医薬品メーカーによる品質不正の影響

医療費削減の一環として普及が進められてきたジェネリック医薬品は、低価格化と安定供給が求められる一方で、その品質は医療制度全体を支える基盤となる重要な要素である。しかし、近年の急激な需要増加に対して生産体制の整備が追い付かないメーカーも存在し、認められた製造手順からの逸脱や必要な試験の未実施といった品質不正が発覚する事態が生じている。複数のメーカーに対し業務停止などの行政処分が下された結果、医薬品の供給が滞るのみならず、ジェネリック医薬品全体への信頼感が損なわれ、医療関係者や患者に不安を広げている。

このような状況を踏まえ、本稿ではジェネリック医薬品メーカーにおける事例をもとに、品質不正の実態、原因、および再発防止策を解説する。

医薬品メーカーによる品質不正の事例

1.A社における品質不正の概要

大手ジェネリック医薬品メーカーであるA社は、以下のような対応が「医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下「薬機法」)などに違反したことを理由として、県より業務停止命令を受けた。

① 品質試験不適合品を製造販売承認書と異なる製造方法で適合品となるよう処理した。

② 品質試験等における不適合の結果について、適切な措置を実施しなかった。

③ 医薬品製造管理者が、医薬品の適切な製造管理及び品質管理を行うよう管理監督しなかった。

④ 製品の適正な製造販売を行うために必要な配慮を怠り、かつ、製造販売しようとする製品の品質管理を適正に行わなかった。

⑤ 製造販売承認書の内容と異なる方法で製造された医薬品を製造販売した。

⑥ 医薬品等総括製造販売責任者は、必要な品質管理業務を実施しなかった。

この①⑤で言及されている「製造販売承認書」(以下「承認書」)は、薬機法および「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(以下「GMP省令」)に基づき、厚生労働大臣または都道府県知事が医薬品の製造販売を承認する際に交付する書面である。医薬品メーカーは承認書において承認された製造方法や試験方法などを遵守する必要があるが、A社はこれらの製造方法や試験方法を遵守していなかっただけでなく、これらを遵守するための適切な品質管理も怠ったことが行政処分の理由となった。

2.A社における品質不正の実態と発生経緯

2.1.不適切な救済措置による廃棄の回避

医薬品メーカーは、薬機法およびGMP省令の規定により承認書において承認された方法により医薬品の製造、試験などを行うために必要な手順を「手順書」として作成し、これに基づいて医薬品の製造、試験などを行うことが求められる。しかし、A社では品質試験の結果不合格となった製造ロットにつき、手順書上認められない再試験、承認書と異なる方法での再加工処理、その記録の不実施などの不適切な「救済措置」により出荷を行う等の不正が行われていた。

<図表1>A社における製造実態(製造、品質試験)
参考:第6回 医薬品等行政評価・監視委員会資料(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22897.html をもとにデロイト トーマツ作成

これらの救済措置は「逸脱会議」と称される、不適合品等の各種逸脱の処理を検討する会議にて逸脱の管理責任者が主導的に行ったものであるが、これは工場長の明示または黙示の指示を受けて開始されたものであり、さらにこの指示は、担当役員からの不適合品の廃棄回避の指示を受けたものであった。再試験については再試験結果を踏まえて適合品と認められる条件を逸脱会議出席者があまり明確に認識しておらず、これがGMP(医薬品および医薬部外品の製造に関する適正製造基準)違反であるとの明確な認識がなく、品質管理の担当者から反対の声が上がるケースもあったが採用されることはなかった。一方、再加工処理については逸脱会議でもGMPに違反する不正な処理との認識がありながら進められていた。

救済措置の開始の数年後、ジェネリック医薬品の需要増に伴いA社工場における生産数量・生産品目も急増したが、これに対応できる人員、設備、製造方法などが整備されておらず、逸脱も増加し、不適切な救済措置の件数も増加していった。またこのような運用が続けられる中で、逸脱会議での検討・判断が手順書に優先するかのような認識が定着してしまっていた。

