FATFによる第5次対日相互審査を見据えた日本政府の対応

2021年に公表されたFATF4次対日相互審査において、日本は「重点フォローアップ国」に位置付けられた。以降、日本政府は各種法規制等の整備を行うとともに、金融機関等に対してはマネロン等リスクの管理態勢構築を求めてきた。本稿では、FATF4次対日相互審査の概要とその後の日本政府・金融庁の対応、そして今後実施されるFATF5次相互審査の見通しについて紹介したい。

(1)FATF第4次対日相互審査の結果の概要

2021年に報告されたFATF第4次対日相互審査結果では、技術的コンプライアンス(法規制等)の勧告項目について下位2段階評価(PCおよびNC)の合計が11個と多数の項目で不備が指摘され、非監視対象国のうち重点フォローアップ国に相当する結果となった。しかし、その後の日本政府の取り組みによって、FATFの第3回フォローアップで全ての項目が下位2段階評価から脱し、着実な改善が見られる結果となった。

参考: FATFリリース
https://www.fatf-gafi.org/content/fatf-gafi/en/publications/Mutualevaluations/Mer-japan-2021.html
https://www.fatf-gafi.org/content/fatf-gafi/en/publications/Mutualevaluations/japan-fur-2024.html
【凡例】C:Compliant、LC:Largely Compliant、PC:Partially Compliant、NC:Non-Compliant
1st:第1回フォローアップ報告書による見直し、2nd:第2回フォローアップ報告書による見直し、3rd:第3回フォローアップ報告書による見直し

したがって、2028年に予定されているFATF5次対日相互審査に向けて残された課題は、IO項目(有効性評価項目)の改善ということになる。しかしながら、第4次相互審査におけるIO項目の審査結果は、11の評価項目のうち8項目が不合格水準とされるMEmoderate level of effectiveness)にとどまっており、FATF加盟国の中でも下位に位置付けられる状況となっていた。

※IO項目については、FATFフォローアップによる再評価は行われていない。

参考: FATFリリース
https://www.fatf-gafi.org/content/fatf-gafi/en/publications/Mutualevaluations/Mer-japan-2021.html
【凡例】HE:High level of effectiveness、SE:Substantial level of effectiveness、ME:Moderate level of effectiveness、LE:Low level of effectiveness

(2)FATF第4次対日相互審査を受けた日本政府の対応について

FATF第4次対日相互審査の結果を受け、日本政府は直ちに「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画」を公表し、我が国のマネロン等対策の強化を政府横断的に進めてきた。その中で金融庁は、金融機関に対して20243月末までにマネロンガイドラインに基づく態勢整備の完了を要請し、その結果、金融機関におけるガイドライン対応の完了率は99%に達したとしている。

そのうえで20244月以降は、金融機関は基礎的な態勢が整備されたことを前提として態勢の有効性の検証を通じて継続的に維持・向上していく必要があるとして、20253月に論点整理および「マネロン等対策の有効性検証に関する事例集」(以下「事例集」)を公表した。なお、従前から態勢整備が完了していない金融機関には早急な対応を求め、対応が著しく不十分な場合は行政対応を検討・実施する旨を表明しており、20254月現在、2金融機関が銀行法等に基づく業務改善命令を受けている。(後述)

(3)FATF第5次対日相互審査について

FATFによる第5次対日相互審査は20288月に予定されているが、FATFは第5次相互審査においても引き続き、技術的コンプライアンス(法規制等)と有効性評価という二元的な審査を行うこととしており、各国の技術的コンプライアンスの整備状況の進捗も踏まえ、その運用状況や実効性の審査に重点を置くものとしている。

なお、第5次相互審査ではIO項目(有効性評価項目)の一部が改められ、「IO3.金融機関・VASPsVirtual Asset Service Providers)の監督・予防措置」、「IO4DNFBPsの監督・予防措置」とされることがFATFよりアナウンスされており、金融セクターと非金融セクター等とが別個に評価されることとなる。

現在、金融庁がマネロン等管理態勢の有効性検証を重要視しているのは、こうした背景を踏まえたものである。

FATF第5次対日相互審査に向けて金融機関に求められる対応と金融庁の動向

金融庁はFATF5次対日相互審査を見据え、論点整理を公表した。この中で、金融庁は金融機関のマネロン等管理態勢の有効性検証を促進すべくモニタリング・対話を行っていくものと表明しているが、他方で現状について、「20253月現在、マネロン等対策における有効性検証の取り組みを開始して日が浅い金融機関等も多い」と評価している。こうした状況下で、金融機関に求められる有効性検証の取り組み、および直近の金融庁の動向について解説したい。

(1)「マネロン等対策の有効性検証に関する対話のための論点・プラクティスの整理」について

2025年3月、金融庁は論点整理を公表し、金融機関に向けて有効性検証の考え方や、今後の当局における対話の方針などを示した。マネロンガイドラインに列挙されている「対応が求められる事項」がマネロン等対策における最低の目線・水準を表している一方で、論点整理に記載されている有効性検証についての記載はマネロンガイドラインを補完するものであるとされている。

