川崎がJ1優勝返り咲き!3分野で首位
DTFA Times編集部にて再編
経営面からクラブチームを分析し「ビジネスマネジメント」の側面で"優勝"を争うマネジメントカップ。デロイト トーマツ グループが発表した今年で7回目となるJリーグマネジメントカップの最新版で川崎フロンターレが2年ぶり2度目の優勝を飾りました。
※当記事はJリーグ マネジメントカップ2020調査レポートに掲載した内容を一部改訂して転載しています。目次
川崎が返り咲き!Jリーグマネジメントカップ2020でJ1優勝、3分野で首位となり圧倒
川崎はマーケティング、経営戦略、財務状況の3つの"ステージ"で首位、経営効率の分野においても6位タイとなるなど圧倒的な強さを見せ、史上最速優勝、最多得点、最多勝など記録づくめで王者に輝いたフィールドマネジメント(FM)面と同様、ビジネスマネジメント(BM)面においても地力を発揮した結果といえます。
2020年シーズンは、周知の通りコロナ禍による影響で試合日程の変更、観客数の制限など異常事態に見舞われたシーズンでした。満員のスタジアムという印象が定着した川崎にとってスタジアム観戦の制限は大きな打撃でしたが、それでも入場制限上限に近いファン・サポーターが足を運び、またクラブと共に苦難を乗り越えようというスポンサーも多かったようで、ほぼ前年同水準のスポンサー収入を維持できたことが優勝という結果に結びつきました。
今回の「Jリーグ マネジメントカップ 2020」は、全てのクラブがコロナ禍による様々な制約の影響を受けており、財務数値を見る限り、前年との単純比較では厳しい結果が多くなっています。以降ではコロナ禍がクラブのBM施策にどのような影響をもたらしたかをご紹介するとともに、そのような中でも見えたポストコロナに繋がるいくつかの光明も紹介したいと思います。
平均入場者数/スタジアム集客率
2020年シーズンにおけるJ1の「平均入場者数」は前年比▲12,545人(▲66.9%)の6,214人となり、特にリモートマッチ(無観客試合)や超厳戒態勢下の5,000人の規制は、収容可能人数が大きいホームスタジアムを使用するJ1クラブに大きな影響を及ぼしました。この傾向は「スタジアム集客率」においても同様です。
一方で9月19日以降は入場制限が緩和され、最大で収容可能人数の50%まで観客動員が可能となったため、ロイヤリティの高いファン・サポーターが多いクラブや、スタジアム観戦の安心・安全をファン・サポーターとコミュニケーションできたクラブでは一定の観客動員に結び付けられたものと推察されます。
客単価
他方、「客単価」は来場者数を分母として計算しているため、シーズンチケット代金の寄附やEC売上高の伸びにより、計算上の単価は高くなる傾向にありますが、平均で前年比+2,441円(+70.6%)の5,898円となりました。その影響も踏まえて客単価が初めて1万円を超えた横浜FM と鹿島について内訳を見ると、特にECのテコ入れ等でグッズの客単価で横浜FMが7,408円(+400.6%)、鹿島が6,374円(+190.5%)と顕著に伸びていることが分かります。
勝点1あたりチーム人件費・入場料収入
BMとFMの関係に焦点を当てたのが「勝点1あたりチーム人件費」と「勝点1あたり入場料収入」であり、トレードオフの関係性にもある効率性と顧客満足度のバランスを見る指標です。コロナ禍の影響という点では後者の「勝点1あたり入場料収入」は入場制限の影響を大きく受け、従来、入場料収入が大きかったクラブほど苦戦する結果となりました。
一方「勝点1あたりチーム人件費」は、各クラブにおけるコストの中で最も大きな比率を占めるチーム人件費を、いかに効率的に試合結果に結びつけられているかを可視化する指標です。史上最高勝点で優勝した川崎は、前年比▲12.7百万円(▲25.8%)の36.6百万円となりました。昨シーズンと比べてほぼ同等のチーム人件費に抑えつつ、勝点を前年比+23に伸ばしたことから、KPIが改善しています。これはJ1平均の53.5百万円を大きく下回る水準であり、経営効率という観点で川崎が顕著な成果を収めていることがわかります。
