経営面からクラブチームを分析し「ビジネスマネジメント」の側面で"優勝"を争うマネジメントカップ。最新版のJリーグマネジメントカップ2020のJ3優勝クラブはFC今治となりました。今治はマーケティング、経営戦略、財務状況の各分野で1位、経営効率分野で13位と圧倒的な強さを見せ、2位の鹿児島に13ポイント差をつけて、J3参戦初年度で初優勝を飾りました。

※当記事はJリーグ マネジメントカップ2020調査レポートに掲載した内容を一部改訂して転載しています。

J3参戦初年度でFC今治が大差で初優勝

今治のJ3の初年度は、開幕戦がコロナ禍の影響で延期となるなどイレギュラーの連続でした。未曾有の状況で各クラブがBM面で苦戦を強いられる中、増収増益を達成し、J3昇格というフィールドマネジメント(FM)面での好材料をビジネスマネジメント(BM)面へうまく生かすことができたと考えられます。

この厳しいシーズンをホームタウン、サポーター、協賛パートナーと共に乗り越え、それぞれの繋がりはより強固となったと推察されます。地域と共に歩むクラブの姿勢が表れたスタジアム建設計画など、今後も相乗効果が期待できそうです。

コロナ禍による様々な制約の影響を受けた今回の「Jリーグ マネジメントカップ 2020」。以下では個別KPIに関してJ3の結果を見ていきます。

平均入場者数、スタジアム集客率

2020年シーズンにおけるJ3の平均入場者数は前年比▲1,338人(▲51.0%)の1,286人スタジアム集客率の平均は前年比▲8.7Pの9.4%となり、10%を切る厳しい結果となりました。

J1グラブなどに大打撃となった上限5,000人の入場制限の影響については、J3 で昨シーズンに平均入場者数が5,000人以上だったクラブが、岐阜(6,644人)、鹿児島(5,785人)、熊本(5,533人)の3クラブだけであったことからすると、理論上、入場制限の影響は限定的なものとなる可能性もありました。しかし実際には、全16クラブで昨シーズンと比較してマイナスとなったことから推察するに、規制そのものの影響よりも、たとえ感染対策が万全でもスタジアム観戦という行為自体への周囲の目が気になる、スタジアム観戦においても密を避けるなど制約のもと一体感等を感じられない等、来場抑止力が働いたことによる影響の方が大きかったのではないかと考えられます。

クラブ別にみると、新規参入の今治を除く15クラブの中12クラブが昨シーズンに比べ入場者数が50%以上の減少となりましたが、長野と秋田は、それぞれ▲399人(▲13.3%)、▲251人(▲16.2%)と、減少幅は他のクラブと比較して少ない結果となりました。長野は、J2昇格争いをしていたためシーズン後半にかけて入場者数が増加しており、特に最終2節の入場者数は5,636人、6,297人と昨シーズンの平均入場者数(3,000人)の約2倍の集客を記録したことが要因であると考えられます。

客単価

2020年シーズンにおけるJ3クラブの平均は前年比+1,029円(+78.0%)の2,348円でした。YS横浜を除く全てのクラブで客単価は増加しています。単価変動の要因別の内訳は、チケット単価で+756円(+41.2%)、グッズ単価は+1,762円(+120.6%)となっています。JMCにおける「客単価」は来場者数を分母として計算しているため、シーズンチケット代金の寄附やEC売上高の伸びにより、計算上の単価は高くなる傾向にあることはご留意ください。

その上で注目したいのは、客単価を前年比+2,518円と最も伸ばした岩手です。岩手は、総入場者数が前年の23,249人から8,184人と約3分の1まで減少しているにもかかわらず、入場料収入および物販収入ともに前年から増加させています。特に物販収入は前年比1.5倍と大きく伸ばしており、コロナ禍という厳しい経営環境下においてもBM施策により、収益維持・拡大の余地があることがうかがえる結果となっています。

