ステークホルダー対応の前提
ステークホルダー対応においては、「事実に基づいて」「一貫性を持って」説明することが前提となる。この前提は、リリースをはじめとする対外的な公表資料についても当てはまるとともに、メディア対応における原則でもある。
事実に基づくとは、「多分、そう思います」といった推測や、「そのように聞いています」という伝聞ではなく、会社として事実確認が完了し、説明時点において、間違いなく事実であると認定できていることを指す。
一貫性をもつとは、これまでの説明内容を変えない、変えるのであればなぜ変えるのかを論理的に説明することである。また、説明相手によって内容を変えることはせず、原則、どのステークホルダーに対しても同じ説明をすることである。
以下では、この前提に基づき、メディア・株主といった不特定多数に対するオープンな対応ではなく、通常外からは見えることのない特定のステークホルダーとのクローズドな対応についてまとめる。
ステークホルダー別の対応ポイント
監督官庁
真っ先に確認が求められるのは、報告が必須となる監督官庁があるかどうかである。自社の事業内容が、特定の類型の事業に対する規制を定める法律(一般的に「業法」と呼ばれる)の対象となっている場合には、行政当局には一定の監督権限が定められている。そのため、発生事案が業法に抵触する内容であれば、法令上、監督官庁への報告が求められる。
業法の代表的な例
金融庁 | 金融商品取引法、保険業法、貸金業法 |
厚生労働省 | 食品衛生法 |
経済産業省 | 電気事業法、ガス事業法 |
国土交通省 | 道路運送法、鉄道事業法、建設業法 |
初報以降は、監督官庁の指示のもと、継続的なコミュニケーションおよび対応が発生する。発生事案の内容によっては、数カ月の長期にわたるケースもある。
仮に発生事案が業法に抵触する内容ではなく、法令上、報告が求められるものではないと考えられる場合であっても、自主的に報告を行う方向で検討すべきである。後々、業法に抵触しうる事実が発覚した場合や、監督官庁が事案を報道等で知り関心を示した場合に、「なぜもっと早く報告しなかったのか」と叱責を受けるリスクがあるためである。もし監督官庁から、「その件について、報告は不要」との返答があれば、その指示に従えばよく、報告しなかったことを咎められるリスクは排除できる。
監督官庁のカウンターパートは係長や課長補佐(以下、「担当者」とする。)などが担うことが多い。監督官庁内では、担当者を起点に、より上位の決裁権者へ情報がエスカレーションされるため、カウンターパートである担当者が情報を正確に理解しないと、誤った情報が伝わったり、共有されるべき情報が不足したりするおそれがある。また、担当者は上位者の指示に従う立場であり、言を左右にすることもあるが、感情的にならず、担当者と関係を構築することがミッションとなる。
なお、自社の事業が業法に抵触し、法令上の報告が求められるか否かといった判断や、報告にあたっての報告書の作成等については、外部専門家の意見を求めることが望ましい。
取引先
発生事案に対する説明の対象となる取引先は、数十社にのぼったり、百社を超えたりするケースも珍しくない。取引先が「聞いていなかった」「報道で知った」などの状況は、取引先の心証を悪化させ、信頼回復が困難になり、取引再開の先送りや取引の打ち切りなどにつながるリスクがある。
不正発覚と同時に求められるアクションは、抜け漏れのない取引先リストの作成と、優先順位付け、それに基づくコミュニケーションプランの策定である。発生事案の事実関係に応じて、過去何年分の取引先を対象とするか、速やかな検討が求められる。
優先順位付けにおいて最優先となるのは、生命や財産を毀損するおそれがある、取引先から見て自社が一社購買先や重要な卸先にあたるなど、発生事案が与える影響が極めて大きい取引先だ。その後は、取引規模の大きなところから並べ、直近に取引が迫っている取引先の扱い等を考慮する。
そのうえで、初報から直接訪問することが必要となる相手かどうか、初報は電話・メールで済ませることが可能かどうかを検討する。全ての取引先に直接訪問することは現実的ではなく、説明が必要と判断した取引先に確実にコンタクトすることが実現可能なプランを立てることが重要である。直接訪問する場合は、担当者レベルで出向くのか、部長級以上か、といった要素もプランに織り込む必要がある。
取引先から求められる主な説明事項は以下の通りである。
・現時点で判明している事実と影響範囲
・今後調査により明らかにする内容
・自社が発生事案により影響を受け得る対象かどうか
・影響を受け得る場合はどのような対応・補償が予定されているか
・再発防止策
当然、一度に説明できる内容ではなく、特に初報時点においては、ほとんど明らかになっていないこともあり、継続的にコミュニケーションをとり、説明をアップデートしていくことが重要となる。初回のコミュニケーションから、発生事案に係る補償等への対応に関する説明を求められることもあるが、会社としての方針が決まるまでは、あいまいな返事やできない約束はせず、要望として承るにとどめなければいけない。
なお、初報時点では再発防止まで求められないが、「今後どうするのか」という観点は極めて重要である。取引先からすると、「今後も取引を継続してよいのか」を判断するうえで、発生事案に対する再発防止策の中身、取り組みの本気度は、確認が必須となるためである。
従業員
社外のステークホルダー対応に追われ、見落とされたり後手に回ってしまったりしがちなのが、自社の従業員への対応である。
会社から従業員への説明がないと、従業員は家族や知人から「会社は大丈夫なのか?」と聞かれても答えられず、心労が募る。自社で起こっていることについてメディア報道を通じて初めて知るという状況は、「自分たちはないがしろにされている」という会社への不信感につながり、ひいては退職の検討や、メディア等への内部事情のリークなどの行動に発展しかねない。全社一丸となって取り組むことが求められる危機対応時に、従業員の会社へのエンゲージメント低下は可能な限り避けなければならない
従業員に対しても適宜、社内報の発出や説明会等の機会を設け、会社が置かれた状況について説明をする必要がある。発信者は、メッセージの軽重に応じて、社長、管掌取締役、部門長など柔軟に調整することが効果的であるが、説明タイミングは、説明内容にはインサイダー情報にあたる重要事実が含まれることもあるため、事前ではなく、対外的な開示と同時または直後が望ましい。
まとめ
危機発生時には、社内外からの批判や非難にさらされ、冷静な状態を保つのも一苦労のなか、次から次に問題が山積しているのが常だ。そういった中では、視野が狭まり、先々の展開を見据えることもできなくなりがちである。特にステークホルダー対応においては、ヒートアップした相手方とのコミュニケーションが発生しやすく、冷静かつ俯瞰的なプロジェクトマネジメントが求められる。ステークホルダー対応の成否は、その後の事業活動を大きく左右するといっても過言ではなく、発生事案の規模が自社のリソースのみで対応できる範囲を超えているのであれば、速やかに外部専門家に相談し、助力を求めるべきである。
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