前回の記事では、「民芸的ブランディング」の構成要素の活用事例と、「三方よし」の観点でユーザー、企業と社会・環境に対する可能性を解説しました。今回は、「民芸的ブランディング」に近しい事例をご紹介し、「民芸的ブランディング」をどのように活用できるかを考えていきます。

民芸的ブランディングの事例

本記事で紹介する2つの事例は、地方文化を最大限に生かし、民芸的ブランディングの価値を深く探索することで、消費者、ビジネス、社会的価値を提供したブランディングの事例です。

1つ目は、「MAME KUROGOUCHI(マメ クロゴウチ)」という日本の伝統技術と土着的な美を洗練されたファッションデザインに昇華させ、独自性の価値を提供している事例です。

2つ目は、「うなぎの寝床」という地域が持つ歴史や文化、地場の素材と伝統工芸の強みを追求しながら、様々な土着的な魅力を有する生活用品を提供している事例です。

MAME KUROGOUCHI:伝統技法で自分らしさを復活させるファッション

MAME KUROGOUCHIは、籠編み、裂き織り、こぎん刺しなど日本の伝統的技法と土着的な美しさを活用して、身体のラインを美しく見せる服作りをしています。「現代社会における戦闘服」などのコンセプトは、現代社会で活躍する女性に支持されています。

MAME KUROGOUCHIの服は、立体的な刺繍など伝統技法による豊富なディテールが多いため、利用者は丁寧にクリーニングしながら、その過程で服の繊細さ、美しさと服と自分との関係性を体感します。このような過程は「この地方にこんなに素晴らしい技法があるのはなぜだろう」など地域文化に対する好奇心へと繋げ、ブランドのストーリーをより深く理解し共感しやすくなります。

消費者の観点から見ると、MAME KUROGOUCHIは、低価格でコスパのよい衣料品の大量生産ファスト・ファッションと異なり、長い時間を経てもクオリティが廃れず、実用性と美を犠牲にしない「用」と「美」の両立を実現しています。そして、日々の使用、メンテナンスを通じて、「用の美」を日常生活で実感し、経験として蓄積することで、長く大切に利用する愛着を育むことができます。

さらに、社会・組織の観点では、ブランド「MAME」は全国各地の素材を作る工場や職人と向き合うことで、地方経済・文化の循環に積極的推進し、国内外に日本ならではのアイデンティティーを発信することにポジティブな影響をもたらすと考えられます。

うなぎの寝床:現代社会での民芸

うなぎの寝床は、地域が有する歴史・文化を尊重しつつ、地場の素材と伝統工芸の強みに基づいて、「土地特性」「作り手」「地域経済」という3つの基準に従い、衣・食・住・感・ギフトという5つのカテゴリーで様々な土着的な魅力を有する生活用品を提供しています。

そして、製品の機能や外観を向上させることよりも、作り手とのやりとりなどの共創に基づき、地域の文化と伝統工芸から新たな意味やオリジナリティを見出すことで、社会・現代生活にほかのブランドと異なる新しい価値の提供を目指しています。また、消費者が地域文化の美しさをより深く体感して理解できるよう、ソーシャルメディアでの発信を通じて、文化交流を促進しています。

うなぎの寝床を通して、消費者はどのような土地文化で作られているか、あるいはその土地の人や作り手に対する意味は何かを理解でき、日常生活での使用を通じて美しさ、つまり「用の美」を認識できるのではないかと考えています。

社会・組織の観点では、うなぎの寝床には、地域の小売業、流通業、旅行業の収益改善、事業承継など、地域経済の問題を改善でき、また、地域文化の維持と発展に貢献できる可能性があると考えています。

まとめ

本シリーズでは、「民芸」に着目し、民芸思想を活用した「民芸的ブランディング」の可能性について述べました。また、「三方よし」という考えを基に、得られる効果の可能性を示唆しました。劇的に変化する外部環境において、様々なステークホルダーへ目を向ける必要があり、1つのことを具現化するだけでも大変なことかもしれません。

そのような状況だからこそ、「用の美」を大切にし、プロダクト・サービスを地域に根付く日常生活さらには文化へと昇華させていくことが大切になります。私たちも、日本に根付く民芸思想を見直し、「民芸的ブランディング」を実践していきたいと思います。

CIA Future Lab(長谷川、劉、諸岡)

“Changes Generate Energy”というモットーに基づき、新しい挑戦と未来につながるクリエイティブな動きやヒントをキャッチアップするチームです。