景気循環による経済的影響は企業にとって不可避なものです。しかし、世界および地域経済に対し長期的な見通しを持つことにより、企業は景気循環のリスクを最小化することができます。デロイトは、世界のビジネスリーダーたちに必要な、マクロ経済、トレンド、地政学的問題に関する明快な分析と考察を発信することにより企業のリスクマネジメントに貢献しています。
本連載では、デロイトのエコノミストチームが昨今の世界経済ニュースやトレンドについて解説します。今回は、Deloitte Insightsに連載中のWeekly Global Economic Updateの2025年7月28日週の記事より抜粋して日本語抄訳版としてお届けします。

Ira Kalish

Deloitte Touche Tomatsu
チーフエコノミスト

経済問題とビジネス戦略に関するデロイトのリーダーの1人。グローバル経済をテーマに企業や貿易団体への講演も多数行っている。これまで47の国々を訪問したKalish氏の解説は、ウォール・ストリート・ジャーナル、エコノミスト、フィナンシャル・タイムズなどからも広く引用されている。ジョンズ・ホプキンス大学国際経済学博士号取得。

米国では最近、大学新卒者が就職難に直面しているとの報道がなされている。若年層の失業率は常に比較的高い傾向にあるが、大学新卒者の失業率は若年層全体より大幅に低い状態がこれまで続いていた。現在、大学新卒者の失業率は若年層全体の失業率をわずか1ポイント程度しか下回っておらず、これは極めて異例である。さらに、大学新卒者の失業率は過去10年以上で最も高い水準に達している。

政策の不確実性がもたらす労働市場の停滞

一部の識者は、こうした就職難の原因は生成AIによってエントリーレベルの職が奪われていることにあると指摘する。そうした状況は確かに一部のテック企業では当てはまる可能性があるものの、経済全体に当てはまるとは考えにくい。単純に、労働市場全体に大きな影響を及ぼすほど生成AIの導入は進んでいない。むしろ、より可能性の高い説明としては、米国における政策の不確実性が採用活動を冷え込ませていることが挙げられるだろう。これは特に高スキル労働者に当てはまる。貿易政策、移民規制の影響、そして米連邦準備制度理事会(FRB)による金融政策の行方をめぐる不確実性が存在しているが、こうした不確実性は採用の意思決定だけでなく、労働者の転職行動にも影響を及ぼす。離職率は現在極めて低く、労働者の不安感を反映している。そして、労働者が既存の職を辞さないならば、労働市場での人の入れ替わりが減り、公開しうる求人数も減少することになる。

飽和する高スキル労働者

最後に、大学新卒者の失業率が従来低かった理由の一つは、高スキル労働者が不足していたことにあった。技術革新によってより高スキルを持つ労働者の需要が高まる一方で、今までは供給が追い付いていなかった。高スキル労働者の不足は、大学教育を受けた労働者に対する大きな賃金プレミアムを生み出し、賃金プレミアムは拡大してきた。しかし現在、より多くの人々がスキルの獲得へと向かった結果、この賃金プレミアムはピークに達し、縮小し始めている可能性がある。このように、高スキル労働者の不足は緩和されつつあるようだ。

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Deloitte Global Economist Networkについて

Deloitte Global Economist Networkは、デロイトネットワーク内外の視聴者向けに興味深く示唆に富むコンテンツを発信する多様なエコノミストのグループです。デロイトが有するインダストリーと経済全般に関する専門知識により、複雑な産業ベースの問題に高度な分析と示唆を提供しています。デロイトのトップマネジメントやパートナーを対象に、重要な問題を検討するレポートやThought Leadershipの提供、最新の産業・経済動向にキャッチアップするためのエクゼクティブブリーフィングまで、多岐にわたる活動を行っています。

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