2.2.安定性試験の不実施

医薬品は保管条件(温度、湿度、光など)や時間経過により変質し、効果の減弱や副作用を生じることがある。そのため、医薬品メーカーは承認書で認められた保管条件や使用期限の範囲内で医薬品の品質が維持されていることを確かめる安定性試験を、計画に基づいて定期的に実施しなければならない。しかし、A社では安定性試験が計画通りに実施されていなかった。

また、安定性試験の結果、不適合とされた製品についても逸脱に関する手順書に従った処理が行われず、製造販売業者に連絡がなされていない事例もみられた。

<図表2>A社における製造実態(安定性の試験)
参考:第6回 医薬品等行政評価・監視委員会資料(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22897.html をもとにデロイト トーマツ作成

発覚の10年以上前から、A社の人員・施設では実施が求められる全ての試験が実施できない状態であったため、A社の品質管理部においては優先順位の高い試験のみ実施する、という実務運用が定着していた。その中で安定性の試験は劣後するものとされ、試験実施計画から除外されるか、計画書に記載されても実施が後回しとされていた。

このような実態の一部は工場内の会議において責任者・関係者に情報共有されており、また、内部監査室は内部監査報告書において当該試験未実施の問題を指摘していたが、改善には至らず、監督・監査が十分に機能していなかったといえる。

3.原因分析と再発防止策

調査報告書は業務プロセス・組織・人員の不備、品質管理、監査の一部不実施や、その背景としての出荷量に全く追い付いていない生産体制などを直接的な原因として指摘し、さらに、今回の不正の根幹には以下のような風土の存在がある旨を指摘している。

・「安定供給」の名の下に、欠品回避を品質管理よりも優先する風土

・上層部が打ち出した方針につき、ネガティブな報告・進言を躊躇する風潮

GMP 違反について認識/疑念を持っても、当事者意識を持たず問題視しない風潮

また、品質管理の担当者や内部監査室の指摘を受けてもなお、改善がなされなかったことも、事態をより一層深刻化させたものと考えられる。

これらの原因を踏まえ、A社は以下のような再発防止策を策定・実行している。

・手順の見直し

逸脱管理、品質管理などの手順書を明確化
手順書上で逸脱会議や責任者、関係者の権限、役割を明確化
試験記録管理の厳格化、システムの導入

・組織体制、権限と責任の見直し

品質管理部門・責任者の権限強化
逸脱管理の責任者を品質管理部門が任命
安定性試験を行う部署を新設、人員を確保
品質管理担当役員と生産担当役員の分離

・内部監査機能の強化

品質管理部門による定期監査、抜き打ち監査の実施
GMP監査室の新設、品質管理部門との連携

・生産計画の見直し
出荷ロット数の削減
試験キャパシティに応じた生産計画の策定
逸脱が発生しやすい製品の品質改善計画の策定・実施

・風土改革

5つの行動指針からなる品質方針を制定
各部門、従業員が品質方針に基づいた目標を設定し進捗を確認

4.発覚の経緯とその後の対応

これらの品質不正は、県などの無通告立入検査を契機として実施されたA社社内調査、および外部の法律事務所による調査により明らかとなった。調査の過程で不正が確認されたものから順次、製品の回収が行われたが、県からは回収に関するA社から医療関係者への説明が不十分で納得できるものでなかった、と指摘されている。

その後、一部の製品について出荷再開には至らないことなどからA社の売上高が回復せず、市場環境の悪化や投資先の業績不振もあり債務超過に陥った。その後、A社が行政処分後に申請した事業再生ADR手続きが成立し、A社はファンドの下で事業再生に取り組むこととなり上場廃止した。

おわりに

本稿で取り上げた事例は、企業に定着した業務運用や組織風土が品質不正の温床となり、それが、当たり前のものとして長年にわたり温存され、外部からの指摘を受けるまで自浄機能が働かなかったものである。品質不正によく見られるパターンであり、本事例では企業のあり方そのものが問われ、再生プロセスを経て、結果としてガバナンス・組織風土の抜本的な見直しが余儀なくされた。品質問題はどの企業でも潜在している可能性を否定できない。本事例は、対応が後手に回れば企業存続が危ぶまれるのみならず、社会問題まで惹起してしまうことをあらためて認識させるものといえよう。早期に発見し、早期に解決することが望まれる。

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