SNSフォロワー数、フォロワー数増減率
一般にコロナ禍がもたらした数少ない好影響と言えばデジタル化の浸透といわれており、デジタルを使ったファン・サポーターとの関係性構築手段であるSNSについてはマネジメントカップの各指標の中でも数少ない前年対比プラスの結果となっています。
SNSフォロワー数について2020年シーズンにおけるJ1の平均は前年比+21,435人(+5.8%)の389,867人となりました。C大阪は120万人を超えるフォロワー数で、全Jクラブの中でも断トツの5シーズン連続トップを維持しています。ここ2シーズン連続でフォロワー数が減少に転じていましたが、2020年シーズンは再び増加に転じました。また、FM面での成績が絶好調だった川崎は適時的・効果的にSNSを活用し、+98,213人(+17.6%)とフォロワー数を伸ばして60万人台に乗せてきており、昨シーズンより60万人台を達成していた鹿島、横浜FMを超えるフォロワー数を達成しました。
SNSフォロワー数増減率についてみた場合、2020年シーズンは全クラブが増加の結果となった一方、伸び率の比較ではJ1の平均で9.5%となり前年の18.4%から▲8.9ポイントと成長の鈍化傾向が見られました。個別クラブを見た場合、トップは昨シーズンに続き仙台となり+26.3%を記録しました。増加率は昨シーズンのフォロワー数にも影響されますが継続したフォロワー獲得の成果が表れています。2位は横浜FCで+24.5%となり、J1で戦った最初のシーズンで多くのフォロワーの獲得に成功しています。
一方で海外とSNSフォロワー数を比較した場合、2020年現在世界最大のフォロワー数を誇るレアル・マドリードは2億4100万人とJリーグ全体のフォロワー数宇を足し上げた数(700万人)でも遠く及ばないレベルとなっています。今後Jリーグが欧州5大リーグに伍するリーグとなることを目指すにあたっては、SNSフォロワー数は大きなテーマとなりますし、伸ばしていかなければならないといえます。
財務状況
Jリーグマネジメントカップの4thステージである財務状況を構成する、売上高、自己資本比率などはコロナ禍の影響を特に大きく受けた指標です。
2020年シーズンにおける売上高のJ1平均は、前年比▲1,115百万円(▲22.5%)の3,836百万円でした。内訳を見ると、入場料収入が▲621百万円(▲67.1%)、スポンサー収入は▲257百万円(▲11.6%)と大幅な減収となりました。構成比でみた場合、入場料収入が大幅に減少したことで、他の収入項目の構成比が相対的に増加する形になっています。特にスポンサー収入に関しては、多くのクラブでシーズン開始前にはほぼ契約が決まるため、2020年シーズンにおける新型コロナの影響は最小限に抑えられたものと考えられます。
また、2020年シーズンにおける自己資本比率のJ1平均は、前年比▲28.3P(▲81.3 %)の6.5%と大幅な減少となりました。トップのFC東京こそ82.8%でほぼ前年同水準を維持したものの、最下位となったC大阪の▲144.6%をはじめ、3クラブが2020年シーズンに債務超過に陥りました。クラブライセンスの特例適用により、2020年シーズンは債務超過でもライセンスは維持されますが、収益の確保と資本の増強は全てのクラブにおいて急務となっています。
コロナ禍は、飲食・観光業などと同様に、クラブの存続にも関わる大きな経営面の影響を及ぼしました。依然として予断を許さないコロナ禍の状況も踏まえ、入場料収入以外の収益の柱の強化や財務体質の強化を構築できるかが求められます。他産業と同様にマーケティングや効率化を始めとする事業のデジタル変革が1つの手段であるとともに、広告宣伝効果のみに限らないスポンサーアクティベーションを誘発する仕掛けづくりなど、今こそBM手腕が求められます。
次回以降J2、J3の結果等についてもご紹介します。