FM(競技面)とBM(経営面)の関係性分析
FAポータル編集部にて再編
2019年シーズンで4シーズン目を終えたBリーグでは、各クラブにおけるパートナーシップ戦略や、アリーナ運営事業、マーケティング戦略などの、ビジネス面での変革が数多く起こりました。また、2019年シーズンは新型コロナ感染拡大の影響によりリーグ戦が中断してしまったシーズンでもありました。
この分析では、それらの変革や環境の変化によって形成された各クラブのPL(損益計算書)構造の特徴を洗い出し、BMとFMの両立度や、売上高成長率の評価を行いました。
まず、各クラブのPL構造を定量的に評価してクラスタリングによってグループ分けをすることで、BMとFMが両立できているクラブにはどのような特徴があるのかを分析するとともに、コロナ禍に関する収益への影響を最小限にできているクラブには、どのようなPL構造の特徴があるのかについても考察していきます。
目次
PL構造クラスタリングの実施
ここではB1所属クラブにおけるPL構造を考慮した、クラスタリング手法について説明します。本分析では各クラブのPL構造を特徴づける項目として、営業収益、営業費用の2つを利用しました。まず営業収益の構成項目(スポンサー収入、入場料収入、配分金(賞金除く)、物販収入、ユース・スクール関連収入、その他収入)について、それぞれが各クラブの営業収益に対してどのくらいの割合を占めるのか計算しています。営業費用の構成項目(試合関連経費、トップチーム人件費、トップチーム運営経費、グッズ販売原価(関連経費含む)、ユース・スクール関連経費、その他費用、販売費および一般管理費)についても同様に、営業費用に対して各項目の占める割合を計算しています。また収益効率の指標として、営業利益率(=営業利益÷営業収益)もクラスタリングの材料として利用しています。このPL構造の例として、例えばアクティベーションなどによって多くのスポンサー料を獲得しているクラブは営業収益のスポンサー収入の割合が大きくなり、アリーナ運営を行っているクラブでは、試合興行収入のほかにアリーナの一般貸出料等を収益源とできるため、その他収入の割合が大きくなります。
本分析では上記のPL構造の情報を利用した階層的クラスタリングによって、B1所属の各クラブを分類しています。階層的クラスタリングとは、最も似ている要素同士を最初につなぎ合わせてクラスター形成していき、最終的に1つのクラスターに集約されるまで結合を繰り返すクラスタリング方法です。図1が、過去3シーズンにおいてB1所属クラブをクラスタリングした結果になります。
形成されたクラスターで極めて特徴的なのは、①高スポンサー収入・高人件費型です。このクラスターでは、営業収益の中のスポンサー収入の割合が非常に高く、また営業費用の中のトップチーム人件費の割合も非常に高くなっています。例えば過去3シーズンで一貫してこのクラスターに分類されている名古屋DとA東京では、それぞれ三菱電機、トヨタ自動車のような大企業の資本傘下にあるため、収益の多くの割合をスポンサー収入が占めているPL構造となっています。またチーム人件費に関して、例えばA東京の場合、多くの人件費を投入してシーズン好成績を狙う運営スタイルによって、2019年シーズンでは東地区で首位を獲得することができています。
残りの②~④のクラスターでは、先述の①高スポンサー収入・高人件費型のような特定の収益・費用項目への過度の依存は起こっていないクラスターで、ここではバランス型と名付けています。
②バランス型(その他収入重視)は、例えばアリーナ運営による収益源を有している大阪に代表されるような、興行関連以外での収益を確保できているクラブが分類されています。
③バランス型(物販収入重視)は、物販収入(試合会場での飲食・グッズ販売や、オンラインショップでの販売)を多く確保できているクラスターになります。例えば川崎の場合、2018年シーズンよりDeNAの子会社による運営になり、プロ野球チーム横浜DeNAベイスターズでの試合運営ノウハウを生かしたグッズ販売などで、物販収入を大きな収益源として確立することができています。
④バランス型(入場料収入重視)は、試合興行による入場料収入を収益源の要とするクラスターです。例えば宇都宮(2019年にチーム名変更、2018年以前のシーズンでは栃木)では、東武鉄道との連携企画であるラッピングトレインの運行等でクラブの注目度を上げるなどのBM施策により、入場料収入の向上につなげています。
BM・FMの両立ができているクラブはその他収入を重視した事業多角化を推進
