)へと広げ、独自性を発揮することができます。

「民芸的ブランディング」を活用した事例:SAGA COLLECTIVE

出所:https://saga-collective.com/

「民芸的ブランディング」の視点に基づき、SAGA COLLECTIVEをひもときます。

SAGA COLLECTIVE(サガ コレクティブ)とは、佐賀トップ企業11社が土地特有の文化と伝統を活用した製品を世界に向かって訴求するために生まれた集合体ローカル・ブランドです。和紙、丸秀醤油、有田焼、鍋島緞通など佐賀で生まれたブランドを再発見・収集・統合することで、その土地独自の価値を生み出しています。また、消費者は佐賀ブランドの魅力を観る、触る、理解する、共感することで、日常を華やかで明るいものにしてくれる体験価値を向上させています。

そのような体験価値を1つひとつ「集合体」として、社会へ発信することにより、消費者は佐賀県のものを日々の生活で体験して美しさを感じ、SAGA COLLECTIVEのほかでは得られない独自の価値を認知して共感します。それは、民芸的ブランディングが持つ構成要素を含んだブランドであり、独自性を持ち、国際的にも競争力があると考えられます。

「民芸的ブランディング」により「三方よし」を実現

では「民芸的ブランディング」を実施することでどんな効果が得られるのでしょうか?「三方よし」という経済哲学を通して得られる効果をご紹介します。

「三方よし」とは、近江商人の商売の精神を表現した「売り手よし、買い手よし、世間よし」のことです。そして、ユーザー、企業と社会・環境という「三方よし」の観点にて、ビジネスをデザインする考え方があります。具体的には、ユーザーの価値を追求した「人間中心のデザイン」、社会経済、文化的な環境、コミュニティなど社会・環境の価値を追求した「ソーシャル中心のデザイン」、企業の価値を追求した「ビジネス中心のデザイン」です。「民芸的ブランディング」には、これらのデザインが含まれており、「三方よし」を実現できます。

1. 人間中心のデザイン視点における:「用の美」の体験価値

大量生産とグローバリゼーションを追求してきた現代において、できるだけ多くの人のニーズを満たすために、すべての製品が同一化の影響を受けます。一方、民芸思想は地方の「用」と「美」を重視するため、民芸品は我々の日常生活で発見できない異なる地方のニーズを理解して対応します。その地方特有の生活スタイルや文化を主軸にものづくりが行われます。

2. ソーシャル中心のデザイン視点における:地域文化の維持・発展の促進

地域文化における伝統技術、テクニックなどから生まれた「用の美」を掘り下げ、ファッション、日用品、飲食など様々な領域で活用します。そして、民芸思想の核心は「使うことで美を見つけて楽しむ」であり、その楽しみは民芸品そのものだけではなく、使用時に感じる美しさ、使用後に周りの人やコミュニティでの共有・交流・つながりも含まれています。それにより、地域文化を維持、発展させることが可能となり、持続可能な社会の構築という社会的価値があるといえます。

3. ビジネス中心のデザイン視点における:地元社会への貢献

企業・組織が地方の材料、知恵を活用し、民芸品を作り収益を上げることで、ステークホルダー(従業員、取引先、株主など)へ還元します。同時に地方社会の発展・発信へ貢献したうえで、循環を積極的に促進させます。また、前述の通り、生産性と効率性を追求しすぎた結果、既存市場では技術向上に伴う低価格の競争「レッドオーシャン」に落ち込んでしまうのに対して、民芸思想の核心「用の美」は単なるコスパを超え、競争から脱出する可能性があると考えられます。

このように、人間中心、ソーシャル中心、ビジネス中心のデザイン視点に分けて分析すると、民芸的ブランディングの構成要素による効果は、よりホリスティックに把握できるようになるのではないでしょうか。

まとめ

今回は、民芸的ブランディングの構成要素についてとその活用事例を紹介し、その効果を「三方よし」によってユーザー、企業と社会・環境に対する貢献について解説しました。次回(第3回)の記事では、民芸的ブランディングの観点にて、地方創生や伝統工芸の活用に係る事例を紹介します。そして、民芸的ブランディングをどのように活用できるか、その展望・可能性についても述べます。

CIA Future Lab(長谷川、劉、諸岡)

“Changes Generate Energy”というモットーに基づき、新しい挑戦と未来につながるクリエイティブな動きやヒントをキャッチアップするチームです。