経営面からクラブチームを分析し「ビジネスマネジメント」の側面で"優勝"を争うマネジメントカップ。最新版のJリーグマネジメントカップ2020でJ2初優勝を飾ったのはアルビレックス新潟となりました。

※当記事はJリーグ マネジメントカップ2020調査レポートに掲載した内容を一部改訂して転載しています。

アルビレックス新潟が僅差でJ2初優勝――Jリーグマネジメントカップ2020

新潟は経営戦略分野で1位、マーケティングと財務状況の分野で4位、経営効率分野で2位と安定して好成績を収め、2位の北九州を6ポイントの僅差でかわし優勝しました。

新潟県は端から端までが直線で250kmと幅広く、また面積も大きな県でありながら、2019年にホームタウンをその全ての市町村とし、地域に根差した取り組みを行ってきました。県民の半数近くがファン・サポーターであるとの調査結果があるほど、県内での認知率はJクラブ屈指を誇っています。だからこそ逆にコロナ禍の入場制限による入場料収入激減の影響は避けられませんでしたが、代わりに物販収入の増加等で売上高の減少を最小限にとどめるなど、底力を発揮する結果となりました。

コロナ禍による様々な制約の影響を受けた今回の「Jリーグ マネジメントカップ 2020」。J1とJ3 両方のディビジョンからの入れ替えの間にありクラブ間格差の大きいJ2は、コロナ禍の影響の受け方もまたクラブによって大きく異なります。以降では各KPI別に今回のJ2の結果を見ていきます。

平均入場者数、スタジアム集客率

2020年シーズンにおけるJ2の平均入場者数は前年比▲4,239人(▲59.4%)の2,898人でした。リモートマッチ(無観客試合)と5,000人規制があったことから、昨シーズンのスタジアム集客率が70%を超えていた松本と磐田は、それぞれ▲11,686人(▲73.7%)、▲10,068人(▲73.9%)と平均入場者数を大幅に減少させています。一方で、もともと5,000人に達していなかったクラブに関しては、地域の感染状況が明暗を分けたと考えられます。感染が急拡大した地域である琉球と町田は、それぞれ▲3,576人(▲72.2%)、▲3,350人(▲71.0%)と大幅に減少、感染が比較的抑えられていた地域である群馬や愛媛は、それぞれ▲1,955人(▲54.4%)、▲2,192人(▲58.0%)と50%台の減少にとどまっています。

最も減少幅を抑えることができたクラブは長崎であり、▲2,703人(▲37.6%)と30%台の減少に抑え込んでいます。これは、長崎が28節以降J1への昇格争いをしていたこともあり、平日を除く最後の4節において昨シーズンの9割程度まで観客を戻せたことが要因です。

また、集客率では、J3からの昇格組である北九州が最上位で22.7%(▲16.8P)でした。北九州は昇格による好影響だけでなくJリーグ加盟10周年のタイミングでもあり、370店舗を超える地元商店街の「サポートショップ」との連携やコロナ禍で厳しい地元を元気付ける「With!!KITAKYUSH~この北九州(まち)プロジェクト」等で地域と連携することで、コロナ禍においても一定の集客を達成できたものと考えられます。

客単価

2020年シーズンにおけるJ2クラブの平均客単価は前年比+1,619円(+87.3%)の3,474円でした。「客単価」は来場者数を分母として計算しているため、シーズンチケット代金の寄附やEC売上高の伸びにより、計算上の単価は高くなる傾向にありますが、J2でトップ3となった磐田、新潟、松本は、いずれも客単価が5000円台とJ1平均にも引けを取らない水準感となっています。この3クラブはいずれもグッズ単価が2倍を超える増加となっており、コロナ禍によりスタジアムでの物販に制限を受けながらも、BM施策によるEC販売の拡充によりマイナスを補っていることがうかがえる結果となっています。

勝点1あたりチーム人件費

本KPIは、各クラブにおけるコストの中で最も大きな比率を占めるチーム人件費を、いかに効率的にFM面の結果へ結び付けられているか、ということを可視化できる指標となります。2020年シーズンにおけるJ2 平均は、前年比▲0.2百万円(▲1.8%)の12.7百万円でした。
最も効率的に勝点を獲得したのは群馬で、勝点1を4.9百万円で獲得したことになります。チーム人件費をリーグ最少に抑えながら、昇格初年度のJ2で最低限の勝点を確保できた結果と考えられます。対してJ2で最大のチーム人件費を投じた千葉は勝点1を獲得するのに27.2百万円をかけた計算となっており、その差は5倍以上にもなります。