作成した4つのクラスターをもとに、BMとFMの両立度を評価します。図2は、横軸にBMC順位、縦軸にシーズン勝率を設定し、各クラスターの位置関係をシーズンごとにプロットしたものです。ここでの円の大きさはそのクラスターに分類されたクラブの数に対応しています。つまりこの図で右上に行くほど、BMCで評価されるBMと、シーズン勝率で評価されるFMが両立できているということになります。
この図より、過去3シーズンでBMとFMの両立ができているのは、②バランス型(その他収入重視)(図中ではオレンジ色)であることが分かります。一方で①高スポンサー収入・高人件費型(図中では青色)は、FMでは比較的高いパフォーマンスを発揮している一方で、BMでは低い水準になっているクラスターだといえます。
この結果より、特定の収益に依存せずに、その他収入に代表されるようなビジネスの多角化に取り組んでいるクラブは、中長期的にBMとFMの両立が可能になると示唆されます。
売上高が成長しているクラブではオフライン収益減をカバーできるオンライン収益が成長
次に、各クラスターにおける売上高成長率を評価します。2019年シーズンではコロナ禍の影響により、シーズンが途中で中断となりました。その中で売上高に大きく悪影響を及ぼしたクラスターや、逆に売上高を伸ばしたクラスターの財務的特徴を洗い出しました。
図3は、2019年シーズンにおける各クラスターの平均売上高成長率(対前年度比)を可視化したものになります。これを見ると、②バランス型(その他収入重視)と、④バランス型(入場料収入重視)のクラスターが、平均してマイナスの成長率になっていることが分かります。一方で①高スポンサー収入・高人件費型、③バランス型(物販収入重視)のクラスターでは、逆に大きく売上高を伸ばしていることが分かります。①高スポンサー収入・高人件費型クラスターでは、シーズン開幕前に確定したスポンサー収入が、試合減少でも削減されず維持できたこと、③バランス型(物販収入重視)クラスターでは、試合開催できない中でもオンラインショッピングなどでグッズ販売ができたことで、それぞれ売り上げを伸ばした可能性があります。
先に述べたBMとFMの両立度の観点では、②バランス型(その他収入重視)の経営スタイルが最も良いという結論でしたが、2019年シーズンのようなイレギュラーな状況では、開催できた試合数が少なくなったため、入場料収入が十分に得られない事態が起きました。その影響で④バランス型(入場料収入重視)クラスターでは売上高成長率が大きくマイナスになったと考えられます。また②バランス型(その他収入重視)クラスターでも、入場料収入重視型ほどではないものの、アリーナ運営収益など、その他収入の減少により売上高成長率がわずかにマイナスになっていると考えられます。
BMCの総合観点では〈バランスの取れた収入構成モデル〉が推奨されていますが、今回のように試合開催ができないといった特別な状況下では、入場料収入やアリーナ運営収益などのオフライン収入の減少リスクを、オンラインの物販販売網でカバーできたようなクラブが成長できているという結果になっています。
まとめ:危機的状況下での収益の支えはオンラインビジネスでのマネタイズ
この分析ではB1所属クラブのPL構造に着目したクラスタリング分析を行い、4つの財務的特徴のグループができることを確認しました。このグルーピングによるBMとFMの両立度評価では、特定の収益源に依存しない②バランス型(その他収入重視)のような、事業の多角化を行っているクラブがBM・FMの両立を実現できていることが分かりました。
また一方で売上高成長率に着目すると、③バランス型(物販収入重視)のようにオンラインでも収益を上げることが可能なビジネスモデルを組んでいるクラブが、シーズン中断のあった2019年のような危機的状況でも収益を伸ばすことができているのではないかという示唆が得られました。
Bリーグでは、「スマホファースト戦略」や、リーグ創設に際する全クラブの公式SNSアカウント開設の推進など、積極的なデジタルマーケティング戦略を行っています。今後も、さらなるデータ活用や効果的なプロモーションの実施でオンラインのマネタイズにつなげていくことにより、オンラインとオフラインの両輪で収益を得ることができるようになると考えられます。それにより、2019年シーズンのような試合開催ができない危機的状況下でも、興行収入減に対するリスクヘッジを基盤とした確固たる収益を確保できる財務体質を実現し、サスティナブルな成長を達成してほしいと思います。
次回は、ポストコロナにおけるクラブ運営とBリーグのポテンシャルについて解説します。お楽しみに!