米国の経済成長は予想以上に堅調
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
増島 雄樹
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
バリュエーション&モデリング
上田 翔一

景気循環による経済的影響は企業にとって不可避なものです。しかし、世界および地域経済に対し長期的な見通しを持つことにより、企業は景気循環のリスクを最小化することができます。デロイトは、世界のビジネスリーダーたちに必要な、マクロ経済、トレンド、地政学的問題に関する明快な分析と考察を発信することにより企業のリスクマネジメントに貢献しています。
本連載では、デロイトのエコノミストチームが昨今の世界経済ニュースやトレンドについて解説します。今回は、Deloitte Insightsに連載中のWeekly Global Economic Updateの2025年9月29日週の記事より抜粋して日本語抄訳版としてお届けします。
目次
Ira Kalish
Deloitte Touche Tomatsu
チーフエコノミスト
経済問題とビジネス戦略に関するデロイトのリーダーの1人。グローバル経済をテーマに企業や貿易団体への講演も多数行っている。これまで47の国々を訪問したKalish氏の解説は、ウォール・ストリート・ジャーナル、エコノミスト、フィナンシャル・タイムズなどからも広く引用されている。ジョンズ・ホプキンス大学国際経済学博士号取得。
上方修正されたGDP確報値
政府が発表した確報値では、米国の第2四半期の実質GDPは改定値を上回る成長率となりました。雇用の伸びが緩やかな時期ながら、どのようにして力強い回復を実現したのでしょうか。
まず、政府発表の確報値では、第2四半期の実質GDPは前期比年率3.8%の増加となりました。この数値は、速報値である3.0%、改定値である3.3%を上回っています。要因は、個人消費の伸びが大幅に上昇修正されたこと、企業投資の減少幅が鈍化したこと、そして輸入が大きく減少したこと(これはGDP成長率にプラスの影響を与える)によるものです。
高い成長率の要因は、輸入が大幅に減少したことです。(物価調整後の)財の実質輸入は前期比年率35.0%減少しました。輸出入と政府支出の影響を除くと、実質GDPは年率2.9%の増加でした。GDPの速報値を発表した際には、この数字は1.2%の増加にとどまっていました。基礎的な成長力を示すこの指標は、経済の鈍化を示しているように見えました。しかし、確報値によって、第2四半期の基礎的成長力は非常に強かったことが明らかになりました。
速報値と確報値の主な違いは、消費支出と輸入を通した消費の影響です。第2四半期の雇用の伸びが弱かったことを踏まえると、消費支出の強さはやや意外なものです。しかし、実質可処分所得(税引後・物価調整後の世帯所得)は年率3.1%で増加し、2024年第1四半期以来の高い伸びでした。これは、労働市場の引き締まりを背景とした強い賃金上昇が反映されています。
また、年後半から来年にかけての関税による物価上昇を見越して、家計が支出を増やしている可能性もあります。仮にそうであれば、物価が大幅に上昇し始めた際に、個人消費の伸びが鈍化する可能性があります。さらに、来年の物価上昇は関税だけが原因ではありません。制限的な移民政策による労働力不足や、データセンターの急速な拡大による電力コスト増加も、物価上昇に影響を及ぼします。
いずれにせよ、明確な経済の強さは、利下げによる金融緩和の継続を検討するFRB(米連邦準備制度理事会)に一考を促すかもしれません。最終的に、FRBは一時的なインフレを許容しつつも、急激な経済減速の危機を懸念しており、金融緩和政策を選択したのは明らかです。今回の確報値によって、その主張は困難になります。そして、FRB内では将来の金融政策の方向性について活発に議論される可能性があります。実際、米シカゴ連銀オースティン・グールズビー総裁は、「(インフレが)一時的ですぐに収まる前提で、過度に利下げを前倒しすることには違和感を覚える」と発言しています。インフレが一時的という想定は、景気の弱さが、賃金と物価がスパイラル的に上昇することを防ぐため、持続的なインフレにはつながらないという見解に基づいています。一方で、グールズビー総裁は「雇用市場は概ね安定している」と言います。その結果、インフレ率の上昇が持続する可能性があります。
個人消費の堅調な推移
米国政府によると、8月の家計貯蓄率は5か月連続で前月比低下し、家計支出は所得を上回りました。実際、これは新規雇用の著しい減少にも関わらず、経済の継続的で強い成長に寄与しています。一方、耐久財の価格が2022年12月以来最速のペースで上昇したこと等の要因により、FRBが重視するインフレ指標は上昇を示しました。これは関税の影響が強まったことを示している可能性があります。詳細を確認してみましょう。
8月の家計貯蓄率(可処分所得に対する貯蓄の割合)は4.6%に低下し、2024年12月以来の最低水準、2022年12月以降で2番目に低い水準となりました。このため、実質可処分所得は7月から8月にかけて0.1%しか増加しなかったものの、7月から8月にかけ実質個人消費支出は0.4%増加しました。これには、(インフレ調整後で)耐久財支出の0.9%増、非耐久財支出の0.5%増、サービス支出の0.2%増が含まれています。
なぜ8月に個人消費は底堅く推移したのでしょうか。2つの理由が考えられます。1つ目は、株価が急騰し、比較的裕福な世帯の資産を増加させたことです。2つ目は、関税による物価上昇の予想が、家計支出を前倒しにしている可能性です。
一方、政府はFRBが重視しているインフレ指標である個人消費支出デフレーター(PCEデフレーター)を発表しました。PCEデフレーターは8月に前年同月比で2.7%上昇し、2月以来で最も高い上昇率となりました。変動の大きい食料品とエネルギー価格を除いたコアデフレーターは、前年同月比で3.0%上昇しました。これは7月と同水準で、2月以来の最高値でした。
さらに重要なのは、8月の耐久財価格は前年同月比1.2%上昇し、パンデミック末期の2022年12月以来の高い伸びを記録したことです。サプライチェーンの混乱により耐久財価格が押し上げられたパンデミック期間を除けば、この上昇率は1995年以来最大となりました。また、非耐久財価格は0.7%上昇、サービス価格は3.6%上昇しました。特にサービス価格は数カ月間安定して上昇しています。
消費者心理の動き
ミシガン大学によると、米国の消費者心理は再び低下しました。消費者信頼感指数は8月から9月に5.3%低下し、前年同月比では21.6%低下しました。この指数は、関税に関するニュースが不安材料であった4月、5月には、さらに低い水準で推移していました。この2カ月を除くと、9月の数値は2022年11月以来の最低値となりました。
消費者信頼感指数の低下は、全ての年齢層、所得層、学歴層で見られました。唯一の例外として、株式の保有比率が大きい家計の消費者心理は改善しました。
※本記事と原文に差異が発生した場合には原文を優先します。
Deloitte Global Economist Networkについて
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