本KPI評価においてはFM面での成績を含めて総合的に評価していく視点が不可欠です。この点、2020年シーズンFM面でJ1昇格を果たした徳島、福岡は本KPIにおいても高いパフォーマンスとなっていますが、一年でのJ1復帰を目指した磐田は、千葉に次ぐJ2最大規模のチーム人件費(1,405百万円)を投じつつも、J1再昇格を達成することができませんでした。

このように人件費投資は単年では必ずしもFM面への成果が出ないケースもあり、チームへの投資という重要なBM施策に関わる経営判断の効果を検証し続ける姿勢が重要だといえます。

SNSフォロワー数、フォロワー数増減率

コロナ禍にあってデジタルを使ったファン・サポーターとの関係性構築手段であるSNSにはJ2においても拡大しました。2020年シーズンにおけるJ2の平均フォロワー数は前年比+9,198人(+12.1%)の85,244人となっています。一方増減率の平均は前年比▲6.4P(▲34.8%)の12.1%となっており、昨シーズンに引き続きJ2全体として成長の鈍化傾向も見られます。

過去にJ1で上位争いをしていたクラブや昇格争いの常連クラブなどでない限り、J2はJ1と比較して広域に露出する機会が少ないと考えられることから、J2におけるSNSフォロワーの多くは露出度に関係なく応援する地元のファンが占めるものと推察されます。

それを裏付けるようにJ2においては10万フォロワー数の壁が存在するようですが、現在この壁を突破しているクラブは、過去にJ1経験のあるクラブのみとなっています。その意味で、やはりJ1という舞台を経験することの影響が大きいことがうかがえますが、コロナ禍により人々の行動様式が大きくデジタルにシフトした環境を踏まえれば、今後はBM施策による情報発信力の強化やファン・サポーターとの接点強化の効果は大きくなるものと考えられます。

その点から注目なのは、2020年シーズンでフォロワー数を+14,815人、増加率でも+21.7%と大きくフォロワーを拡大した水戸です。メディアに通じたトップが就任したことによりSNS活用がより積極的に行われ、コロナ禍によるリーグ戦の中断期間中もファン・サポーターがJリーグやクラブから離れてしまわないよう、毎日SNS等を通じた情報発信を継続しました。こうした日々の地道な努力が結果としてフォロワー数の大幅な増加という結果に結びついているのではと考えられます。

売上高成長率

コロナ禍の入場料収入の大幅減などを受け2020年シーズンにおける売上高成長率のJ2平均は前年比▲16.8Pの▲6.7%となりました。ただし、クラブ別にはJ3からの昇格組である群馬と北九州がそれぞれ33.8%、22.6%と特に高い成長率を記録し、昇降格組を除く18クラブの中でも、4クラブがプラスの成長を記録しました。

1位、2位となった昇格組に次いで、高い成長率を記録したのは町田です。町田はスポンサー収入の増加を主要因として21.4%の大幅なプラス成長を記録しています。町田は、昨シーズンにもスポンサー収入が大幅に増加していますが、これは2018年10月に町田の経営に参入したサイバーエージェントから、スポンサー獲得の支援を受けた影響があるものと推察されます。また、町田は2021年2月にもイグニション・ポイントとストラテジックパートナー契約を締結し、新規事業の創出やスポンサー獲得の支援を受ける等、さらなるBM面の強化を図っています。新型コロナの影響が長引く昨今においては、このような売上高の持続的な成長を支える体制の強化や仕組みづくりは、今後ますます重要なポイントになると考えられます。

自己資本比率

2020年シーズンにおける自己資本比率のJ2の平均は、前年比▲8.5P(▲25.7%)の24.5%でした。トップは昨シーズンに続き町田の89.8%、最下位は東京Vの▲83.1%となっています。

J2において自己資本比率を①10%未満、②10%以上50%未満、③50%超の3つに区分すると、①が東京Vを含めて6クラブ、②が12クラブ、③が町田を含めて4クラブとなっています。これらの違いはトップマネジメントの内部留保に対する考え方の違いが影響していると考えられます。

どのクラブも昇格を目指し、また、降格を回避するため、内部留保よりもチームの強化(FM面)に優先的に資金を割り当ててしまう傾向にありますが、特に①のグループは、現在のような不確定要素の多い経営環境においては、いつも以上にクラブの財務的安定(BM面)の強化を意識することが重要になります。クラブライセンスの特例適用により、2020年シーズンは債務超過でもライセンスは維持されますが、収益の確保と資本の増強は全てのクラブにおいて急務となっています。

J2の結果の詳細、また優勝した新潟の中野幸夫社長へのインタビューなどはJリーグマネジメントカップ2020のレポートをご覧ください。

DTFA Times編集部にて再編