論点整理では有効性検証を「金融機関等が、変化するマネロン等リスクに対して有効な管理体制の維持・高度化を目的として、『自社が、直面するマネロン等リスクの特定・評価・低減を適切に実施していること』を確認する取り組み」であると定義付けている。金融庁はこれまでも繰り返し、「金融機関等においては整備したマネロン等リスク管理態勢を適切に運用し、その有効性を検証し、継続的に態勢を維持・高度化していく必要がある」と発信してきており、これを踏襲する内容となっている。

元来、金融機関においては、直面する各種リスクの内容に応じた管理態勢を構築し、構築した後は継続的に適切にPDCAを回し、自社のリスク管理態勢が変化していく環境や新たなリスクに対応しているかを確認し、必要に応じて態勢高度化を図っていく必要があり、マネロン等リスク管理態勢の有効性検証ついても同様である。論点整理および事例集は有効性検証の基本的な枠組みを示したものであることを踏まえ、各金融機関は論点整理等を参考として、自らの直面するマネロン等リスクに応じて必要となる検証を継続的に行い、マネロン等リスク管理態勢の改善、維持・高度化を図っていく必要がある。

参考:金融庁HP「 『マネロン等対策の有効性検証に関する対話のための論点・プラクティスの整理』第1版(概要)」
https://www.fsa.go.jp/news/r6/ginkou/20250331-3/04.pdf 

また、論点整理では、金融機関のマネロン等リスク管理態勢の維持・高度化を支援するために、金融機関との対話を実施、マネロン等リスクの特定・評価・低減が適切かを確認していくとしている。対話では、金融機関からの説明により有効性検証の実施計画作成状況や実施状況、検証を踏まえた改善の状況を確認することとされており、マネロン等対策を担う役職員は自社のマネロン等対策の有効性を適切に理解し、内外に的確な説明をできるようにする必要がある。

(2)金融庁による行政処分

2024年12月、金融庁は国内A銀行に対して、「マネロン・テロ資金供与対策における不適切な業務運営」とその背景にある「経営姿勢および態勢上の問題」を理由とする業務改善命令を発出した。また、20253月には、金融庁から信用金庫の検査監督権限の委任を受けている財務省東北財務局が管内B信用金庫に対して、マネロンガイドラインに基づく態勢整備が未完了であることを理由とする業務改善命令を発出した。いずれの業務改善命令も、具体的な不祥事や顧客被害は発生していない中での行政処分であり、リスク管理態勢の不備を主因とする業務改善命令であるとして注目を集めた。

これらの業務改善命令では、金融庁が求めてきた20243月までのマネロン等リスク管理態勢の整備の要請に両社が適切に応じてこなかった点、経営陣がこうした状況に主導的に関与してこなかった姿勢等が厳しく指摘されている。特にA銀行に対する業務改善命令の処分理由の中で、「経営陣の姿勢が、マネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の構築を軽視するリスクカルチャーを助長し、自主的な改善を阻害してきた」と断罪している。この結果、A行では経営責任を取らせる形で同社の社長およびリスク管理担当役員が解任され、また、親会社の社長ほかの幹部らに対しても退任や減俸等処分が下された。

参考:金融庁リリース

このように金融庁は今後も、各金融機関に対するマネロン等リスク管理態勢の有効性のモニタリングを強化し、経営陣をはじめとするマネロン等リスク管理態勢を所管する部署の役職員との対話を通じて、各金融機関の有効性検証を含むマネロン等リスク管理態勢を確認するとともに、問題のある金融機関に対して検査の実施、業務改善命令などの厳しい措置をもって臨んでいくものと考えられる。各金融機関は、経営陣の主導的・積極的な関与のもと、マネロン等リスク管理態勢の検証、維持・高度化に向け取り組んでいくことが求められる。

おわりに

以上で述べた通り、金融庁はマネロン等リスクを金融機関におけるトップリスクの一つと考えている。各金融機関はマネロン等リスク管理態勢を適切に構築したうえでその有効性を検証し、継続的に維持・高度化させていくことが求められている。その上で、リスク管理態勢の有効性を合理的・客観的に説明可能とする必要がある。そのためには、金融機関の経営陣自らが、マネロン等リスク管理態勢を適切に構築し、維持・高度化させるために主体的に行動する必要があろう。具体的には、自らが抱えるマネロン等リスクの実態把握、リスク管理態勢の構築・維持・高度化させるために適切に指示するとともに必要なリソースを配賦し、さらにはこうした対応を自ら適切にステークホルダーに説明していくことが求められる。

中小金融機関においては、専門性の高い人材の確保の困難さや限られたリソースで対応をしなければならないといった事情もあろう。金融庁から論点整理と同時に公表された事例集では、有効性検証に係る態勢面の取り組み事例として、外部専門家の活用や第3線部署の関与といった事例も挙げている。有効性検証は検証事項も多岐にわたることから、こうした金融庁からのアナウンスも参考にして、限られたリソースの中で、優先順位をつけて対応していくことが求められよう。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。