勝点1あたりチーム人件費

本KPIは、各クラブにおけるコストの中で最も大きな比率を占めるチーム人件費を、いかに効率的にFM面の結果へ結び付けられているか、ということを可視化できる指標となります。2020年シーズンにおけるJ3平均は、前年比+0.3百万円(+8.4%)の3.8百万円と昨シーズンから微増という結果となりました。J3における平均人件費が+17百万円(+10.1%)と増加トレンドであることから、経営効率としてはやや下がったことになります。
J3クラブの中で、一定のチーム人件費水準でありながら好パフォーマンスを見せたのは、FM面においてJ2昇格を果たした秋田と相模原の両クラブで、チーム人件費については秋田が前年比+23百万円(+14.3%)の184百万円、相模原が前年比+30百万円(+24.8%)の151百万円といずれも増額していますが、同時に勝点を前年比で大きく伸ばし、両クラブとも2.5百万円とJ3平均を上回る効率的な経営となっています。重要なのは、チーム人件費というBM面の投資を、しっかりとFM面の結果に繋げられるかどうかになります。

グッズ関連利益額

2020年シーズンにおけるJ3の平均は、前年比▲2百万円(▲34.8%)の5百万円、同利益率は前年比▲9.2P(▲33.0%)の18.7%でした。J3のグッズ関連利益額の平均は5百万円程であり、昨シーズンに続き多くのクラブでグッズ販売がまだ収益の柱として立ち上がっていないことがうかがえます。
その中でも利益額トップの鹿児島はJ2平均を上回る水準のグッズ関連利益額を上げており、昨シーズン途中から開始したオフィシャルトップパートナーとの連携によるECショップでの限定品販売などのBM施策が引き続き功を奏していると推察されます。
J3のクラブはまだ経営規模が小さく、クラブ内のリソースも限られているからこそ、パートナー企業と連携したBM施策は非常に有効であると考えられます。

売上高成長率

2020年シーズンにおけるJ3の平均は前年比▲6.0Pの▲6.9%でした。コロナ禍の影響により、各クラブの入場料収入やアカデミー関連収入はいずれも約▲40%の成長率となっています。その結果、16クラブ中10クラブがマイナス成長となっていますが、コロナ禍による混乱が起きる直前に締結していたスポンサー収入については大きな影響は無く、リーグ平均でも約12%の成長率となっています。
そんな中、最も高い成長率を達成したのは岩手の100.4%(+145.9P)でした。2019年10月にNOVAホールディングスが岩手の株式の51%を取得し経営に参入したことが契機となったV字回復となっています。
2番目に高い成長率となる16.0%を記録したのは今治です。今治は、2020年シーズンよりJFLからJ3に昇格したことで、スポンサー数やスポンサー料の増加を実現させることができたものと推察されます。
J3に在籍するクラブは、売上高に占めるスポンサー収入の割合がJ1やJ2に比べ大きくなっていますが、2021年シーズンも引き続きコロナ禍の影響は続くと想定されるため、効果的なBM施策によるスポンサーメリットの創出が、ますます重要になると考えられます。

自己資本比率

2020年シーズンにおけるJ3の平均は、前年比▲18.4P(▲72.8 %)の6.9%でした。
16クラブ中、最終の当期純利益で黒字を確保できたのが昨シーズンから1クラブ減少して5クラブとなったことに加え、4クラブが債務超過に陥ったことが要因です。
なお、純資産の内訳を分析してみると、利益剰余金については今治を除く全てのクラブで累積赤字となっていることが分かります。コロナ禍という厳しい環境下にあるとはいえ、健全なクラブ経営を維持・継続するためには、今後、黒字を継続することで利益剰余金についてもプラスとしていけるような健全経営を実現する必要があります。
J3は特に経営リソースが限られている状況ではあるものの、ホームタウン地域の特性を活かした地域密着経営を通じて地域経済への貢献を図り、試合の集客や広告露出以外の収益力強化に向けたBM施策を実践していくことが重要であると思われます。

その他J3の結果詳細、また優勝した今治の矢野将文社長へのインタビューなどはJリーグマネジメントカップ2020のレポートをご覧ください。

DTFA Times編集部にて再編