ポストコロナにおけるクラブ運営とBリーグのポテンシャル
FAポータル編集部にて再編
2020年、新型コロナウイルスの流行は人々の生活様式や社会のありようを劇的に変化させました。Bリーグも2019年シーズンの終盤の試合が中止となり、リーグおよび各クラブの運営は大きな打撃を受けました。2021年1月現在も感染拡大は続いており社会不安も高まっていますが、2020-21年シーズンのBリーグは各クラブが安全最優先と安定開催の両立を目指し、アリーナの入場人数を一定以下に保つなど工夫を凝らしゲームを開催しています。
こうしたリーグ運営、いわゆる「密」を避ける動きはある程度定着すると考えられ、現在のゲーム開催形式が今後も一定期間は続くことが予想されます。ポストコロナにおいては従来のリーグ運営とコロナ禍による急激な変化がミックスされたBリーグのニューノーマルが形成され、クラブの運営やクラブに関係する様々な立場の人や企業の関わり方を大きく変える可能性があります。今回は、ポストコロナにおけるクラブ、あるいはクラブに関係する様々なステークホルダーのBリーグへの関わり方の変化について考察してみたいと思います。
目次
「密」を回避する動きがクラブの経営に与える影響
図1は、過去3シーズン(2017-18~2019-20年)のB1クラブ営業収入平均の内訳データです。2019年シーズンの入場料収入は昨シーズンと比較して約24%減と大きく落ち込みました。このデータの集計対象には、2019年シーズンの損益への影響が限定的である3月決算のクラブも含まれているにもかかわらず、大きな収入減が発生しています。
各クラブは、「密」の回避を目的にアリーナの座席稼働を50%前後に抑えた中で試合開催している直近の状況から、来シーズンの入場料収入はさらにダウンすることが予想されます(シート稼働50%前後による来シーズン入場料収入半減と、3月決算7クラブの2019年シーズン終盤の試合中止の収入減少分)。
また、ポストコロナにおいても「密」を回避する動きが一定期間継続することが見込まれることから、今後も十分かつ安定的な入場料収入の確保は難しくなるでしょう。また、アリーナの入場人数制限は、選手やクラブとファン・ブースターの物理的な接点を減少させるため、関係が弱くなることも見込まれます。つまり、今後のBリーグにおいては、入場料に頼らない長期的な収入源を模索しつつ、選手やクラブとファン・ブースターの接点を維持すること、とりわけ足元のクラブ経営においては、収益化も視野に入れた「試合以外」のコンテンツをいかに充実させるかが重要になってくると考えられます。
コロナ禍において「試合以外」のコンテンツを充実させるクラブの動き
「試合以外」の収益源という観点で、2020年12月に開始した宇都宮ブレックス(以下、宇都宮)の「GO BREX!! グルメパス」の事例についてみてみましょう。「GO BREX!! グルメパス」は、月額520円で対象飲食店から様々な特典を受けられるサブスクリプションサービスであり、コロナ禍で経営が圧迫される地元の飲食店を盛り上げるための取り組みです。会員売上は、飲食店とクラブに還元される仕組みとなっています(図2)。
宇都宮は、毎試合約4,200人とBリーグトップクラスの動員規模を誇るクラブであり、ゲーム開催日を中心にアリーナ周辺の地域飲食店は、観客の流入により潤っていたことが推察されます。しかし、シーズン終盤における試合の中止、アリーナ入場者数の制限に伴い、地域飲食店はクラブがもたらす経済的な効果を十分に享受できなくなりました。そこで宇都宮はベンチャーソリューションを活用した「GO BREX!! グルメパス」を立ち上げたのです。この取り組みはベンチャーにとっては知名度向上につながり、飲食店にとっては本業支援となり、ユーザーの利便性向上も図れる、一石三鳥のビジネスモデルとなっています。
宇都宮はさらに、「VR BREX WORLD」という取り組みでバーチャル空間にアリーナを再現し、デジタルでのブースター交流のプラットフォーム創出にもチャレンジしています。このように、地域に発信力があるクラブが地域の産業を活性化させるプラットフォームとなるケースは、「試合以外」のコンテンツによって、地域産業の活性化と収益化を両立させ得る好事例といえるでしょう。
