景気循環による経済的影響は企業にとって不可避なものです。しかし、世界および地域経済に対し長期的な見通しを持つことにより、企業は景気循環のリスクを最小化することができます。デロイトは、世界のビジネスリーダーたちに必要な、マクロ経済、トレンド、地政学的問題に関する明快な分析と考察を発信することにより企業のリスクマネジメントに貢献しています。
本連載では、デロイトのエコノミストチームが昨今の世界経済ニュースやトレンドについて解説します。今回は、Deloitte Insightsに連載中のWeekly Global Economic Updateの2025年10月20日週の記事より抜粋して日本語抄訳版としてお届けします。

Ira Kalish

Deloitte Touche Tomatsu
チーフエコノミスト

経済問題とビジネス戦略に関するデロイトのリーダーの1人。グローバル経済をテーマに企業や貿易団体への講演も多数行っている。これまで47の国々を訪問したKalish氏の解説は、ウォール・ストリート・ジャーナル、エコノミスト、フィナンシャル・タイムズなどからも広く引用されている。ジョンズ・ホプキンス大学国際経済学博士号取得。

レアアースの戦略的重要性

1992年、当時の中国の指導者であった鄧小平は、「中東には石油があり、中国にはレアアースがある…これは極めて重要な戦略的意義を持つ」と述べました。彼は非常に先見の明がありました。というのも、1992年当時、レアアースという言葉を知る人はほとんどいなかったからです。今日でさえ、ほとんどの人はアンチモンやガリウムという言葉を聞いたことがないでしょう。しかし現在、レアアースは米国と中国の貿易摩擦の主要な争点になっています。より広範には、世界の最も高度で重要な産業や製品にとって、レアアースは極めて重要なものです。これらの産業や製品には、バッテリー、スマートフォン、半導体、そして高度な兵器が含まれます。

生産における中国の支配と実態

中国はレアアースの生産量では支配的な地位にありますが、埋蔵量ではそうではありません。2023年時点で、中国はレアアースの埋蔵量では世界の38%を保有していたのに対し、生産量では68%を占めていました。米国は埋蔵量の2%、生産量の12%を占めていました。しかし、インド、ベトナム、ブラジルは3カ国合計で埋蔵量の43%を占めていたのにもかかわらず、生産量はわずか1%に過ぎませんでした。このように、中国の優位性は埋蔵量よりも生産量に関係しています。中国以外でも生産拡大の余地はあります。しかし、インド、ベトナム、ブラジルはいずれも最近、米国の高関税の対象となっています。これは、米国企業による新たな生産能力の開発を制限する可能性があります。

しかし現時点では、世界は中国に依存しています。米国のレアアース輸入は中国からの輸入が78%を占めています。ドイツでは91%、英国では89%、日本では58%を占めています。そのため、レアアースの輸出を厳格化し、レアアースを輸出する企業に制裁を科すという中国の決定は、世界中で明らかに懸念事項となっています。中国からの輸入に100%の関税を課すと脅した米国の対応は、状況の改善にはほとんど効果がありませんでした。さらに、中国のこうした行動は、自国が大きな影響力を持っているという自負によるものでしょう。

中国の強硬の背景

一方で、中国からの輸出に対する規制は、時間の経過とともに他国のレアアース生産への投資を増加させる可能性があり、この市場における中国の影響力を全面的に低下させる可能性もあります。その一方で、中国はその成長の多くを輸出に依存する相対的に成長が減速する経済です。米国への輸出は急減しているなか、ほかの国々への輸出は急速に拡大しています。しかし、その代償は何なのでしょうか?

ブルッキングス研究所が発表した研究では、中国の米国以外向け輸出の急成長は、利益率の低下という代償を伴っていると示唆されています。この研究では、中国の輸出企業は「新たな市場で需要を生み出すために大幅な値引きを行っているか、米国への積み替えに伴う輸送コストの上昇に直面している。いずれにせよ、中国の輸出部門は非常に深刻なショックを耐え忍んでいるようだ」と述べられています。同研究所は、中国の輸出企業の利益率が低下していると結論付けています。そして、「中国は輸出依存型経済であり、その終わりは時間の問題だ。レアアースに関する強硬な戦術は、強さではなく弱さに起因している」とも結論付けています。

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Deloitte Global Economist Networkについて

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