「現場のトラブル対応や、人手不足の穴埋めに追われ、自社の長期的な視野にもとづいた成長戦略など落ち着いて考えられない。」これまで私が地域の中堅・中小企業を数多く訪問するなかで、経営者の皆様からこのような趣旨の言葉を多く耳にしてきた。現場の経営者にとっては日々実務の波にのまれ、中長期的な戦略を描く時間もリソースもないまま、刻一刻と時間がすぎていくなかで焦燥感だけが増していく状況にある。人口減少と地域経済の縮小が続くなか、地域経済全体のパイは確実に減り、一部の時代の波にのった企業が独り勝ちを収める一方、明確な成長戦略を持たず、域内市場の既存ビジネスだけに依存している中堅・中小企業は「ジワジワと取り残されていく感」を強めている。この場合、地域経済の沈下とともに、自社の沈下をまねき、こうした地域企業の停滞がやがて地域雇用やサプライチェーンの衰退へ直結してくる。本稿では、こうした地域経済の現状を反転させるM&Aの役割の整理と経営者のM&Aを検討する際の思考のヒントを述べたいと思う。