次に、「試合以外」で選手とファンの接点を作る取り組みをみてみましょう。レバンガ北海道など複数のクラブでは、クラブ・所属選手がオンラインサロンを運営し、クラブ・選手とファン、ファン同士がオンラインでもより近い距離で交流できる空間を作っています。また、川崎ブレイブサンダースは、クラブのYouTubeチャンネルを活用し、動画を通じて多くの人が楽しめるようなコンテンツを提供しています。
従来、クラブ・選手とファン、ファン同士の接点はアリーナが中心でしたが、現在のリーグ開催形式において、アリーナでの接点は激減しています。その減少を補完する役割として、オンラインコンテンツはより一層の注目を集めることになりました。人々の生活にオンラインツールが急速に浸透している社会の流れからみても、オンラインコンテンツの注目度の高まりは必然といえるでしょう。
しかし、生み出す価値はそれだけではありません。アリーナで見る選手はゲームに臨むアスリートですが、オンラインコンテンツでは、各選手の人としての個性が強く出ます。その個性の露出は、選手の新しいイメージを形成し、今までになかったファンコミュニティや選手の活躍の場を創造するきっかけとなります。さらに、生み出した新しいファンエンゲージメントは長期目線でクラブの収益につながる可能性もありますし、収益化につながれば、クラブや選手の価値をさらに高めることもできると思われます。
以上の事例から、クラブは、「試合以外」のコンテンツを充実させることで、長期的な収益化を視野に入れつつ、地域やファンのプラットフォームとして機能し、興行的価値に加えた新しい価値創造を目指していくことが重要になると考えられます。
「試合以外」のコンテンツの充実は新パートナー参入の可能性も広げる
一見すると、「試合以外」のコンテンツの充実は、クラブ、選手、ファン・ブースターや地域のためであるように感じられますが、現在Bリーグで見られる動きは、パートナーの視点でもプラスの効果があると考えられます。特に、これからパートナー参入を考えている企業や団体の投資検討に新しい観点をもたらします。図3のように、従来のプロスポーツは商業的価値が、多くの投資判断の観点の全てでした。しかし、実際にプロスポーツが持つ価値は、周辺地域の市場に波及する効果や、スポーツの公共性が社会に与えるプラスの効果など広範囲にわたっているものと考えられます。
こうした効果を可視化できれば、プロスポーツが持つ総合的な価値を織り込み、今までになかった投資判断が可能になるでしょう。貨幣価値換算が困難な社会的な価値についても、例えば、SROI(社会的投資収益率)などの指標を用いて数値化していくことが注目されており、投資判断はプロスポーツが持つ総合的な価値に近づいていくことが予想されます。また、社会に対して積極的な取り組みをする企業や団体に投資するESG(環境・社会・ガバナンス)投資などがビジネスの新しい潮流となっている中で、スポーツが生み出す社会的価値に注目することは、通常の企業活動においても歓迎されるといえます。
ポストコロナにおけるBリーグのポテンシャルとBリーグへの関わり方
コロナ禍がもたらした社会の構造変化は、興行活動が制約を受けるという面でBリーグに大きなダメージをもたらしました。一方で、これまで積み上げてきた価値を土台に今後のBリーグの在り方やリーグへの関わり方をじっくり考えるきっかけにもなったのではないでしょうか。「試合以外」のコンテンツを充実させることは、クラブの収入確保と社会的価値の向上を後押しし、それが様々なパートナーを呼び込む波及効果を生み出し、クラブをさらに成長させるというサイクルを生み出す可能性があります。また、こうしたBリーグ、クラブ、所属選手が生み出す社会的価値は、パートナー参入を考える企業や団体が投資を検討する際の新しい観点になるでしょう。
今後のBリーグの発展にはクラブの社会的価値にも目を向けていくことが不可欠です。クラブ関係者には、その価値を最大限生かした運営を目指してもらいたいと考えます。クラブに関わる人々や企業・団体にはBリーグ、ひいてはスポーツコンテンツの社会的価値を感じ、それぞれの関わり方でBリーグを応援していってもらいたいと思います。