成長こそが企業価値を高める。そうした考え方は資本市場に深く根付いている。一方で、日本企業の競争環境を見渡せば、規模や成長率だけでは説明できない強さも存在する。代替不可能な技術や製品、安定供給への信頼、長年培われた知見。変化の時代において企業が目指すべき姿とは何か。成長一辺倒を超えた経営のあり方を考察する。

地政学リスクの高まり、生成AIの進展、サプライチェーン再編、経済安全保障の要請――企業を取り巻く経営環境は、かつてない速さで変化している。こうした変化は新たな市場を生み、急成長する企業も現れている。政府も成長分野への投資を後押ししており、企業が成長を志向すること自体は自然であり、望ましい。

ただ、多くの企業をご支援する現場に身を置く者として、私は一つの違和感を抱いている。多くの経営者は、成長だけでなく、市場の成熟や人材制約、供給責任、資本効率を踏まえ、どこを伸ばし、どこを守り、どこで収益を確保するかを極めて現実的に考えている。違和感は、そうした現実的な判断が、資本市場との対話の中で必ずしも十分に報われていないのではないか、という点にある。

投資家、アナリスト、メディアとの対話では、どうしても成長領域が注目を集めやすい。次の成長市場はどこか、新規事業をどう拡大するのか、AIをどう収益化するのか。そうした問いが重要なのは言うまでもない。一方で、成熟市場でどう残存者利益を得るのか、小さくても不可欠な分野でどう代替不可能性を高めるのか、安定収益事業をどう全社価値につなげるのか、といった論点は相対的に前面に出にくい。IRが成長の物語に引っ張られやすいのも、ある意味では自然である。

しかし、日本企業の競争環境を考えれば、この偏りは見直す必要があるのではないだろうか。規模の勝負では中国企業に分がある。巨大な市場、量産体制、投資余力を背景にした競争に、正面から挑み続けるのは容易ではない。他方、生成AIをはじめとする先端デジタル領域では、米国企業が巨額資本と人材集積を武器に先行する。全ての分野で同じ土俵に立ち、同じ勝ち方を目指すのは現実的ではない。

だとすれば、日本企業が磨くべきは、規模や話題性ではなく、代替不可能性ではないか。市場規模は大きくなくてもよい。高成長でなくてもよい。しかし、産業にとって不可欠で、簡単には真似できず、なくなれば困る。素材、部材、装置、工程、品質保証、安定供給――そうした領域で強い地位を築くことは、日本企業にとって十分に現実的で、しかも強い戦略である。

実際、M&Aを含め多くの企業戦略をご支援する中でも、「大きな市場を追う」以上に、「自社が不可欠でいられる領域を深く押さえる」ことを重視する企業は少なくない。伸び率では目立たなくとも、高い品質、顧客との深いすり合わせ、継続供給への信頼、長年蓄積した製造知見によって、他社に代替されにくい地位を築いている企業は多い。こうした戦略は地味に見えるかもしれない。だが本質的には、限られた人材と資金を、自社が勝てる領域に集中する高度な資本配分である。しかも、それによって安定的なキャッシュを生み、景気変動や国際情勢の変化の中でも存在感を保つ。それは単なる守りではなく、変化の時代における、したたかな勝ち方である。

問いたいのは、ゼロ成長、あるいは低成長であっても、不可欠性が高く、持続的に稼げる企業を、私たちの市場が十分に評価できているのか、ということである。売上成長率だけでなく、代替不可能性、供給責任、キャッシュ創出力、資本配分の規律を、もっと正面から評価する土壌が必要ではないか。

成長一辺倒を超え、「生き残る力」が報われる経営へ。日本企業が変化の時代にしなやかに強さを発揮するためには、企業の戦略だけでなく、それを受け止める市場の物差しもまた、進化する必要があるのではないか。

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