はじめに
品質とは、顧客が要求する仕様や性能である。また、品質を維持するということは契約で交わされた仕様や性能を満たすことであり、製品によっては法令等により規定されている基準等を満たすことだ。品質の維持管理と向上は、どのような産業でも重要な課題であり、競争優位の源泉ともなる。同時に、品質不正は、顧客との契約や法令に違反することを意味し、発覚した場合には信用を失い、企業経営を揺るがす問題となる場合もある。実際に、経営危機に陥り他社の支援を受けたり、そのまま経営破綻してしまう企業もある。その事の重大さにも拘らず、未だに一部の企業では、品質不正発覚後も適切な原因分析がなされることなく、製造や品質検査の現場の問題とされ、本質的な原因は燻ぶったままになっている。
品質不正の根深い原因
以下は、近年の品質不正の事例(一部)であるが、長期にわたって行われていたケースが多くなっている。

品質不正に関する調査報告書を見ると、何十年も前から続いていたという企業が多い。特に、同じ製品を何十年も前から製造しているという企業では、同じ材料・同じ製造工程で生産しているので検査に不合格となっても、検査側の問題として認識されやすいというバイアスがある。また、検査部門の立場が弱い場合が多く、営業からの納期のプレッシャー、製造部門から再検査用の部材を支給してもらう際のプレッシャー、管理部門から検査コストのプレッシャーに対し、再検査をせずに検査結果を改ざんして出荷を「可」にしてしまうということが起きがちだ。
長期にわたり不正が行われていた場合には、検査数値の書き換え(改ざん)が検査員にとって当たり前となっており、慣行化している場合もある。検査員は品質不正が良くないものと頭では理解はしているが、日々の業務で自らが行っている書き換えは作業で、後から言われてみると不正だった、あるいは、当初の検査員は不正と認識していても、後任の検査員が引継ぎする中で不正と認識していない場合もある。
このように、品質不正が長期にわたればわたるほど、徐々に無意識下、あるいは組織風土に溶け込んでいく傾向があり、日本企業にとって品質不正は根深い問題となっている。
再発防止策のポイント
品質不正の再発防止策は、組織的な問題として取り組む必要があるため、残念ながら短期間で実施することは難しい。そのため、再発防止策として短期的な取り組みと長期的な取り組みを策定および実行する必要がある。ここでは、再発防止策を策定する際のポイントおよび具体例を挙げておく。
- 全社的な視点で策定する
ⅰ ガバナンス強化の観点から、各部門・役職・担当者の権限と責任を明確にし、管理体制の整備を行う。また、報告事項や報告ルートの整備を行うことで不正が行われにくい体制を構築する。
ⅱ 内部監査部門が品質に関する知見が乏しい場合には品質監査が行われていない場合もあるが、内部監査体制や監査計画を見直し内部監査を強化する。また、監査手続の設計時には、品質不正リスクを検討する。
ⅲ 内部通報制度の再整備と周知方法の見直しを行い、不正を通報しやすい環境を構築する。
- プロセス・システムの視点で策定する
業務プロセスの見直しを行い、チェック体制の強化や標準化、自動化など品質不正が行われにくいプロセスにする。また、ITシステムを活用し、データ改ざんの防止など不正リスクを低減させ、検査データや検査成績書などの文書管理も改ざんや紛失を防止する観点から整備する。これらによりトレーサビリティを確保し、将来の問題発生時に迅速に対応できるようにする。
- 意識・風土の視点で策定する
定期的にコンプライアンス研修を実施し、コンプライアンス遵守を徹底する。また、風通しの良い組織風土を醸成するため、従業員へ意識調査(アンケート)を実施し、状況を把握することで改善を図る。さらに、品質に関わる担当者には品質教育を強化し、品質管理・品質検査に関する知識やスキルを向上させる。
- ビジネス関係の視点で策定する
品質不正は、長年にわたる業界慣行や、固定的な元請・下請関係が背景にあることが多い。近年の環境規制を始めとする規制強化に対応する中で、下請けになればなるほど、力関係から品質基準が保守的に過剰に設定されてしまう傾向がある。そのような場合は、経営陣も入った上で、取引条件や品質基準自体を相手企業との間で見直すことを検討する。 - 短期的と長期的な視点から策定し、定期的なモニタリング計画を作成する
短期的な再発防止策と中長期的な再発防止策を策定し、実施スケジュールを作成する。また、再発防止策の有効性を評価するため、2~3年間はモニタリングを行う。具体的には三か月から半年に一度、定期的に従業員へ意識調査(アンケート)を行い、コンプライアンス意識の高まりや組織風土の変化を確認する。
- 再発防止策の実効性を持たせるために経営陣がコミットする
経営陣が品質とコンプライアンスを重視する姿勢を示し、率先垂範することで組織全体の意識改革を促進する。また、組織風土を改善するため、経営陣からの定期的なメッセージを発信する。
上記6つの観点で再発防止策を策定することにより、再発防止策の抜け漏れを防ぐことができる。
おわりに
品質不正は企業にとって非常に根深い組織的問題であり、一朝一夕では解決できない。全社的な視点から経営者が対峙すべきもので、決して製造や検査の現場だけの問題ではない。また、業界の商慣行が不正の原因の一つとなっている場合には、業界全体で見直しを図ることも視野に入れるべきだ。そのような大きな視野をもって、抜本的・徹底的に取り組むことが求められる。
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