景気循環による経済的影響は企業にとって不可避なものです。しかし、世界および地域経済に対し長期的な見通しを持つことにより、企業は景気循環のリスクを最小化することができます。デロイトは、世界のビジネスリーダーたちに必要な、マクロ経済、トレンド、地政学的問題に関する明快な分析と考察を発信することにより企業のリスクマネジメントに貢献しています。
本連載では、デロイトのエコノミストチームが昨今の世界経済ニュースやトレンドについて解説します。今回は、Deloitte Insightsに連載中のWeekly Global Economic Updateの2025年8月25日週の記事より抜粋して日本語抄訳版としてお届けします。

Ira Kalish

Deloitte Touche Tomatsu
チーフエコノミスト

経済問題とビジネス戦略に関するデロイトのリーダーの1人。グローバル経済をテーマに企業や貿易団体への講演も多数行っている。これまで47の国々を訪問したKalish氏の解説は、ウォール・ストリート・ジャーナル、エコノミスト、フィナンシャル・タイムズなどからも広く引用されている。ジョンズ・ホプキンス大学国際経済学博士号取得。

データセンターによる電力使用量の増加と国の電力供給状況

2023年、米国のデータセンターによる電力使用量は国内全体の使用量のうち4.4%を占めていました。米エネルギー省は2028年までにこの割合が12%に上昇する可能性があるとしています。もしそうなれば、米国の発電量を大幅に拡大させる必要があります。そうしない限り、ほかの用途での電力使用を減らさざるを得ません。これは、今後数年間における生成AIの導入に立ちはだかる最大の障壁の一つかもしれません。

問題は、近年増強された発電容量のほとんどが再生可能エネルギーによるものであることです。実際、2024年の最初の8カ月間であらたに生み出された発電容量の90%が風力発電か太陽光発電によるものでした。しかし、今年議会で可決された大型の税制法案(OBBBA)によって、再生可能エネルギーへの投資に対する一部の優遇措置が撤廃または削減されました。

電気料金の高騰と再生可能エネルギー

今年7月、米国の1kWhあたりの平均電気料金は、1年前と比べ6.2%上昇しました。さらに、20221月以降、米国では電気料金が33%上昇しています。2022年の値上がりはパンデミック後の需要回復によるものと考えられますが、直近の急激な上昇はデータセンターの増加が一因となっていると考えられます。

需要の急増は発電容量の増加を大幅に上回っているようです。今世紀における発電容量増加のほとんどは、風力と太陽光を中心とした再生可能エネルギーによるものでした。再生可能エネルギーのシェアが高い地域の方が、シェアの低い地域よりも電気料金の上昇幅が小さくなっていることは注目すべき点です。なぜこうしたことが起こっているのでしょうか?おそらく、発電容量の増加が主に再生可能エネルギーへの投資によってもたらされているからだと考えられます。そのため、再生可能エネルギーへの投資が不十分な地域では発電容量の不足がより深刻になり、価格が押し上げられているのです。

生成AIによるマクロ経済への影響

また、データセンター事業者の多くは自ら発電設備を建設しています。これは化石燃料の供給に圧力をかけ、電気料金を押し上げる可能性があります。データセンターへの投資が十分な利益を生み出し始めなければ、生成AI市場に関連する企業には倒産するものも出てくる可能性があります。実際、こうしたことは四半世紀前、インターネットの急成長期に多くの企業が光ファイバーへ多額の投資を実施した際に起こっています。多くの企業が倒産したことで株価が下落し、2000年から2001年の景気後退の一因になりました。

最後に、電気料金の上昇には二つの大きな問題があります。一つめに、電気料金が上昇することは家庭でほかの支出に回せる自由なお金が減ることを意味します。これは個人消費の伸びを抑える可能性があります。二つめに、重工業などエネルギー集約型産業にとってはコスト増加を意味し、最終的に、消費者が直面する販売価格への転嫁を招く可能性があります。

※本記事と原文に差異が発生した場合には原文を優先します。

Deloitte Global Economist Networkについて

Deloitte Global Economist Networkは、デロイトネットワーク内外の視聴者向けに興味深く示唆に富むコンテンツを発信する多様なエコノミストのグループです。デロイトが有するインダストリーと経済全般に関する専門知識により、複雑な産業ベースの問題に高度な分析と示唆を提供しています。デロイトのトップマネジメントやパートナーを対象に、重要な問題を検討するレポートやThought Leadershipの提供、最新の産業・経済動向にキャッチアップするためのエクゼクティブブリーフィングまで、多岐にわたる活動を行っています。

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